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これが黒永悠。②

7月5日午前11時36分更新。



〜金翼の若獅子 三階フロア 特別応接室〜


「ーーこちらでお待ち下さい」


ギルド職員に案内され三階の特別応接室に通された。


…今日はギルド内がやけに静かだ。人も少ないし活気がない。Sランク昇格依頼があるとこうなのか?


特別応接室は三階の絢爛さに似つかわしくない質素な部屋だった。


小さなテーブルと椅子が二つあるだけ。


壁一面は真っ白で窓もない。


仕方ないので椅子に座り面接担当者を待つ。


確か担当者の名前はミコー・フェム・ダルタニアスだっけ。…どんな人だろう。


〜10分後〜


「そろそろ10時かな。時計がないから分かり辛い」


〜20分後〜


「……約束の時間は過ぎてるよな」


〜30分後〜


「………何かあったのかもしれない」


〜1時間後〜


「…………」


〜1時間30分後〜


「……………」


遅い。遅すぎる。約束の時間は大幅に過ぎてる筈だ。

誰も言いに来ないし時間を間違えてんのか?


苛々していると扉が開いた。



「…ふぅー…」



ふらふらと覚束ない足取りで歩く亜人の女性。

幽鬼のような足取りだった。


全身に包帯を巻き白衣を羽織った奇抜なファッションに瞳が描かれた目隠しの布で両眼を塞いでいる。


色素が抜け足まで伸びたと真っ白な髪。歩くと揺れる猫耳と尻尾。…スタイルは良いが猫背で台無しだ。


文句の一つでも言ってやろうかと思ったが予想を超えた人物の登場に呆気に取られる。


「ふぅー…ふぅー…怠い」


…今、怠いって言ったよなこの人。


漸く椅子に座った。


そもそも目隠しで平然と歩けるのが疑問。


「……やぁやぁ。遅れてごめん…ボクにゃんは『金翼の若獅子』所属のぉ…ランカー…序列第4位…『天秤』のミコー・フェム・ダルタニアス…。よろしく」


「よ、よろしくお願いします」


「…あぁ。それで…君が…噂のえっと…黒船丸だっけ?」


「黒永悠です」


誰がペリー来航じゃい。


「あー…それそれ…。Sランク昇格依頼の面接を……ボクにゃんが担当するから…質問に答えてねー…」


やり辛くて仕方ない。


「…んんんー……やっぱりぃ…さっきから…気になってたけど……間違いないねー。…君は…()()()でしょ…」


「!」


なんで分かったんだ。


「…禍々しい…まるで呪い。…ふぅー…近年稀に()()大当たり。…ナニと…契約したか…知らないけど……とんでもないの宿してるにゃん」


理屈は分からないが嘘をついてもバレるな…。


「…貴女の言う通り契約者ですがどうして分かったんですか?」


「…ボクにゃんは…人が感知できない……特別な魔力・気配・物体を視る…固有スキル『天眼』の持ち主だよ。…有名だと思ってたけど…知らない子もいたんだ」


天眼…。


「……うん。それに…肌が痛くなる…ほど…強い魔力の滾り…君は…AAAランクの冒険者とは思えない。……遥かに凌駕してるよ…十三等位級…うーん。…それ以上かも…にゃん。…これは予想外だね…」


今度は魔力探知マギ・ディテクトか。


「…にしても…契約者…契約者…契約者かぁ……イイじゃん。…ちょっと髪の毛貰ってもいい?」


「か、髪の毛?」


「研究で使おっかな……って」


「嫌です」


「…つれない。つれないなぁ…」


「…これ面接ですよね?他に質問はないんですか」


「あー…そーだねぇ…えっと…なに聞くんだっけ…?」


「えぇ」


ぐでーんと机に両手を伸ばすミコーさん。


「……思い出した…経歴とか…誕生日とか…家族構成とか…その他もろもろ…よろしくにゃん」


この人は本当に面接官か?


〜15分後〜


「……んー…噂で聞くより…存外、普通だねぇ。…契約者の可能性が高いって……聞いてたし…実際、契約者だったから…頭のネジが三つぐらい…吹っ飛んでると思ってたのに」


「普通の冒険者ですよ」


「……じゃあ…黒豆くん」


「黒永です」


「…ラウラも…エリザベートも…ルウラも…言ってたけど…君はお金や栄誉に興味がない…らしいね?」


ついに名前の言い間違いを無視しやがった。


「はい。あまり興味はないです」


「…なんでSランクの昇格依頼を…受けたんだい?」


やっぱり聞かれるよなそれ。


「済し崩し的にって感じです」


「…済し崩し的…かぁー…。…望まないなら…拒否すれば……良いのに損な性格だね。…君には…ふむ。女難の相が…見えるにゃん」


「……」


女難、ねぇ。知り合いに女性が多いのは事実だ。


「…質問を変えよっか。…君はGランク依頼を…積極的に…受けてるんだろ。…危険なモンスターを…相手に無報酬…で…戦うのはなんで?」


「困ってるから助けるだけです。報酬金を払えないからって人命を見捨てて良い理由にはならない」


「……対価に見合う…等価交換は世の真理。だから…冒険者ギルドが成り立つ。…全てを救うことは叶わない……」


「…この絵を見てください」


貪欲な魔女の腰袋から取り出した一枚の紙。


「…子供の…ラクガキ…?」


「カナ村でアルカラグモを討伐した際に依頼主の子供が描いてくれた俺の絵です。貴女にはラクガキに見えるでしょうが……俺にはお金より大事な宝物だ」


「……」


「見出す価値観は人それぞれ違う。…だから理由を幾ら聞いても貴女の納得する答えは得られないと思いますよ」


「……ふぅー……」


ミコーさんが目隠しをずらすと白い十字の瞳孔の双眸が露わになった。綺麗で不思議な瞳だ。


…ってかめっちゃ美人じゃん。


目隠しで顔を隠すのが勿体ない。


()()()()


また目隠しをして机に突っ伏す。


「?」


「…にゃにゃにゃ…面白い。面白いねぇ。君に…興味が湧いたよ…」


「はぁ」


「…黒餅くん…面接はパスだ。おめでと〜。…実技試験も頑張ってね。…ボクにゃんの仕事は…これで終わり……にゃにゃ。ミミもきっと驚くだろうなぁ……」


「黒永です」


「…ごめんごめん。人の名前を…覚えるのが…得意じゃなくてね。…黒永くん。あとは係員の指示に従っ……あー…なんだっけ。もーいいや」


いい訳ねぇーだろ!


仕方ないので自分で係員を呼びに行った。


面接はこれで終了。呼び出されるまで三階の待合室で待機するように言われた。


勝手に部屋から移動しないよう厳重に念を押される。


…面接は無事、終わったがラウラの言う通りミコーさんはかなり変わった人だったなぁ。



〜数分後 特別応接室〜



「…うーん…うーん…」


「どうかされましたか?」


唸るミコーを見兼ねギルド職員が声を掛ける。


「…うーーーん…」


「あの…退室して頂かないと施錠が出来ないのですが」


「…()()()()()()()…行き交う鋼鉄の箱…見慣れない巨大な建造物……大勢のヒューム…あれは帝国ガルバディア?…いや…ボクにゃんが知る得る…科学力の水準を超越してた。…彼は一体、何処で…うーん…」


「……ミコー様?」


「んあ……まーいいや…戻ってゆっくり…考察しよ」


のそりと立ち上がりふらふらと出て行く。


「掴み所がない不思議な人だ…」


残された職員は一言呟き部屋を施錠した。


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[一言] 日本観られたぁぁぁぁぁぁぁ!(謎の危機感)
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