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これが黒永悠。⑤



〜金翼の若獅子 演習場前〜


開始時刻まであと僅か。

俺は三階から移動し演習場付近で待機している。


「…お待たせしました。号令があり次第、演習場中央へお進み下さい」


「は、はい」


「緊張されてるのですね」


「……」


当然だろ。なんだよこの観客の熱気は…ってかここってあの演習場!?


もう闘技場やん。


第8区画の闘技場の規模には及ばないが観客席が建築されてる。昇格依頼の為だけに増築するって無駄な出費してんな〜…。


「…私はユウさんを個人的に応援してます。どうか頑張ってください」


ギルド職員の男性が励ましてくれた。


「あ、ありがとうございます」



『Sランク昇格依頼受注者…黒永悠…入場せよ!』



俺を呼ぶ声が聞こえた。…拡声器でも使ってるのか良く響きやがる。


「どうぞ」


促されぎこちない足取りで進む。


うわぁ…めっちゃ人いるよ…。


演習場へ足を踏み入れた瞬間、大きな花火が打ち上がった。…やめてぇ!!緊張を煽らないでぇ!?



〜演習場 観客席〜



「みてみて!!ユウさんだよ!」


「…緊張してんなぁ。大丈夫か〜」


「案外、緊張しいだからな」


「が、顔面、真っ青じゃん。…いっつも涼しい顔して無茶なことしてんのに」


「悠さーん!落ち着いて〜!?」


「シャッキとしろやユウッ!!緊張してんじゃねーー!!」


フィオーネとモミジが檄を飛ばす。


「…人前が苦手なんでしたね。闘技場の控室でもあんな感じだったもの」


「ユウ!!気合い入れてけ気合い!!」


「頑張るんじゃぞぉ〜」


「俺たち職人の誇り…『ヘパイカトスの化身』なんじゃあ!!ぶっ潰しちまえ!!」


「くっ…くくくくく!!あはははは!…ゆ、悠のあんな顔は初めて見たぞ…」


「意外とすもーるはーと。ばとるはきっとのーぷろぐれむだけど」


「…アルマ師匠に報告することができた」


ーーきゅきゅきゅ〜!!


演習場の中央で実技試験官の九人と対峙する悠。


既に会場の熱気は頂点だ。他の観客席から見守る豪華な面子も目を離さず見守っている。


ヴァナヘイム国の姫と親衛隊。

他冒険者ギルドのGMギルドマスターに幹部。

第三騎士団の騎士部隊の面々。


……そして金翼の若獅子が誇る最高戦力の十三等位とその部下達。盛り上がらない筈が無い。


『静粛に』


拡声魔導具を手に持つラウラの一言に徐々に会場の歓声と騒めきが鎮まった。


『…本日、金翼の若獅子の演習場にて行われるSランク昇格依頼の実技試験に大勢の関係者並びベルカの市民の方々にお越し頂いたことを金翼の若獅子を代表し御礼を申し上げる』


拍手と歓声が再び巻き起こる。


『実技試験の総合審査官を務めるのは僕を含めこの中央に立つ二人。ベアトリクス・メリドーとユーリニス・ド・イスカリオテだ。…エンブレムと冒険者ギルド法に誓いを立て厳格な基準の下、審査させて頂く』


『実技試験の注意事項は…


①試験終了は受注者及び試験官が戦闘不能となるか降伏を宣言する…この二つだ。だが試験官と受注者の怪我の状態により続行が難しい際は人命を最優先とし総合審査官三名の判断で終了する場合がある。


②時間無制限。あらゆる戦闘能力の使用を許可。また携帯品の持ち込みに制限なし。


③戦闘方法の制限は無い。多人数戦を想定し実技試験官の裁量に任せる。


④試験終了後、審査結果に対する不服申し立ては一切、受け付けない。


…以上となる。今回の実技試験は試験官の人数も多い。外部からの横槍を防ぐ為でもあるが観客席への被害を想定し結界魔法陣を四重に展開する。うち一つは僕が展開しよう』



「かなり強堅な結界魔法になるぞ。あの九名の中で破れる者など居らんだろうに。…いや、悠の為か」


「いえす。暗にふるすろっとるで戦っても良いよって言ってる」



『では結界を展開する。…断絶し乖離せよ。灰界のウルティマ』



観客席と演習場の間に透明の蒼い膜が重なり最後に灰色の膜が覆い尽くす。


結界の中に残されたのは実技試験官と悠のみ。


『準備は整った。中央から離れ端に待機せよ』


互いが演習場の端へ移動する。


静寂が訪れ実技試験官の九名が武器を構えた。



「…ゆうーーー!!がんばってーーっ!!」


ーーきゅううう〜〜!!



静寂を破るようにアイヴィーが声を振り絞り声援を送る。悠が気付き手を挙げ応えた。


そして…。



『これより黒永悠のSランク昇格依頼実技試験を開始する。力を示し相応しき証を立てよ…始め!!』



試験開始の幕が切って落とされた。



〜午後14時 金翼の若獅子 演習場〜



『…準備は整った。中央から離れ両端に待機せよ』


ラウラの指示に従い端へ移動する。


対峙した九人は俺をめっちゃ睨んでたなぁ。ミミちゃんも不機嫌そうだった。…なにか悪いことしたっけ?


しかし、制限無しの実技試験か。実力も能力も未知数の九人を同時に相手をするの面倒だな。



『…ゆうーーー!!がんばってーーっ!!』


『ーーきゅううう〜〜!!』



アイヴィーとキューだ。皆も観てる。

手を挙げ応えた。


さっきまで緊張でガチガチだったが……うし!


腹を括ろう。





『これより黒永悠のSランク昇格依頼実技試験を開始する。力を示し相応しき証を立てよ…始め!!』




号令と共に此方へ猛スピードで迫り来る侍と剣士。


ゲンノスケさんと薔薇の鎧を着た人は…多分、鉄騎隊の…名前はなんだろ。


「参る」


「唸れ鉄剣アイゼンオール!!」


刀と大剣の猛襲。体を翻し避ける。巧みに連携し繰り出す攻撃は悪くない速さだ。


ゲンノスケは基本、鋭い連撃を…薔薇の鎧の人は重い一撃を…それぞれ振るう。


「飛燕」


「バスター・エッジ!」


横一文字に飛ぶ斬撃と地面を破る両断の攻撃。


…うん。速度も威力もアジ・ダハーカの通常攻撃の足下にも及ばない。


これ位なら当たっても大丈夫そうだが避けとこ。


「ぐっ!?なんて速さだ。…捉えられん」


「こうも簡単に避けるとは」


二人から距離を取る。


「ギャーハハハッハァ!」


む。今度はパンク風の派手な衣装のお姉ちゃんか。


あれは……糸?


肉骨裁断鋼糸術ミート・カット


なんだこりゃ。ピアノ線を武器にしてんのか。迂闊に触れると体が切れそう。


左右にステップを踏んで前に出てっと!


「…はぁ!?」


「はいはーい。お次はこっち〜…魔砲発射!」


チャラそうな青年が翳した手から橙色の光線が放たれる。一発、二発、三発と続けて撃ってくるが…うん。


中々の威力だが発動まで遅い。


はいはい。回避、回避。


「うわっ。マジかよ」


今度は月霜の狼の二人だ。


「征くぞ!御津蜂流・兜斬り」


「巫術・歯牙爆狼符しがばくろうふ


ドグウ大隊長が俺の頭を目掛け大刀を振り下ろす。


…殺す気で振り下ろしてないか?


飛び退くと後方から二匹の狼の幻影が噛み付こうと疾走してきた。


あ、この女の人ってモミジの身体検査をした人じゃん。


壁際まで待機し跳躍した。壁に衝突した狼は爆発起こし霧散していく。


結界魔法のお陰で爆風は観客席まで及ばない。



「うおおおお」



着地するとおっさんが叫びながら大盾と槍を携え突進してきた。


「シールドォ!チャァアアジィッ!!」


大盾が光を纏い衝撃の範囲を広げる。…一本角にがっしりした体格はボッツに似てる。


横にダッシュして避ける。


「…なに!?」


砂塵を巻き上げ反対側に移動すると背中から嫌な悪寒を感じた。


付纏つきまとい素首落(そっくびおとし)


…この声はネーサンさんか!


どんな方法を用いたか知らないが背後から急に現れ湾曲した剣が喉元に迫る。


慌てて首を引っ込め前方に逃げた。


「にゃっにゃーん!!キャットウォーク!」


今度はミミちゃん。


両手に付けた鉤爪を揺らながらし突進してきた。


おぉ。鉤爪の連続攻撃か……結構、速い。


「むきぃ〜!!黙って当たれにゃ!」


ふ、ふざけんな!無理に決まってんだろ。


頃合いを見て再び距離を取り中央に陣取った。


九人が円に囲み俺を見てる。その顔は驚愕の色を隠せていない。


ふぅ…一旦、攻撃が落ち着いたかな。


湧き上がる大歓声。避けてただけなのに盛り上がってんなぁ。


「噂は本当だったか。こりゃ本腰入れてやらなゃあ『ケイドムの堅者』の名折れだぜ」


大盾を構え直したおっさんが呟く。この人がダンか。


「…こうも易々と躱されるとはね。私の技から初見で逃げられる奴はそうは居ないわよ」


「逃げ足の速いやつにゃ。きっと日頃からセクハラばっかして逃げてるから速いのにゃ」


ミミちゃんってば酷くね?


「けどよぉ〜!避けてばっかじゃ敵は倒せねぇ。…なぁ『灰獅子の懐刀』ァ!?余裕を見せてるつもりか?…舐めてっとその尻穴みてぇな顔にどキツいのブチ込むぞ…あぁ!?」


え、えぇ…?このお姉さん怖っ。


「…ごめん。君は誰かな?」


「…………」


顔を引攣らせ血管が浮き出る。


「ぷはははははは!!?お前なんて知らねーってよ…『鋸蜘蛛』ちゃんの知名度も大したことねーなぁ〜」


「…黙れツヴァイ…。テメェからブッ殺すぞ」


鋸蜘蛛…ツヴァイ…なるほど。


あのパンク風のお姉さんがリシュリー。青年は橙の魔砲使いと。


段々、顔と名前が一致してきたぞ。


「悠長に自己紹介してる場合ではなかろうに」


「…ああ。我が鉄剣の錆にしてくれよう」


二つ名から察するにこの人はジムだな。


さーてっとこの先の展開はどうしよう。この人達にも面子があるだろうし怪我をさせたくない。


手を抜いて善戦を演じギブアップすべきか…いや、それはそれで失礼だよな。うーん。まさかこんな事で悩む日が来るとは思わなかった。


「囲まれたこの状況でも余裕そうだな。恐れを知らぬ勇者か…はたまた愚者か…」


ドグウ大隊長にサラが続く。



「ですね。…()()()()()()()()()()を家族と嘯くだけある。面の皮が厚い」



聴き逃せない言葉だった。


「…今、何て言った?」


目配せする二人。


「…顔色が変わったわね。あなたは忌み嫌われた吸血鬼の末裔を飼っているんでしょう?…我等も闇ギルドの残党狩りで吸血鬼は幾人か殺した。その生き残りが彼処の観客席で見ている少女……名前はアイヴィー・デュクセンヘイグだったかしら」


挑発するようにサラは言った。


「あー。あのガキも『金翼の若獅子』に来た当初は泣いてばっかで皆からイジメられてたからな〜。…さっさと自殺でもすりゃ両親とも会えたのに。俺ならそーするね」


軽薄な口調でツヴァイが会話に混ざる。


「…闇ギルドに所属した父か。業が深き者よ。子に罪は無いが他の者の嗜虐心を煽るのも致し方無し」


「『獅子抗争』の経験者は例外なく嫌ってる。…()()()冒険者ギルドの汚点だ。市民やギルドメンバーの中には好いてる者が居るようだが……。平和しか知らぬ者には分からんのだろう。ヴァンパイアの悍ましさがな」


「ここまで嫌われる化け物と偽りの家族に興じるあなたも十分、同類ですね。ルツギ指揮菅の仰る通り姫の友を名乗るに相応しくない」


「……サラ。その辺にしとけ」


「はっ」


………。


「忠告する」


アイヴィーを侮辱した面子に向け言った。


「…俺は家族や友人への悪口で火がつく性質タチだ。謝れ。…じゃないと後悔する羽目になるぞ」


「…あーーっ…さっきからウダウダとめんどくせぇな!?…火がつくぅ?後悔するぅ?…薄汚い吸血鬼の糞ガキがなんだってんだ。それともあのガキに欲情してンのか?…ククっ!面はいいからなぁ。真性包茎でペド野郎の性玩具にゃあ打ってつけだろうよぉ!!」


「ちょ、ちょっと言い過ぎにゃ」


「…やれやれね。興醒めするわ」


「月霜の連中、余計なことを言いやがって……。気分が悪ぃぜ」


「……」


挑発ってことは重々、理解してる。


「………」


バルバリンの時も同じだった。


「…………」


聴き流せば良いかも知れない。


「……………」


…俺は知ってる。アイヴィーの健気な努力を。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…アイヴィーは悠と出会って変われたよ』


『ずっと一緒にいたいから。ずっと傍で支えたいから……強くなりたいの』


『必ず追いつくから。悠に何があってもアイヴィーが悠を守れるように』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…誰かの為に頑張り慕われる姿を。


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『勉……まぁ、元気なら良いんだ。冒険者ギルドはこんな状況だし…ベイガーが顔を見て話したいって言ってたと伝えておいてくれ』


『あははは!口を開けばアイヴィーのことばっかなんだから。自分の娘みたいに気にしてんのよ』


『おう!アイヴィーとキューじゃねぇか』


『あらあら。アイヴィーちゃんにキューちゃんも。お菓子食べる?』


『この間は力仕事を手伝ってくれてありがとな』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


…漸くここまで…変われた少女アイヴィーを穢らわしいだと。…お前らが一体…何を知ってるんだ?


俺の侮辱は良いさ。幾らでも許してやる。



「「「「「「「「「!!」」」」」」」」」



…だがな大事な家族への侮辱は許さねぇぞ…!


燃え滾る溶岩のように湧き上がる怒りと憎悪が体中の血を沸騰させる。


敵を叩き潰せと心を衝き動かした。


「ありがとう」


忠告はした。無視したのはお前らだ。


「気合いが入ったよ」


…後悔すんなよ。()()()()()()()()()()



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