俺も人なり姫も人なり。④
〜午前9時30分 金翼の若獅子 広場〜
「………」
広場の中央で腕を組み仁王立ちするモミジ。
「…もう9時30分だ。約束の時間に遅れるなんてユウらしくねぇーな。やっぱ難航してんじゃ…」
心配し眉を顰める。
「…あのでかい女って『巌窟亭』の『紅兜』だよな?」
「いつもと格好が違うけど間違いねー。『紅兜』だ。オーガの女なんて珍しいし。…っつーか美人だよなぁ…声を掛けてみようぜ」
「バカ!…前に冒険者ギルドに依頼の発注に来てナンパした野朗は両手両足をへし折られたって話だぞ」
「…俺…あの体に触れられるならいいかも」
「お、おまえってそんな趣味だったっけ?」
「あんたら最低」
冒険者ギルドのメンバー達が遠巻きにひそひそ話す。
「あぁン!?」
「さ、さーて。依頼に行こっか!」
「お、おう。今日もがんばろー!」
「…こんなのとPTを組んでる自分が悲しくなるわ」
モミジのひと睨みと威嚇に怖気づきメンバー達が次々と退散する。
「…ったく」
「ふふふ。元気みたいで安心しました」
「お。フィオーネじゃねーか」
打って変わり笑顔を見せる。
「悠さんに事情は聞いてます。…『金翼の若獅子』がご迷惑をお掛けして申し訳ありません」
「頭上げろ。お前が謝るこたぁねぇよ」
「ですが…」
「気にすんなって」
「…ありがとう。ふふ!いつもと雰囲気が違うから吃驚しました。綺麗ですよ」
「あー…姫さんと会うのに作業着じゃマズイからな」
見慣れたオーバオールとバンダナを頭に巻いたスタイルとは違い受付嬢の正式衣装を着ている。
体の凹凸が強調され髪は結って纏めていた。
普段とは違い薄く化粧も施し美人の度合いに拍車が掛かっているのだ。
「悠さんも見たら驚きますよ。…まだいらしてないみたいですが」
「ああ。期日が無茶苦茶な依頼だから仕方ねーが心配だ。…一度、家に様子を見に行ったほーがいいかもしれねぇ」
「え…あれは…?」
砂埃を巻き上げ物凄いスピードで誰かが走ってくる。
〜午前9時40分 金翼の若獅子 広場〜
「ーー悪い!待たせた!!」
「お、おう。すげぇ勢いだったな」
「…すごい汗です。大丈夫ですか?」
目を白黒させる二人。
「…ぜぇ…ぜぇ…ちょっと…時間ぎりぎりまで…かかったから…な。…家から全力疾走してきた…」
三十歳になってここまで全力で走ったのは初めてだ。
ひ、膝が痛い…。
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
日時:百合木の月17日
時刻:午前9時34分
場所:第6区画〜中央区画
概要
・第6区画〜中央区画にかけ市街に暴風が吹き荒れ一部の露天商に軽微の被害有。負傷者はなし。
近隣住民の証言
・風が自在に動き器用に人を避けた。
・黒く不吉な風…あれは災いの象徴に違いない。
・『やべぇぇぇ遅れちゃうぅぅ』等の男の声がした。
・…あの風…すこし泣いています。
結果
・不明瞭な情報が多く原因特定は現段階で不可能。
・事件性もなく異常気象と判断し事態を解決とする。
第ニ騎士団『豹』所属
第陸重騎士部隊一等騎士官
クレイグ・B・ノースブルック
区画巡回報告書 百合木の月17日
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
「依頼品はどうだ?…苦戦したんだろ」
息を整え顔を上げる。
「…ふっふっふ!心配無用だ。自信を持って断言する。今まで鍛えた中で最高傑作さ。これで駄目なら腹を切っても構わないってレベルのな」
「マ、マジかよ!」
「まぁ!」
「……ん?モミジってばいつもと違うじゃないか。その服と髪…似合ってるな。綺麗だぞ」
普段とのギャップがあって魅力三割増し。
「え…お、おー…ありがと」
頰を染め笑うモミジは文句無しに可愛い。
「うふふふふふ」
「…フィオーネは機嫌が悪いのか?」
「いいえ。ぜーんぜん普通ですけど何か?」
……笑顔が怖い。
「…そ、そっか。…って遅れたせいで刀の説明をしてる時間もないな」
「行く途中で聞くからいいけどよぉ。…姫さまと会うのにその装束はマズイんじゃねーか?」
「え」
「はい。初対面ですし相手はヴァナヘイム国の王族。…謁見には適してませんね。正装の方が良いと私も思います」
俺の一張羅なのに…。いや、常識的に考えて適した身嗜みで会うのは当然か。パルキゲニアに来てから私服とか仕事着は意識してなかったもんなぁ。
「正装の服とか持ってない…。買いに行ってる時間もないしどーしよう…」
「大丈夫ですよ。『金翼の若獅子』の儀礼用の制服が余ってるしそれを着て帽子を脱げば大丈夫です」
「ありがとうフィオーネ!」
思わず両手を握り礼を言う。
「ふふふ。悠さんのお役に立てて嬉しい」
にこりと今度は機嫌良く微笑む。
「…ペッ」
逆にモミジは面白くない顔で地面に唾を吐いた。
…柄悪っ!?
〜午前9時50分 金翼の若獅子 一階 職員更衣室〜
大急ぎで更衣室に案内され着替える。他のギルド職員も事情や月霜の狼と揉めた経緯を知っているせいか快く儀礼用の衣服の他、靴まで貸してくれた。
「ーーこれでよし」
着替えて鏡を見る。
「…髪が伸びたな。いい加減切らないと」
取り敢えず後ろで結ぶ。一昔前に流行ったサムライヘアー。不良映画やドラマで俳優がしてたっけ。
白シャツの上に獅子の絵柄が刺繍されたジャケットを羽織り革靴を履く。
受付カウンター前でモミジを待たせてる。早く行かないとな……ってこれを忘れちゃ駄目だ。
腰袋から布に包まれた刀を取り出し大事に抱え更衣室を出た。
〜金翼の若獅子 一階 受付カウンター前〜
「待たせた。これで大丈夫だよな」
「……おぉ」
「わぁ……」
二人が下から上まで俺を見て驚く。
「な、何だよ。…もしかして変か?」
「…なんつーか…帽子とマスクの格好に見慣れてっからさ。…いつもと雰囲気がちげぇすぎて…」
「はい。凄い似合ってますがこんなに印象が変わるなんて…」
「あはは。馬子にも衣装ってやつかな」
「……」
「……」
…ぼんやりして様子が変だぞ。
「はっ!?…惚けてる場合じゃねぇ!約束の時間まであとちょっとしかねーぞ」
時計を見てモミジが叫ぶ。
「そ、そうでした!…四階直通の昇降機まで案内します。急ぎましょう」
「助かるぜ。いくぞ」
「ああ」
案内された昇降機に乗車し四階に向かう。
〜金翼の若獅子 昇降機内〜
「ふぅー。何とか間に合いそうだ…やれやれ…」
モミジが布に包まれた刀を見て聞く。
「依頼品は最高傑作って言うぐれーだし生半可なもんじゃねぇんだろうが……ユウを疑うわけじゃねーけど自分の目で一度、出来は確かめてぇ」
「分かった。…三日間徹夜した労力に見合う刀さ。雹鉱石と重魔鉱石が黒鉄鉱石と上手く結合したが硬度が思ったよりあって微調整に苦労したよ。余分な箇所を叩いて…研磨して…削って漸く形を整えたんだ」
「ほぉ」
「それとウェポンバフの付与にも成功した。…それが今朝だったもんだからバフの効果を確かめてる内に約束の時間に遅れたって訳さ」
「…は?」
「どうかしたか」
「…まてまてまてまて!今、武器呪文って言ったのか…?」
「ああ。紀章文字を彫ってな。成功して良かったよ」
「成功して良かったって……武器呪文は錬金術の分野における奥義の一つだぞ。どーやって覚えた?…オレだってファーマンのジジイの奥さんに認められるまで教えて貰えなかったんだぞ」
一驚を喫すると言わんばかりの表情。
「あー…」
言葉に詰まる。アルマは軽い感じの口振りだったからそこまでの技術とは思ってなかった。
「…錬金術も扱える鍛治師はベルカでも…いやミトゥルー連邦でも一握りだ。その上で紀章文字を彫れる職人がどれだけいるか…。自分がしてることがどんなに高度で凄い技術を使ってるかわかってねぇだろ」
「そ、そっかな?」
「…まーいいや。ユウには驚かされてばっかでもう慣れちまったよ。この依頼が無事、終了したら『皆伝通知書』を渡さねーとな」
深く追求しないのが優しい。
「ともかく刀を見せてみろよ」
刀を渡す。
〜数分後〜
昇降機が四階に到着し扉が開く。
「…あ、あははははははは!」
丁度、検品し終えたモミジが大声で笑った。
「…もー……笑うしかねぇや。これが駄目なら腹を切るって言うのも過言じゃねー。…太鼓判を押してやる。お前は超一流の職人だよ」
「超一流ってのは褒めすぎだよ」
「いーや!マジだ。…お前が『巌窟亭』に来て職人になってくれたことを誇りに思うよ。まだ短い付き合いだが断言するぜ。…この先もユウが居れば『巌窟亭』は安泰だ。ファーマンのジジイが戻ってきたらきっと跡継ぎに選ぶと思う」
「あ、跡継ぎ?」
話がでっかくなり過ぎぃ!
「いこーぜ。この自慢の刀を見せて姫さんの鼻っ柱をへし折りによぉ!」
自信満々で意気揚々といった風情。
「…おう!」
俺も気合いが入る。
モミジにお墨付きも貰えたのは大変、心強い。
力強足を踏みだした。




