異世界を学ぼう。⑤
〜翌朝 午前9時 モーガン宅 作業部屋〜
本棚に仕舞われた分厚い教本。
見慣れぬ実験機材が整頓された机。
案内された部屋は如何にも魔女の部屋って感じだ。
「私からは錬金術について教えましょう。アンバトルパラメーターは…錬金・鍛治・生産・飼育の四つの項目に分かれています。私が教える錬金の技術は『錬成炉』を使用しアイテムを精製する簡単な錬金術です。錬成炉とは様々な素材を炉に入れMPを消費しアイテムを錬成するの。パルキゲニアでは良く知られている魔導具よ」
「ふむふむ」
「但し錬成炉は手軽な分、多くの素材を使用しますし成否に問わず素材は消費されます」
「成功の秘訣はバトルパラメーターの技術・魔力も関わりアンパラメーターの錬金の数値が高い程、成功率は上がり失敗率は下がりますね。…希少価値が高い素材を使えば良いアイテムも錬成され易いですが炉が負荷に耐え切れず壊れてしまう事もある」
簡単な分、リスクも伴う訳だ。
「悠さんの魔力は他の項目に比べ数値が低く感じるかも知れませんが一般的には充分な数値です。技術も高いですし早速、錬成炉を使って錬成してみましょう。こちらの錬成炉は差し上げます。…ああ、断るのは駄目ですからね」
読まれてますやん。
「素材も大量にあるわ。悠さんが実戦訓練で集めた物がね。…オープン」
モーガンが呟くと俺が神樹の森で集めたモンスターの素材と死骸の山が現れる。
「さあ錬成してみましょう」
「了解!」
炉に死骸と素材を入れてMPを消費した。
〜2時間後〜
「ぜぇ…ぜぇ…く、くるしい」
「ふむ。これだけ錬成に成功すれば上出来ね」
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・ゴミクズ×25
・石ころ×10
・特製ポーション×20
・特製ハイポーション×5
・マジックドリンク×3
・赤色の活性剤×10
・強力粘着液×5
・魔石(大)×3
・鋼石×5
・玉鋼×6
・リブライト結晶石×1
・毒瓶×5
・猛毒瓶×11
・麻痺瓶×3
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積まれた素材と死骸は綺麗に無くなった。
「錬成したアイテムと素材は腰袋に閉まって必要な時に使って下さい」
「あ、あい…」
MPが切れて魔素欠乏症になってる…。
「ちなみに錬成炉以外の錬金術は数多く存在するわ。他の技術は難易度が高く覚えるのが大変ですが成功率は格段に違う。覚えておいて下さい」
「へー…」
「さて…私は魔法陣の準備があるので他のアンパラメーターについてはケーロンとミドから教わってください」
「…はい」
魔素欠乏症が中々治らずその日は早々と部屋で休む。
明日はケーロンさんを訪ねてみよう。
〜翌日 午前10時 ケーロンの鍛冶場〜
「モーガンさんに話は聞いとるわい。儂からは鍛治について教えてやる」
金槌を肩で担ぎ顎髭を撫でるケーロンさん。
「鍛治は貴金属細工や鉱石を鍛錬して新しい武器や鎧を創ったり鍛え直して修理する技術じゃ。…坊主には基礎を教えてやるが時間は少ない。ビシバシいくぞ」
「了解です」
「今は儂の鍛冶場を使えばいいけどよぉ…本来なら火炉や金敷に仕上げ台……設備が整ってないと何もできん。職人ギルドの作業場を借りるか自分で揃えるしかねぇな」
「ふむふむ…」
「このハンマーとピッケルは儂からの選別じゃ。素材に拘るのも鍛冶師にとっちゃ大事。ピッケルで鉱石を採掘するのも仕事の一つだと思えよ」
「はい」
力仕事か。…筋力高くて良かった。
「鍛冶は筋力・技術・鍛冶のパラメーターが低いと碌なもんができねぇが坊主の筋力と技術は心配ねーってモーガンさんは言ってた。…鍛冶はいくつだ?」
「54です」
「なら心配いらねぇな。鉱石はあんのか?」
「えっと玉鋼と鋼石ならありますけど」
「…ほぉ錬成炉の錬成品じゃな。なら大丈夫じゃわい。…とっとと始めるぞ!」
金槌を手にケーロンさんの技術指導が始まった。
〜14日後 午後16時 ケーロンの鍛冶場〜
「…素人から始めてこれなら心配いらねぇな」
「やったぁ!」
鋼石と玉鋼を使い武器と防具を作った。
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・鋼の双剣
・クレイモア
・アイアンヘルム
・アイアンプレート
・アイアンフィスト
・アイアングリーヴ
・悠のナイフ ←
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このナイフはその中でも自信作だ。
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悠のナイフ。
・黒永悠が玉鋼で創ったナイフ。素材の剥ぎ取り・搾取・料理まで用途に応じて使い分けれる厚刃で錆難い万能型。
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「…坊主は手先も器用で職人向きだ。ベルカの職人ギルドにも気が向いたら行ってみろ」
「ケーロンさんの教え方が良かったから。ありがとうございました」
「……ふん」
鍛冶場を片付けモーガンさんの家に戻り休む。
もう時間も残り少ない。
明日はミドさんのところに行かなきゃ。
〜翌日 午後17時 ケーロン夫妻の家 キッチン〜
「いらっしゃい。あらあら…!よく似合ってんじゃないか。頑張った甲斐があったねぇ」
「ミドさん。こんな立派な服を仕立ててくれて…ありがとうございました」
「いいんだよ気にしなくて。それじゃあたしからは生産・飼育について教えるわね」
「よろしくお願いします」
「まあ、椅子に座りなさいな。生産は分野が幅広いんだけど…んー。有名なのは洋裁・和裁や料理を作ったりするもんだね。飼育は農作物・家畜の育成かな。さすがに服を仕立て技術や畑仕事を教えるのは日数的に無理だね。料理と簡単な裁縫を教えたげるよ」
「はい。あっちでも家事はしてたし」
一独身男性の悲しい性なんだよなぁ。
「じゃあさくさくいこうか。生産関係はバトルパラメーターの技術とアンバトルパラメーターの生産が高けりゃ良い服や美味い料理を作れるよ。飼育は技術・生産・信仰が低いと難しいさね」
信仰がマイナスの俺が飼育したらどうなるのか想像もつかん。
「モンスターも食材になるよ。死骸の保存状態を保てる袋の魔道具は主婦の大きな味方さ!悠もモーガンさんに貰ったろ?…あれは袋の魔道具の中でもかなりレアな物だから大事にしなよ」
やっぱレアな品物だったんだこれ。
「モンスターも食材になるんですね」
「もちろん食えないモンスターもいるけどねぇ。悠に普通の料理を教えるわけじゃないよ。教えるのはモンスターを食材に調理した料理……ずばり魔物料理!魔物料理を食べると時間制限付きでバトルパラメーターが上昇したり特殊なスキルが発動するのさ」
「…凄いですね」
「ただ技術と生産のパラメーターか低い人が作った魔物料理は食中毒を起こすし最悪、死ぬから注意は必要だよ。あんたはパラメーターも高いし鑑定のスキルがあるから心配なさそうだね」
心配でたまらねぇっす…。
「裁縫は裁縫キットやるから練習するしかないよ。悠の服はモーガンさんから貰った特別な素材で仕立てたし破れる心配はないけどね」
「マジか」
「魔物料理に使う食材はアンタが持ってきた死骸から使えばいい。鑑定のスキルで食えない箇所は見破るんだよ」
鋼の探求心さんあざぁぁーーっす!
「じゃあ料理してみます」
〜1時間後〜
「できた…!」
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ヌマガザミの蟹炒飯
・ヌマガザミの左鋏の蟹肉を大量に混ぜ込み炒めている。蟹味噌を隠し味にしているので深い旨味を感じる一品。敏捷+20(1時間付与)
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「どれどれ…………おぉ!?美味いじゃない!何も心配いらないね!」
「うし!」
料理が上手になったのは嬉しい。…それ以上に喜んでくれたのが嬉しかった。
他の二人にも用意して食べて貰う。
ケーロンさんは無言で何度もお代わりしてくれたしモーガンさんも笑顔で美味しいと言ってくれた。
そうして残りの日々も瞬く間に過ぎていく。
森でモンスターを狩って素材や死骸を集め錬成したり…料理を作ったり…鍛治をして料理道具を作ったり…本当に充実した毎日だ。
そして出発前夜を迎えた。…最後の夜が訪れる。




