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俺も人なり姫も人なり。③



〜百合木の月17日 マイハウス 地下一階 工房〜



時間は流れ二日後。


まだ草木が朝露に濡れて間もない時刻。


「で、できたぁーー!!」


工房で叫ぶ。


「なんとか期日に間に合わせたな…」


夜通し鍛治を続け完成した一振りの刀をまじまじと眺める。


「…今まで鍛えた品の中でも最高傑作だ」


出来映えに満足し頷く。職人が自分の鍛えた武具に文句を言われて怒りたくなる気持ちがよーく分かる。


鎬を削って仕上げた魂の一品だもの。


「…まだ5時か。寝たら起きれそうにないし風呂入って洗濯と朝飯の準備でもしとこ」


用意した布に刀を丁寧に包み階段を登った。



〜午前8時 マイハウス リビング〜



「ふーん……よかったじゃない。無事に完成して」


朝食を食べ終えたアルマに自慢の刀を見せる。


…うっすい返事が返ってきた。


「おま…もっとこう…反応はないのかよ」


「ないわよ。興味ないし」


ばっさりだ。あ、あんまり過ぎる。


「……」


「…この刀が綺麗なのは見てわかる。悠は頑張ってた。きっとお姫さまも気にいるよ」


「アイヴィーはかわいいなぁ〜。…どこぞのネコとは大違いだよ」


アイヴィーの頭を撫でる。


「えへへ」


「大人が子供に気を遣わせてんじゃないわよ。…そうねぇ〜。折角だし『武器呪文ウェポンバフ』をエンチャントする方法を教えたげるわよ」


「ウェポンバフ?」


「武器呪文ってのは武器の性能を更に向上させる錬金術の技法よ」


「へぇ…」


「属性付与は一定の技量がある鍛治師や職人なら誰でもできる。武器呪文はスキルとは違った特殊な効果を付与できるの。鍛治とは違う錬金術の分野ね。アイヴィーに持ってきた剣と魔導書…あんたの金剛鞘の大太刀がいい例よ」


アイヴィーが霊剣を取り出す。


「……声が聴こえてたのはそのせいかも」


「え、声?」


「ソルを握ってアルマ師匠と戦闘訓練をしてると…『今だ。我の結晶魔法を使え』とか『避けて態勢を整えよ』とか…声がするの。これもその影響?」


衝撃の新事実。…しかもソルって呼んでんだ。


「ええ。職人の人格を元に投影され、濃い魔素の影響で新たな人格を形成した結果だと思うわ。無機物の『精霊化スピリット』は珍しいわよ。アイヴィーを自分を扱うに相応しい人物と認めた結果ね」


「認められた」


…金剛鞘の大太刀は兇劍の効果で性能が上がり妖刀になった。これがウェポンバフだったとは…。


「ただ、リスクも高いわ。名品じゃないと武器が耐え切れず壊れちゃうしどんなバフがエンチャントされるかは運次第なの。下手したら装備した者に害を与える呪われた武器になるかも」


「い、嫌だ。鍛え終わったばっかの自信作だぞ」


「話はまだ終わってないわ。武器呪文の付与成功率は錬金・技術・神秘の数値に左右される……数値はいくつ?」


「えーっと錬金160・技術8000・神秘6000だ」


「…た、高すぎ。すごい…」


アイヴィーが目をまん丸にして俺を見上げる。


…ふっふっふ!悪い気はしない。


「問題ないわね。手順は簡単だから覚えといて損はないでしょ」


「師匠はなんで詳しいの?」


「…ふん。ランダの受け売りよ。わたしは傍で見てただけ。自然と覚えちゃったの。あの子は悠と同じでそーゆーの得意だったから」


…話だけでも聞いてみるか。技法を覚えといて損はないだろうし。



〜数分後 マイハウス 地下一階 工房〜



工房に移動した。


「説明する前にあんた紀章文字って知ってる?」


「モミジがくれた指輪に彫ってあるのは知ってる」


「へぇ〜あの赤髪の子が…。紀章文字は無機物に魔力を通わせる『呪文語』の一つよ。錬金術の分野で覚えるのが必須なの。見た目より頭がいいのね」


モミジってば秀才…?


「紀章文字はわたしも本で覚えた」


「えっ」


驚く俺を見てアルマが可哀想な眼差しを向ける。


「…はぁ。自分より歳下の女の子と子供より教養がなくて恥ずかしくないの?」


「べ、別にいいだろ!」


「ま、いいわ。ウェポンバフの手順は…。


①紀章文字を武器に刻む。文字を正確に彫らないと失敗する確率が高くなるので慎重に。


②刻む文字の種類は様々あるけど代表的なのは三つ。


鋼鉄カリブルヌス

知恵サビエンティ

運命フォルトゥム


③刻み終わったらMPを消費し呪文を唱える。


…って感じね。簡単でしょ」


「その三つの文字が代表的なのはなんでだ?」


「武器呪文に適した紀章文字だからよ。鋼鉄カリブルヌスは破壊力を…知恵サビエンティは魔法の力を…運命フォルトゥムは周囲に影響を与えるバフが生まれ易いの」


「へぇ」


「んでどーすんのよ。してみる?」


「うーん。この刀でするにはリスクが高い気が…」


「大丈夫だよ!」


アイヴィーが目を輝かせ俺を見る。


「悠がつくった刀ならきっと大丈夫だから」


「でもなぁ」


「…見たい見たい見たい見たい!」


駄々をこねられた。


「真面目な話、バフ付きの武器は珍しいし価値があるわ。ランダも重宝してたしね。そのお姫さまに一矢報いたいなら打ってつけよ」


モミジとラウラが言っていた話を思い出す。


トモエ姫は刀を見極める真贋もあり気難しい性格らしい。…勿論、自信はあるが単純に業物ってだけじゃ納得しない可能性が高い。


一か八か。賭けてみるのも悪くない、か。


「…やってみるか」


「やったー!」


「にゃふふ」


…失敗はできない。文字は慎重に彫らないと。


俺はアルマに指導を受けながら刀の鎺本に運命フォルトゥムの文字を彫る準備を始めた。


〜20分後〜


「ーー…うし。できたぞ」


「しっかり刻めたじゃない。器用ね〜」


「…簡単って言ってたが難しいじゃないか。めっちゃ複雑な文字だし」


「ランダは鼻歌混じりにやってたわよ」


やってみて分かったがフォルトゥムの紀章文字を彫るにはかなり技術が必要だった。


複雑な文字列を刻むには寸分違わぬ器用さと集中力を要する。鍛治師の心の効果とミコトとの契約による各パラメーターの底上げがなけりゃ無理だ。


…ランダは何者だよ。マジで凄いぞ。


「呪文はアイヴィーが唱えてみたいから」


「そうね。これもいい勉強になるわ。呪文は紀章文字に触れながら『スクリプタ・アルカナム』よ」


好奇心旺盛で積極的なのは良いことだ。紀章文字は正確に刻んだし大丈夫な筈。


「アイヴィー。やってみてくれ」


「まかせて。…スクリプタ・アルカナム」


鎺本に手を触れ呟く。…すると紀章文字に光が宿り刀を紫色の靄が包んだ。


「これは…」


「くるわよ」


「へ?」


靄が一気に霧散し工房を包んだ。



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