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雨は上がり陽は昇る。③


「大変そう。無理しないでね」


話を聞いて心配するアイヴィー。


「ありがとう。…問題は山積みだけど一つ一つ対処していくよ」


「ヨシュアの件は吾も責任を感じている。本当なら姉弟の決闘なぞ避けたいが…。明日の会議でもう一度、提言してみよう」


「何か手伝える事があれば遠慮なく言ってくれ」


「助かるよ」


ふと時計を見ると時刻は17時過ぎ。…忙しい合間に来てくれたんだ。夕飯でもご馳走しようか。


「三人ともこの後の予定はあるか?」


「今日はもう帰るだけかな」


「夕飯を用意するから食べてけよ」


「いぇーい!らっきぃ〜」


「皆で一緒に食卓を囲むのも悪くない。ただ吾は味には五月蝿いぞ」


「折角のお誘いだ。お言葉に甘えさせて貰おうかな」


「ルウラは畑の雑草を食うといい。たくさん生えてるから」


「しゃっとふぁっくあっぷ」


あ、龍の卵をエリザベートに相談しよう。


「エリザベート。飯の前にちょっと見て貰いたい卵があるんだ」


「ほぉ。竜の卵を手に入れたのか?」


「いや()()()なんだけど」


「………」


エリザベートの目が鋭く細まる。


「…よく見つけたものだ。貴公はどうやって…まぁ、細かい事はいい。孵化させるつもりか?」


「うん」


「先に言うが吾も幾度か龍の卵を手に入れる機会があり孵化を試みたが失敗に終わった。…くく。まずは拝見するとしよう」


「頼む」


他の三人はギルドの話で盛り上がってるしリビングで待ってて貰うか。


エリザベートと寝室に向かった。


〜マイハウス 寝室〜


寝室のベッドの上でキューが卵を温めていた。…アルマの姿は見えないが何処に行ったんだろう。


「この子がアイヴィー嬢の召獣…キューか。初めて目の当たりにしたが……ふむ。竜の子供にしては些か通常の飛竜と相違点が見られる。骨格…翼の形状…尻尾の長さ…角や瞳……見たことが無い種だな」


ーー…きゅう?


そりゃそうだ。だって魔導生命体だもん。


「実に興味深い。おっと生態の考察は置いといて…これが件の卵だな?」


キルカの卵を触り検分を始めた。


〜数分後〜


「驚いた。微量ではあるが魔力が注がれ反応してる。親以外の魔力と融和するとは…」


「つまり?」


「キューがこの卵を温めていただろう。あれは自身の魔力を卵に注いでいたのだ。…そもそも人の魔力とモンスターの魔力は波長が違う」


「へぇ…」


「竜の卵を孵す時は育成魔導具を用いた魔力の変換を用いるケース…または竜人族に伝わる秘儀を使い孵化させるのが一般的だが……近年、魔物学者の研究によると龍の卵は親の特別な『龍血ドラグーンブラッド』と『龍識ドラグーンソフィア』を含む魔力を要するらしい。故に親の魔力が必要不可欠なのだ」


「ふむふむ」


フカナヅチも似たことを言ってたっけ。


「当時、それを知った吾も衝撃を受けたが…キューは何時から抱卵ほうらんをしている?」


「えーっと…六日前からかな。持って帰ってきてからちょくちょく温めてる姿は見かけた」


暫し思案した後、エリザベートが確信した眼差しで俺を見る。


「…キューは竜ではないな。まして龍でもない。…恐らく人工的に造られた魔導生命体であろう。違うか?」


驚くことに看破された。


「…何で分かったんだ?」


「くくくっ。吾を侮るなよ。これでも竜学と魔物学の博士号持ちだ」


博士号…え、すご!


「…実はーー」


〜数分後〜


キュー誕生の経緯を説明した。


「…ふむ。通常の錬成でキューのような魔導生命体が生まれる事は有り得ん。推測だが契約した祟り神の力の作用だろう。魔導生命体故に魔力の波長を変え注げたと言う訳か……」


ーーきゅきゅ。


「くく。愛くるしいではないか」


キューを抱っこし撫でる。


「…これならキューが成長し魔力が満ちればいずれ孵化できる。これ大発見だぞ。論文にまとめ発表すれば表彰ものだ」


「そんな気は全くない。…けど良かった。卵が孵るって分かって嬉しいよ。キューもありがとう」


俺が知らぬ間にキューは卵を孵そうと尽力してくれていたのだ。…本当に感謝しかないな。


ーーきゅきゅ!


「魔導生命体は危険な生物で稀有な存在。魔物学でも謎が多く未知の分野だ。…キューは悠の人柄を受け継いでるのかもしれん。大切に育てるといい」


「勿論だ」


「エリザベートもありがとな。助かったよ」


「なぁーに。大した事はしてないさ……っと」


ーーきゅきゅ。


キューがエリザベートの尻尾に興味を持ったのか動き回る。


「こら。くすぐったいではないか」


ーーきゅむきゅむ。


甘噛みしてる。


「腹が減ったのかな。もうご飯の時間だから…うわっ!?」


引き剥がそうとして足をベッドに引っ掛けた。ベッドに座るエリザベートに倒れ込み押し倒す姿勢になる。


ーーきゅきゅ〜。


「……いてて。わ、悪い。大丈夫か?」


「……」


エリザベートが頰を染め俺を見ていた。


「……悠。吾を押し倒して…くくく…胸を触るとは…余程、我慢出来ぬのだな…」


柔らかいマシュマロに似た感触。


…俺の左手がエリザベートの胸を鷲掴みしていた。


「んぅ…もう少し…優しく触ってくれ…」


「うおおおおっ!?わ、わ、悪い!!…ごめん!」


慌てて手を離し体を起こす。


「わ、わざとじゃないぞ!?」


「くくく…今日は下に皆もいるし…続きはまた今度…ということだろう?」


衣服の乱れを整える。


「違うわい!転ん」


「皆まで言うな。吾の麗しい美貌と肢体に発情するのも無理はない。…吾も貴公…悠なら…嫌な気はしないぞ」


したり顔で盛大に勘違いしてる。


「……」


ーーきゅう。


「くくくくく」


なぜか満面の笑みだ。


「…とりあえず下に戻ってご飯にしよう」


「ああ。どんな料理をご馳走してくれるか楽しみだ」


とんだハプニングが起きたが朗報を得た。


暫くは討伐依頼をこなしモンスターの死骸をキューに食べさせよう。成長すれば孵化も早まるかも知れない。キューもお腹いっぱい食べれて喜ぶだろうし。


……それにしても柔らかかったなぁ。左手にまだ生々しい感触の余韻が……はっ!いかんいかん。


煩悩を振り払いリビングに移動した。


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