キューの成長!①
〜百合木の月20日 ヌダン遺跡林〜
ーーギィ!…ギ…ギ…ギ…。
銃声が遺跡内に響き渡る。
炸裂した銃弾がモンスターの胴体を破裂させ体液と臓腑が辺りに飛び散る。数回、痙攣し絶命した。
「…こいつで最後だな」
ーーグリーバー・変異種×4を討伐ーー
ーークエストを達成しましたーー
「キュー食うかなぁ。グロ過ぎるわこれ…」
某国民的アニメ映画の赤目の蟲に似たモンスター。
死骸はさながら踏み潰された蛾の幼虫。大きさは4tトラック位だけど。
それにしても酷い死臭だ。腐った魚と酢を混ぜ合わせたような臭い…おぇ!気持ち悪くなってきた…。
「…死骸は肥料にしよう。生理的に無理だ」
飢餓竜の腰袋に死骸を集め肥料に変える。
ほんと便利な魔導具。
トモエの創作依頼達成から三日が経過していた。
あれから月霜の狼の親衛隊の連中は大人しく品行方正に努めている。
しっかり約束を守ってくれたのだ。
でも警護してる隊員が俺に気付くと視線を逸らすのがちょっと悲しい…。
金翼の若獅子で親衛隊と冒険者が揉めなくなり良好な関係とは言えないが適度な距離感を保っている……とフィオーネが説明してくれた。
反対に巌窟亭は忙しくなった。
ヴァナヘイム国の姫が認めた職人ギルドと噂になり依頼が殺到してるらしい。
今日の夕方に俺も顔を出す予定だ。
アイヴィーは稽古に没頭している。どんどん上達し貪欲に学ぶ姿を見てアルマは…。
『飲み込みが早いしやる気があるから教えてて楽しいわ〜』
…だそうだ。
俺はキューに食べさせるモンスターの調達で討伐依頼を主に活動してる。
強く厄介なモンスターの討伐依頼を選んでるつもりだが難無く狩っていた。…もっと歯応えが欲しいな。ほぼ一撃で終わっちゃうし。
集まったモンスターの死骸はこんな感じだ。
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・AAランク依頼
レッドドラゴンの死骸と素材×1
ウェンディゴ・希少種の死骸と素材×1
・AAAランクの依頼
カーネギー草原の大穴の支配者ブルドッココの死骸と素材×1
森に潜むトロール・希少種の死骸と素材×3
・Gランク依頼
グリーバー・変異種の素材×4
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変異種と希少種は通常のモンスターに比べどんな違いがあるのかよく分かってない。
今度、気が向いたら調べてみよっと。
樹々に侵食された遺跡を抜け依頼主が居るセダイ村へ足を進めた。
〜 30分後 セダイ村 〜
「…本当にありがとう!危険なグリーバーの討伐をして下さり感謝しても仕切れません」
依頼達成の報告を終え帰ろうとすると青年村長のポルポルが深く頭を下げ礼を言う。
「いえいえ、仕事ですので」
「……旦那ぁ。本当に金は要らないんですか?僅かばかりの感謝の印ですぜ。受け取ってくだせぇや」
「Gランク依頼ですのでお金は受け取りません。そのお金で皆さんで美味しい物でも食べて下さい」
「『救いの使者』様…」
やめて。祈らないでお姉さん。
「ありがたや…ありがたや…」
やめて。拝まないでおばあちゃん。
「お、俺はこれで」
「おじさんまたねぇ〜」
「またね〜!」
…お兄さんだぞ。子供たちよ。
村人に見送られ転移石碑に向かった。
〜数分後 セダイ村〜
悠を見送った村人たちが口々に呟く。
「噂は嘘じゃなかったな…」
「頼んでもねぇのに怪我した村人にポーションも惜しみなく使ってくれた。…ありゃ高価な品だぞ。怪我が一瞬で治っちまったい」
「…颯爽と現れどんな魔物も軽々と討伐する魔物狩りを生業にする狩人。…困窮する者達を救う為、天が遣わした使者……正にその通りだったわ」
「ぼくもしょーらいおじさんみたくなるー!」
「あたちもー!」
「…ふふふ。じゃあ嫌いな野菜もちゃーんと食べなくちゃね」
「「うぇー」」
「あの方は辺境の民を救う英雄だ」
ポルポルは遠去かる悠の背中を見ながら言葉にした。
「ありがたや…ありがたや…」
本人の預かり知らぬところで評判は高まるばかり。
このGランク依頼達成で『辺境の英雄』と新たな二つ名が広まるが……悠が知るのは少し先の話。




