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俺も人なり姫も人なり。②



〜20分後〜


漸く落ち着いた。フィオーネとキャロルはローグとマーロに付き添ってる。


「俺たちが来る必要はなかったな」


「あ、ベイガーさん。お久しぶりです」


ーーきゅ〜。


「ああ。キャロルから声を掛けられ意気込んで来たのは良いが……ユーに美味しいとこ全部持ってかれちまった。カッコ良かったぜ」


「いやいや」


「ははは!謙遜すんなって。…それと最近、アイヴィーを見ないが元気なのか?」


「ええ。猛勉強に猛特訓中ですよ」


「勉……まぁ、元気なら良いんだ。冒険者ギルドはこんな状況だし…ベイガーが顔を見て話したいって言ってたと伝えておいてくれ」


「あははは!口を開けばアイヴィーのことばっかなんだから。自分の娘みたいに気にしてんのよ」


背後にいた革の防具に身を包んだ妙齢の女性が笑って答える。


「……うるさいぞデイジー。もう二階に戻るよ。キューもまたな」


ーーきゅきゅう。


…さてとあっちの方に声を掛けに行こう。



〜受付カウンター前〜



「よう。大変だったな」


「悠さん!またあんな無茶な事をして…!」


「…お前さ〜…心配すんだろーが。『月霜の狼』を相手にかかって来いってよぉ〜…マジにかかってきたらどーすんだっつーの!」


「まぁまぁ落ち着けって。…二人には後で事情を話すよ。それよりもローグとマーロは大丈夫か?」


「……大丈夫」


「…おう…」


二人とも居心地が悪そうだ。


前にアイヴィーの件で俺と揉めてるからなぁ。


「そっか。なら良かった」


「……なんで私たちを助けてくれたの?」


「特に理由はないぞ」


「…でもよ…オレのせーであんたは…」


「そうよ。面倒なことに巻き込んで…アイツらに目を付けられる羽目に…」


どうやら責任を感じてるみたいだ。


「…前に俺が広場で言った事を覚えてるか?」


「覚えてる。他人を馬鹿にしたり差別すれば……自分に返ってくるって…」


「今回が正にそれだ。実感しただろ」


黙って頷く。


「自分達が他人に…アイヴィーに…どんな酷い事をしてきたか分かったか?」


「……ぅ、ん」


「……」


涙目のマーロと青褪めたローグ。深く後悔してる。


「因果応報ってよく言ったもんだ。…過去は変えられない。自分がした過ちを正そうと思ってもな…その時はもう遅いんだよ。時間は戻らないんだ」


「……」


「……」


「…でもローグとマーロはまだ子供だ。幾らでもやり直すチャンスはある。…いいか?間違えるのは恥じゃない。人生、躓いて転ぶことだってある。重要なのはその後にどうするか、だ」


「……」


「……」


「『月霜の狼』のことは気にすんな。もう簡単に誰かを侮辱したり苛めたりすんなよ」


二人の頭を撫でる。


「ぁ…」


「うぁ…」


「…ふふふふ」


「へへ!」


気付けばフィオーネとキャロルが優しい眼差しをこちらに向けている。


…ちょっと照れ臭いな。


ローグとマーロは礼を言ってギルド寮に戻っていく。今回の一件で少しでも変わってくれると嬉しい。


「さっすがアイヴィーのパパしてんだけあんな〜。子供の扱いが上手じゃん」


「悠さんは子煩悩なお父さんになりそうですね…ふふ。…私も頑張らなきゃ」


頑張るって一体、何をだろう。


「話を戻すけどユーはなんのつもりであんなこと言ったんよ?」


「ええ。相手は王族ですよ。それに事情って?」


「あー…実はなーー」



〜10分後〜



二人に巌窟亭での経緯を説明した。


「…モミジは大丈夫でしたか?」


「うん。大丈夫だよ」


「あっいっつらぁ〜!!いい加減にして欲しいぜ!」


「冒険者ギルドも大変みたいだな」


「…正直、困った状況です。昨日の運営会議で今日から『霄太刀』のカネミツ様がトモエ姫の護衛兼お目付役をする事になりましたが…変わらず二階と一階を警護してる『月霜の狼』の面々といざこざが増えるばかりで…」


霄太刀のカネミツ。十三等位の一人かな。


「『月霜の狼』は冒険者ギルドと軍人の兼務なんだろ。軍人が他所で好き勝手していいもんなのか?」


俺の中では軍人ってのは規律を重んじ礼儀正しいってイメージだ。


「元々、狼人族は他種族に排斥的です。仲間内でも厳格な縦社会で形成されてます。…裏を返せば遵守すべきは自分達の掟と法だけ。それ以外はどうでも良いって程なんです。…全員がそうでは有りませんが無頓着な理由は主にそれですね。一度、仲間と認められれば愛深き種族らしいですが…」


「あいつらがうちを見る眼なんてひでーもん。兎人族だからってナメんなっつーの!」


狼と兎……確かに仲は良くないだろうな。


「…ふふ、でも悠さんは私がピンチの時はいつだって現れてくれますね。…白馬に乗った王子様みたい…」


「お、王子ぃ?」


両手を頰に添えて頰を赤らめるフィオーネ。


「ぷはははは!そ、それは夢見すぎだってば!!…ユ、ユーが王子様って…乙女かっつーの!」


自分でも想像すると笑えるから否定できねぇ。


「わ、笑いすぎですよ!」


「…まぁ、自分でも揉め事にはよく首を突っ込んでるとは思うよ」


「今回は相手が一国の姫と親衛隊です。『巌窟亭』の依頼だとしても…本当に…本当に…気を付けて下さい。下手をすれば反逆罪に問われかねません」


「へぇ」


「マジでわかってっか?さっきのことを言ってんだぞ。大勢、引き連れて来たうちも大概だけどさー」


「そうですよ。一歩間違えば私権行使で懲戒処分を食らっちゃいます。気持ちは嬉しいですけど…」


「フィオーネはモテっからさ〜。うちだってこ〜んなにカワイイのに」


「ええ。本当にそう…可愛くて大切な親友です」


「ちょ!?マジに言うなよな!恥ずかしいじゃん」


「ははは。…ってか俺も用事があったんだ。ラウラは執務室に居るかな?」


「いらっしゃいますよ」


「わかった。ありがとう」


「はい。キューちゃんもまたね」


ーーきゅう!


「チョコミント買って待ってっからな〜」


ーーきゅきゅう!


二人と別れる。

昇降機に乗って八階に移動した。



〜金翼の若獅子 八階 GM執務室〜



今日もラウラは忙しそうに書類整理をしている。


「こんちわ」


「やぁ。…それにキューも。丁度、良かった。君に昨日の運営会議で決まった昇格依頼の日程と詳細について話したかったんだ。座ってくれ。今、紅茶を淹れるよ」


ーーきゅー。


「ありがとう。俺も報告したい話があるんだ」


「報告?」



〜10分後〜



「ーーってな訳だ」


巌窟亭と先程の一件を説明する。


「…『巌窟亭』でそんな事が…済まない。迷惑を掛けたね。僕が代わりに謝るよ」


申し訳なさそうに頭を下げた。


「おいおい、ラウラは悪くないだろ」


「それでもさ。…『金翼の若獅子』の客分が迷惑を掛けてるんだ。僕には謝罪する義務がある」


「…流石だよ。あの連中にもラウラの謙虚さと責任感の強さを見習って貰いたいね」


「あははは。…しかし、トモエ姫の眼鏡に叶う刀か。難題を吹っかけられたね」


「大丈夫さ。徹夜で頑張ってるから」


「…一応、伝えておくよ。ヴァナヘイム国王位継承権第2位のトモエ・ミカヅキは幼少の頃から代々、狼人族に伝わる『御津蜂(みつはち)流抜刀術』を若干16歳で免許皆伝に至った腕前だ。刀の真贋を見極めるなど容易いだろう」


「みつはち…」


ミツバチかと思った。ぶぅ〜ん!ぶぅーん!


「彼女は現在18歳だがGR(ギルドランク)はSランク。同時に『月霜の狼』のランカーでもあり『艶狼(えんろう)』の二つ名で知られてる」


「…Sランクか。姫さまなのに凄いじゃん」


「そうだね。…ただ、トモエ姫は美しい姫君だけど気に入ったものを力尽くで奪う事も厭わない強欲な性格らしい。気に入られると厄介だから悠は気を付けた方がいいよ」


「気に入られる要素がないな。親衛隊と揉めてるし」


「…そうかな」


「ちなみにモテた試しもないけどな。絶賛、彼女募集中だぞ」


「へ、へぇ」


「ラウラみたいな女の子が居たら紹介してくれ」


「…ぼ、ぼ、ぼ、僕みたいなだって…!?」


驚愕するラウラ。ティーカップから紅茶が溢れる。


「え、あ、おう…」


「ほ、本気で言ってる!?じょ、冗談だったら怒るよ!?」


「は、はい!」


余りの剣幕で冗談って言ったら殴られそうだ…。


「そ、そっか!…やっぱり…あの作戦で…ぶつぶつ」


独り言を呟き思案するラウラの表情は仕事中より真剣だった。


〜10分後〜


落ち着いたラウラから昇格依頼の日時と概要を聞く。


「えーっと…


①百合木の月24日の午前10時。場所は『金翼の若獅子』三階フロア 特別応接室。


②面接担当者は金翼の若獅子 ランカー序列第4位

『天秤』ミコー・フェム・ダルタニアス。


④面接終了後、午後14時演習場にて実技試験開始。内容は現Sランクの所属登録者七名との実践形式の模擬戦闘。


…で間違いないか?」


「うん。今回の実技試験は過去最多の七名が参加する。君が昇格依頼を受けるとなって各上位ランカーが自分の手駒を推薦したんだ」


笑えないんですけどぉ…。


「きつい内容だけど悠なら問題ないよ。僕とルウラもエリザベートも二つ返事で了承したから」


了承しないで欲しいんですけどぉ…!


「二つ返事で了承かぁー…」


自信がない訳じゃない。ただ、俺は戦闘狂じゃないし渋ってくれても…。


「ふふふ。皆の驚く顔が目に浮かぶよ。Sランク昇格依頼は冒険者ギルドの一大イベントの一つなんだ。それ程、AAAランクとSランクを隔てる壁は大きい。演習場に特別観客席も設け他冒険者ギルドのGMや幹部…一般市民も大勢、来るよ」


ラウラの笑顔が眩しい。


「は、はは。頑張ります…」


ーーきゅぷきゅぷきゅぷ。


キューはお茶菓子を夢中で頬張ってる。


…偶にキューが羨ましくなるな。


「面接官の『天秤』は癖がある子で驚くかも知れないが……うん。悠なら大丈夫だよ。済まないがこれ以上、試験内容に関わる事は話せない」


…俺の周りって個性が強い人しか居ない。


「そりゃそうだな…ふぁ〜…ってすまん。寝不足で欠伸が…」


「大丈夫?」


それにしても良い陽気だ…。


「…ああ。帰って鍛治の仕上げをしなきゃ」


「ちょっと休んでいきなよ。根を詰めすぎても仕事は捗らないし」


「いや、ラウラも仕事中だし迷惑だろ」


「構わないよ。ソファーで少し横になると良い。時間になったら起こしてあげる」


「…本当に良いのか?」


「もちろん!ほら、キューは寝てるよ」


ーーきゅぴー…きゅぴー…。


食うだけ食って寝やがった。


「…じゃあ悪い…お言葉に甘えさせて貰う。一時間後に起こしてくれ」


「分かった」


ふかふかのソファーに仰向けに寝る。


目を閉じると意識が直ぐに沈んでいくのが分かった。


…ちょっとだけ休もう…。



〜15分後〜



「…すぅー…すぅー…」


ーーきゅぴぃー…


ソファーで寝る悠とキュー。


「……」


ラウラは仕事の手を止め眺めていた。


「…悠、寝てる?」


返事は無い。規則正しい寝息が聴こえるだけ。


「……」


扉の鍵を閉め間近で寝顔を見詰める。


「…いつも誰かの為に頑張ってるから疲れたよね」


「……」


「…ふふ。どんな夢を見てるんだろう」


「……」


「…ねぇ。君は僕が女だって知ったら…どんな顔をするかな…」


「……」


「きっと……驚くよね。…でも態度も変えず…何時も通り接してくれるんだと思う」


「……」


「けど僕は…他の女の子より…誰より…悠に大切にして欲しいんだ」


「……」


「君が好き。…僕は…君に恋をしてる」


「……」


「…こんな感じで素直に伝えられたら楽なんだけど」


頰を赤く染めたラウラの微笑みは可愛らしい。


普段の姿からは誰も想像出来ない表情だろう。


「……ちょっとだけなら…良いよね?」


ラウラの顔が寝ている悠の顔に重なった。


「………」


「すぅー…すぅー…」


真っ赤な顔のラウラ。悠は寝ているので自分が何をされたか知る由もない。


「あ、あ…僕ってば…し、仕事しなきゃ…!」


自分の大胆な行動を思い返し変な動きで机に戻る。


恋は盲目とはよく言ったものだ。



〜1時間後 金翼の若獅子 八階 GM執務室〜



体を揺すられ起きる。


「ふぁ〜あ…んー!…もう一時間か」


ーーきゅぷあ〜…。


「う、うん。よく寝れたみたいで良かったね」


「ああ…って何かあったのか?顔が赤いぞ」


そう言うとラウラはそっぽを向く。


「き、気のせいじゃないかな!」


…怪しい。


「顔に落書きしたんじゃ…」


「ルウラは嬉々としてすると思うけど僕はしないよ」


ルウラはすんのかーい!


「…ま、いいや。楽しい夢も見たし疲れが取れた気がするよ」


「夢?」


「おう。綺麗な美人に告白されてキスされる夢だ。いやぁ〜正夢になったりしてな!あははは」


「…き、きれい…な…美人…?」


茹で蛸みたく更に顔と首が真っ赤になった。


「さーて!帰って鍛治すっか。ありがとな。お陰で良い気分転換になったよ」


「ぅん……」


「昇格依頼の日程も聞いたし…あと最近、冒険者ギルドの仕事をしてないからなぁ。依頼を頑張らないと」


「ぅん……」


「またな。キュー。家に帰るぞ」


ーーきゅ〜。


「ぅん……」


ぼんやりした返事を繰り返すラウラを不審に感じながら部屋を出た。




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