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異世界を学ぼう。終





〜出発前夜 夜22時 クリファの神樹〜



その日の夕飯はモーガンさんとケーロンさんとミドさんも交え豪勢な食事と団欒を楽しんだ。明日の出発に備え部屋で休んでいたが眠れず神樹の前で一人佇む。


「…ここから…全部、始まったんだよな」


あれから五ヶ月も経過した。自分が異世界でこんな暮らしをするとは誰が想像しただろう。


「眠れませんか?」


モーガンさんが背後に立っていた。


「…五ヶ月前は自分がパルキゲニアって異世界で…祟り神と契約しモンスターと戦うなんて思わなかったから…。自分の常識を超えることばっかりで…ちょっと感傷的になってました」


「きっと悠さんには驚きの連続だったでしょうね」


「はは。ですね」


「そういえば悠さんのご家族は?」


「あー…。子供の時に事故で家族は亡くなりました」


俺が小さな子供の頃に両親は交通事故で死んだ。


別に珍しい話じゃない。


トラックの居眠り運転に巻き込まれ即死だったらしい。それで荒れた時期はあったがもう昔の話。


……ずっと過去のことだ。


「…すみません。失礼な事を聞きましたね」


「いいんですよ。気にしてませんから」


「…私にも夫と娘がいました」


目を閉じ呟くモーガンさん。…旦那さんは亡くなったって言ってたが娘さんも居たのか。


「夫は優柔不断で闘いも嫌いな人でした。…だけど優しく思い遣りがあり…誰かを守る為ならば自分より強い相手に臆せず挑む勇気があった。……私が愚かにも大きな間違いを犯し…その結果、夫は私と娘を守ろうと犠牲になって死にました。そして娘は私の元から去ったのです」


「…それは……辛かったですよね」


「…悠さん。如何に強大な力を保とうと選択を誤ると…その力は災いを呼び起こします。だからこそ力に溺れず制御し己を律する心が大切なのです。貴方も自分の力を過信し傲慢にならないで下さい。そして力を恐れ過ぎてもいけません。手綱を握るのは貴方なのですから」


「…はい」


「ふふ。話が逸れましたね。心配事は尽きないでしょうが悠さんならきっと大丈夫ですよ。私が保証するわ」


少し気が楽になった気がする。


「夜風が冷たい…。さぁもう寝ましょう」


部屋に戻ると眠れなかったのが嘘の様に眠れた。



〜翌朝 午前7時30分 クリファの神樹〜


いよいよ出発の日。


荷造りを終えた俺は神樹の前で三人と向かい合った。


「皆さん…この五ヶ月間…本当にお世話になりました。最初に出会えた人が三人で俺は恵まれていた。…いつの日か…このご恩は必ず御返しします」


深々と頭を下げ感謝の意を述べる。


「あたしゃ寂しくなるよ。…体に気をつけて元気にやるんだよ」


ミドさんが泣きながら思いっきり抱き締めてくれた。


「…今生の別れじゃねぇんだ。生きてりゃまた会える。……達者でな」


優しく笑うケーロンさんと握手を交わす。


「悠さん」


「はい」


「多くは語りません。そして別れの言葉も言いません。…貴方の安寧を心より願ってます」


何時もと変わらぬモーガンさんの笑顔と眼差し。


「これは私達からの最後の贈り物です」


地図とお金だった。15万Gはある。


「もうこれ以上は頂けませんよ…」


「ベルカで住民登録やギルド登録で必要になります。…要らないとは言わせませんよ?」


「……最後の最後まで本当に言葉もありません」


「ふふふ」


この光景を目に焼き付けよう。決して忘れない為に。


「では…逆月に齢を。醜く唄い禁を解く」


クリファの神樹の淡い光がモーガンさんに集結し吸われていく。…そして姿を変えた。


銀色に輝く長髪か靡き美しく整った顔が露わになる。


「…ふぅ。久々に逆齢の禁を使うわね」


見慣れた優雅さに気品を感じさせる姿。


とにかく美人過ぎてやばい。


「モ…ーガンさん…?」


「はい。長距離転移魔法陣は莫大なMPを消費しますので年老いた身には堪えるの。呪術で昔の私まで時間を戻しました」


「いつ見てもびっくりするねぇ…」


「ああ」


「悠さん…準備は宜しいですね。長距離転移魔法陣『蒼之鳥あおいのとり』を発動します」


待って。今ので心の準備が乱れまくりです。


「駆けよ蒼き鳥。彼の地ベルカへ。黒永悠を傍らに。我がモーガン・ル・フェイの名において…蒼之鳥よ応えよ」


足元に魔法陣が描かれ浮遊感を感じる。


「ゆうー!また戻ってくるんだよ!!待ってるからねぇー」


「坊主!風邪引くなや」


声が遠くなる。二人に届くように叫んだ。


「ミドさん!!ケーロンさん!!落ち着いたら必ず……必ずまた来ますから!!だからっ…だから二人もお元気で!」


「…貴方は夫にとても似てる。姿や顔ではない…雰囲気がとても良く似ていました。…無性で力を貸したくなるし何故か助けたくなるの。…悠さんと過ごした五ヶ月間は安らぎを招いた有意義な時間でした」


魔法陣の光が強くなり浮遊感も更に増していく。


「モーガンさん…!!何度…お礼言っても足んないです…けど!……ありがとうございます!!俺、絶対また…きます…その時は…パルキゲニアに来て…幸せだって…胸張って言える……ように!!」



優しく微笑むモーガンさん。

手を振るミドさん。

笑うケーロンさん。


次の瞬間、三人が消え景色も巡るましく変わる。


そして知らない場所に立っていた。草原に整備された街道が続き緩やかな風が頰を撫でる。


ここからは一人でのスタート。


でも大丈夫。


まずはマップを開いて確認しよう。地図もあるし正確な位置や目的地が分かる。


俺は意気揚々と街道を歩いた。


一歩一歩を踏み締めて。




〜数分後 クリファの神樹〜



「行っちまったな…」


「ええ…」


寂しそうにケーロンとミドが呟いた。


「…いつの間にかあたしってば息子みたく思ってたよ」


「………」


「…ふふ。きっとまた逢えるわ。彼は世界に()()()()()()()()()()()()()()()…そんな傑物になる予感がするのです」


青空を見上げモーガンは遠くの地へ飛び立った悠を想った。


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