キューの成長!③
〜午後15時 第2区画 巌窟亭〜
巌窟亭に到着した。中に入ると…。
「ーーリヴァーエンドの『イットル武器屋』に卸す納品物は識別済みだ。運搬頼んだぜ。次は検品……ってこりゃ駄目だ。胴当てに凹みが目立つぞ。忙しいからって雑な仕上がりは許さねぇかんな。やり直してこい。…アンタは受注依頼だっけ。ほらよ。その用紙に内容を書いて必要な材料をカウンターに出せ」
モミジが職人・依頼者・運送業者を相手に対応中だった。大盛況っては聞いてたが人が凄いな…。
落ち着くまで待とう。
〜30分後〜
「ふぅー…やっとひと段落したか…」
「よっ。お疲れさん」
「お、ユウじゃん。来てたなら声かけろっつーの」
疲れた表情から一転しにこりとモミジが笑う。
「忙しそうだったから邪魔しちゃ悪いと思って」
「まぁな。…っつーか忙しいのはユウのせーだぞ」
「お、俺?」
「トモエ姫の依頼達成の噂がたった二日で蜘蛛の子を散らすみてぇに広まりまくって…ベルカだけじゃねぇ。近隣諸国・都市・街からも『巌窟亭』に足を運ぶ客が増えたんだよ。ファーマンのジジイは騒がれんのが……大っっっ嫌いで内々に依頼を済ませてたが今回の一件はそーはいかねぇだろ?お陰様で当分、仕事にゃことかかねぇーわ」
「なんかごめん」
「謝る必要はねぇ。仕事が舞い込んで忙しいなんざ嬉しい悲鳴ってやつさ。…ただ」
「ただ?」
「…『クロナガユウに弟子入りしたい』…って何人かひよっ子の鍛治師が訪ねてきたぜ?」
「断ってくれ」
弟子なんて要らんわ。
「はん。そー言うと思って断ったよ。…そうだ。渡すもんがあるしオレも休憩すっから茶でも飲もう」
「ああ」
カウンターの奥にある休憩室に移動した。
〜数分後 巌窟亭 休憩室〜
「ほらよ」
市販で売られてる渋味が強い茶葉で淹れた緑茶。
ほっとする味だ。
「前にも言ったがこれを受け取ってくれ。『巌窟亭』の皆伝通知書だ」
ぼんやりと光る魔紙には金槌を囲む武器のエンブレムが描かれている。
「そもそも皆伝通知書ってなに?」
「…知らなかったのか。皆伝通知書ってのは所属する職人ギルドでの功績が認められた者へ発行される特別な通知書だよ」
「おぉ」
「ファーマンのジジイが居ない今はオレが発行権限を持ってる。この紙はユウが『巌窟亭』に所属する超一流の職人だって証明する身分証みてぇなもんさ」
「…超一流ってまだまだ俺は未熟者だぞ」
「謙遜すんな。…あんだけの刀を鍛えて未熟者とかねぇーわ。受け取る資格は十二分にあっから黙って貰っとけよ」
茶を飲みながらモミジが言う。
「わかった。ありがたく頂戴するよ」
「おう頂戴しとけ。…あ、そうだ。武器屋に卸した品も直ぐに売れたぜ。仲介料を引いた代金42万Gだ」
納品依頼の代金を受け取った。
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職人ギルド
ギルド:巌窟亭
創作依頼達成数:6
受注依頼達成数:1
納品達成数:3
CP:1250
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所持金:1億1300万G
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小さい買い物ぐらいじゃお金が消費し切れない。どんどん貯まってく。使い道が思い浮かばないし貯金しよう。備えあれば憂いなしってね。
「ふふ」
不意にモミジが笑う。
「どうした?」
「…いやな、付き合いは短けぇーが…不思議と何年も一緒に付き添ったみてーに感じる。これからもお前が居るって思うとなんか……嬉しくなってよ」
「そう言って貰えて光栄だよ」
「ふん。こんなことお前にしか言わねぇーっての。…そりゃそうと『串刺し卿』から創作依頼がきてっぞ。受けるんだろ?」
「ああ」
「ほら、依頼書だ」
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創作依頼:至高の武器を。
依頼者: エリザベート・K・ツェルペリ
成功報酬金:200万〜1000万
依頼期間:- (定め無し)
内容:やぁ悠よ。知っての通り武器呪文付き突撃槍の製作を頼む。竜人族の筋力ならば重く扱い辛い物でも構まわん。…くくく。楽しみに待っているぞ。
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期間は定め無しか。…にしても成功報酬金が高いな。
「成功報酬金は仮に失敗しても手間賃としと最低200万Gは払うそうだ。…『金翼の若獅子』第11位の『串刺し卿』か。二年前に竜を従え一人でミトゥルー連邦非加盟国『ヤージュナシ』を制圧したのは有名な話だ。知ってるよな?」
ひ、一人で国を制圧…。
やべぇ。やべぇよエリザベート。
「知らない」
「え、マジで言ってんのか?」
「うん」
「嘘だろ。山奥にでも住んでたのかよ……ヤージュナシって国は統治してた王がネズミのゲロにも劣るクソ野郎でな。…罪もない民を面白半分に拷問して処刑したり…女と子供を集めてルルイエ皇国の奴隷商に売り飛ばしてたんだ。……純潔や混血問わずデミってのはヒュームより高く売れるってのが理由だ」
「見下げ果てた屑だな」
「ああ。…んで見兼ねた加盟国が『金翼の若獅子』に調査依頼を出した。それで派遣されたのが『串刺し卿』さ。調査の予定だったが『串刺し卿』はたった一日で軍隊を殲滅し王の身柄を確保。加盟国へ引き渡した」
「おお」
「エリザベート・K・ツェルペリが『串刺し卿』って呼ばれる由縁は軍隊の屍を王の宮殿に並べ串刺しの刑に処したからだ。……どんな方法を用いたか知らねぇがそれを見た王は恐怖から一瞬で白髪になって発狂しちまったんだと」
超過激派やん。悪人には一切の容赦無しか…。
「お、おぉ…ってかモミジって毛嫌いしてる割には冒険者ギルドに詳しいよな」
「当時の新聞に載ってた記事を覚えてるだけだっつーの。こんぐらい子供でも知ってんぞ」
「マジかぁ」
エリザベートにもそんな過去があったんだなー…。
「ユウもSランク昇格依頼を受けんだろ?うちもポスターの掲示を頼まれて貼ってるぜ。『灰獅子』からも個人的に連絡を貰ったしオレも観に行く。応援すっからがんばれよ」
「ラウラが…ああ。頑張るよ」
休憩室のドアが開きローマンさんと数人のドワーフが入って来た。
「ん?…ユウじゃねぇか!来てたんか。オメェさんのせぇで休む暇もねぇわガハハ!!」
「大仕事を片付けたばっかなんじゃ。ゆっくり休めば良いじゃろうに…」
「バッカヤロー。未来の『巌窟亭』を背負って立つ男だぞい。ジッとなんかしてらんねぇのさ」
「ファーマンの旦那にも早く会わせてぇな。…跡目問題も一気に解決したわけじゃし」
ローマンさんの一言に盛り上がるドワーフたち。
…跡目問題ってモミジもこの間、跡継ぎがどうとか言ってたっけ…。
「ちげぇねぇ!モミジ嬢とユウの二人が居りゃ心配ねぇな。お似合いだしよ」
「ユウが若旦那でモミジ嬢が若奥様か?…腕っ節の強ぇ夫婦になるわい」
「…う、うっせぇーな。さ、騒ぎすぎだぞ」
口調とは裏腹に満更でもない顔をしている。年上の男と夫婦に例えられても嫌な顔をしない優しさが素敵。
暫く皆で談笑する。
今更だがローマンさん以外のドワーフたちの名前も教えて貰った。何人か応援に来てくれるらしい。
…いよいよ情け無い姿は見せられないな。
用事も済んだし巌窟亭を出て帰路につく。
エリザベートの依頼に期限はないがルウラの武器と並行して作業を進めるとしよう。
…あ、帰ったらキューに討伐したモンスターを食べて貰わなきゃな。きっと大喜びで平らげる筈だ。




