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俺も人なり姫も人なり。①



〜午後16時 マイハウス 地下一階 工房〜



帰宅後、さっそく工房で依頼に取り掛かったが…。


「うーむ」


どうも納得いかない。これじゃ普通の直刀だよなぁ。


太刀や打刀の方が…いや、使うのは女の子だし刀身が重くなってもな〜。


「鉱石を混ぜ過ぎて折返し鍛錬の段階で固まり過ぎる。甲伏せが……って待てよ」


グラレウスから貰った尖玉を使えば堅くなり過ぎても自由自在に研磨できるかも。


物は試しだ。使ってみるか。


〜1時間後〜


ーー鋸剣龍の尖玉により無機物が研磨されましたーー


「こりゃいいや」


尖玉を振り翳しMPを消費するだけで寸分違わず研磨されていく。最終的な仕上げは手作業だが準備作業の手間が大幅に省けるぞ。これなら鉱石を必要分、炉で混ぜ削れば余計な重さは除ける。


…最初から便利性に気付いて使っておけば仕掛け武器の重さも減らせた。過ぎた事だし仕方ないが。


みんなから貰った玉は大活躍だ。


ありがたやありがたや。


「…っと先に飯の準備をするか。アイヴィーたちも二階からそろそろ上がって来る頃だ」


光明が見えてきたが残り時間は少ない。


夜通しやらなきゃ間に合わないな…。


本気で気合い入れて取り掛からないと。



〜翌朝 午前9時30分 マイハウス リビング〜



あぁ…陽の光が染みる…。


「ちょっと目が死んでるわよ」


「問題ない…」


工房で製作に没頭し気付けば朝だった。


徹夜した甲斐もあり五割方完成。


…あとは仕上げに取り掛かれば明後日の朝には間に合うだろう。また徹夜しなきゃだけど。


スキルと鍛治・技術の数値があってもこれだ。


モミジが言ってた職人総出って言葉の意味が身に沁みたぜ…。


「大丈夫?」


「はは…大丈夫だ。職人ギルドの依頼で明後日まで刀を完成させなきゃいけなくてな…」


「夜更かしはめっ。ちゃんと寝なきゃ」


腰に手をあて注意する。可愛いやん。


「…次からはそーするよ。…ふぁ〜。アイヴィーは今日も稽古か?」


「うん。しばらくアルマ師匠と稽古を頑張るからギルドには行かない」


「にゃふふ!良い心がけね。ご褒美に今日はスペシャルメニューにしてあげる」


「……やっぱりギルドに行きたい……」


アルマの一言を聴き小声でぼそっと呟く。


「頑張れ。あれキューは…っとと」


ーーきゅう!きゅきゅ〜。


頭の上に飛び乗る。


…身体が大きくなって前より重くなったな。


「キューは悠と一緒に行くって」


「……こいつってば稽古が嫌で逃げる気ね」


ーーきゅ、きゅう〜…。


キューがアルマから顔を逸らす。


「まぁまぁ。キューは卵を孵そうと頑張ってくれてるし偶には俺と二人で出掛けるのも良いだろ。用事が済めばすぐ戻るよ。それじゃ行ってくる」


ーーきゅ!


「いってらっしゃい」


キューと金翼の若獅子に向かった。



〜午前10時 金翼の若獅子 一階フロア〜



月霜の狼の親衛隊隊員が見張り番のように施設の随所に陣取っている。


…警備か?


端っこに追いやられたギルドメンバーやフリーメンバーの表情は険しい。快く思ってないのが見て分かる。


「あれは」


ーーきゅ〜。


なにやら騒がしい。…揉めてるみたいだ。


行ってみよう。



〜 一階 受付カウンター前 〜



「…や、やめてよ…!」


「ちくしょう!て、手を離せ」


「邪魔だと舌打ちしたぞこいつ」


犬人族ダックスの純血種か。…弱い犬はよく吠えると言うが正にその通りだな」


「ふん。『金翼の若獅子』は腑抜け揃いだな。遠巻きに眺め誰一人助けようともしない」


月霜の狼の隊員に囲まれているのはアイヴィーを苛めていた二人。


確か名前は……ローグとマーロだっけ。


「その辺にして頂けますか。…彼が邪魔と言ったのは用事もなく依頼も受けないのに受付カウンターに居座る貴方方のせいでは?」


「ほほう。気が強い狐人族フォックスだ。美人だし唆るじゃないか。益々、気に入ったぞ」


「依頼があれば無能な此奴らに代わって受けてやるよ。お前にも後で酒に付き合って貰うがな」


「…私的な用件はお受け出来ません。依頼を受注する気がないのなら『月霜の狼』の方々でも依頼を受注する他のメンバーの方へ場所を譲って下さい」


毅然とした態度でローグとマーロを庇うフィオーネ。


「チッ。…他種族を馬鹿にしやがって!」


「ちょっとやめてよ。ローグとマーロには可哀想だけど…手助けなんてできないわ…」


「四十名の親衛隊隊員の全員がBB〜Sランクのギルドメンバーで構成されてんだってよ。…悔しいが下位ランクのおいら達じゃ……なんもできねぇ」


「あの二人も純血種を鼻にかけてあたし達を見下してたじゃないさ。助ける義理はないわよ」


「でも…」


「……」


ーーきゅう…。


成り行きを伺う冒険者達がこそこそと呟く。


「譲れだと…?調子に乗るなよ。下等種族の分際で」


「…人種差別的な発言や他冒険者やギルド職員への暴行はギルド法違反ですよ」


「はははは!笑わせるな。我等の主…トモエ姫はヴァナヘイム国の王族だぞ。治外法権が親衛隊には付随している。ギルド法にも『王族特権事項』は記載されてるだろう」


大柄の男が馬鹿にして嗤う。


「……」


フィオーネは悔しそうだ。


「…わ、わたしとローグの父親は冒険者ギルド『グレンデル』のギルドマスターよ!?あ、あんたたちなんて…お父さんに言えば…!」


「グレンデルゥ?…弱小冒険者ギルドなぞ知るか。息子と娘がこれじゃ父親の度量もたかが知れてるな」


親を馬鹿にされてローグの顔色が変わる。


「……オヤジをバカにすんなぁああああッ!!」


斧を手に持ち馬鹿にした一人に突進したが…。


「ぐえっ!」


…腹を殴られ蹲った。


「ローグ!!」


「ちょっ…!!…子供相手に何をするんですか!」


フィオーネとマーロがローグに駆け寄る。


「……お前等も見たな?こいつはギルド施設内で武器を取り出し攻撃しようとした。これは正当防衛だ。引いては姫に危害を加えんとする輩かも知れん。…親衛隊の特務権限に基き厳格に処罰しなければな」


「ははは!違いない」


刀を持ち振り翳す。


「心配するな。命までは取らん。片耳で許してやる」



「やめろ」



「…誰だ貴様は」


「あ、あなたは…」


「ゆ、悠さん」


…これ以上、黙って静観できるかよ。


「その刀を仕舞え」


「…はっ。貧弱なヒュームが頭に竜の子供を乗せて何様のつもりだ」


ーーぎゅるるるる…。


キューが唸った。


「子供と女性を相手に粋がる屑野郎に貧弱って言われる筋合いはない」


俺の一言に場が静まり空気が変わる。


「……我等がトモエ姫の親衛隊と」


そのギルド云々の下りはいい加減聞き飽きたわ。


「一々、ギルド名と姫さまの名前を言えば相手が畏縮すると思ってんのか?…いい歳した大人が肩書きで威張るな。恥ずかしいぞ」


「……」


親衛隊隊員が無言で武器を抜く。敵意満々だな。


「…弁解は聞かん」


「……」


向けられた刀を握った。


「!」


そして折った。いや、折るってより粉砕に近い。


刀身は鉄屑の欠片となって床に落ちる。


「ば…馬鹿なっ!素手で…!?」


「玉鋼で鍛えられた軍刀だぞ…」


唖然とした表情。他の奴等もかなり引いてる。


化け物と遭遇したような顔だ。失礼しちゃうぜ。


昨日もこんな展開だっけ。…こいつらが本当に強いのか疑問が浮かぶ。


「弁解が何だって?」


ーーきゅるぅ!


「……」


「先に刀を抜いたのはそっちだ。覚悟しろよ」


後ずさる男達。冷や汗を流し見るからに焦ってる。


「……思い出したぞ。昨日、マツガキ隊長が言ってた狩人装束にマスクの男だ。AAAランクの無所属登録者で……名前はクロナガユウ」


「言われてみれば…そうか。こいつが…」


「待て。あれを見ろ」


キャロルがベイガーを筆頭に見知った顔の高位ランクのメンバーを引き連れ登場した。


「やいやいやいお前ら!フィオーネにちょっかいかけて一階のみんなに迷惑をーーって……ユウ?」


「おう。皆を連れてどうした?」


「いやさ〜。一階で『月霜の狼』とフィオーネが揉めてるって聞いたから二階のメンバーに声を掛けて来たんだけど……いしし!必要なかったかな〜」


親衛隊の男達は多勢に無勢と判断したようだ。


「…ここは引くぞ。流石に分が悪い。それに大隊長に知れられると面倒だ」


「ちっ!」


「…どのみち『金翼の若獅子』の連中は『月霜の狼』に非協力的で協定違反と報告すれば処罰されるのは貴様らの方だからな。震えて後悔するがいいさ」


大の大人が情けない。…が聞き逃せない捨て台詞だ。


「ふざけんな!こっちだって上に報告し」


「おい」


「なんぐえふっ!?」


俺は大柄の男にビンタした。


めちゃくちゃ手加減したが勢い良く壁まで吹っ飛び半面の兜が壊れ弾け飛ぶ。


ふっ飛ばした男は口から泡が吹き小刻みに痙攣していた。他の連中は仲間の無残な姿を見て唖然とする。


フィオーネやキャロルも…他の冒険者達も…全員が口を開き呆然としていた。


「…今の見たな?『金翼の若獅子』は関係ない。あいつを叩いたのは()()()()()だ」


仲間の男に向けて言う。


「協定違反にはならないよな」


あー!清々した!


「…お、お前は自分が何をしたか…分かってるのか……?」


「…『巌窟亭』でも此処でも…その態度と発言にはうんざりだ。仲間や友達を傷つける奴は許さない」


「悠さん…」


「ユー…お前…」


「『月霜の狼』のお姫さまや親衛隊の全員に言っとけ。文句があるなら俺が相手になるってな」


「……い、行くぞ」


「あ、ああ…」


返事もせず逃げるように伸びてる大柄の男を担ぎ二階へと消えて行った。


あの程度の相手ならば何人束で向かって来ても負ける気がしない。


「…やれやれ。フィオーネもそっちの二人も大丈」



歓声が湧いた。な、なんだ!どーした!?



「最高だよ!スカっとしたぜ!!すっげえ平手打ちだったなぁ。…おいらが食らったら死ぬぞ」


「流石は『救いの使者』ね!『月霜の狼』が相手でも毅然としてるし」


「苦情を言っても協定条約を盾にされて上の連中は何もしちゃくれない。…本当に胸がすく思いだったよ」


よっぽど不満が溜まってたんだな。皆、嬉しそうに笑っている。乱暴な方法で黙らせた俺のやり方も褒められたもんじゃないが…この際、良しとしとこう。


「Gランク依頼達成から只者じゃねーっては思ってたけどあんたは何者なんだ?」


「そうそう!この際だから聴かせてよ!」


やいやいと騒ぎが大きくなってきた。


「あー…また今度な。取り敢えずほら…依頼受けて仕事に行ってくれ」


騒ぎが収まったのは暫く後だった。



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