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雨は上がり陽が昇る。①



〜百合木の月13日 午後15時 マイハウス〜


キッチンで釜と睨めっこ中。


「ーーうし。もういいかな」


焼き上がったお菓子を取り出す。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雲山レクチエのコンポートフラン

・雲山レクチエの果実を煮てパイ生地で包み焼き上げた菓子。雲山レクチエの清涼感ある甘さにシナモンの風味が合わさりが美味な一品。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「いい出来じゃないか。ラウラも喜ぶだろ」


折角、来るんだから美味しいお菓子を用意しなきゃ。紅茶は市販の物だけど。


「わたしのは?」


アルマがパイを見詰めていた。


「ほら用意してるよ」


「にゃふふ!」


ーーきゅきゅ〜。


「リビングの掃除終わったから」


「ありがとな。アイヴィーの分もあるぞ」


「……ちょっと。そっちの方がおっきいじゃない」


目敏い。


「掃除してくれたんだ。当たり前だろ」


「アルマ師匠。交換する?」


「さっすがわたしの弟子よ!師匠を立てる気位が素晴らしいわ。褒めてあげる」


「弟子にお菓子で気を遣われる師匠ってどうよ」


…ったく。食い意地が凄いんだから。


あ!フィオーネから貰った書類の封筒を開封するのを忘れてた。……仕方ない。直接、確認しよう。


突如、呼び声の指輪が光った。



ーー明日、巌窟亭に来てくれーー



モミジからか。明日は14日だ。レイミーさんとベルカ孤児院に行く約束をした日でもある。


孤児院に行きオーランド総合商社に商品を買取して貰った後に買い物も済ませ巌窟亭に向かうとしよう。


時計を見る。…ラウラが来るまで時間があるな。


夕飯の支度もしとくか。



〜午後16時 マイハウス キッチン〜



夕食の準備を終え約束の時刻。そろそろ来る頃だ。


「ん…雨か」


窓に水滴。聴こえる雨音。雨は次第に強まっていく。


タオルを用意しとこうかな。


この雨じゃ傘を差しても濡れるだろう。タオルを準備してると呼び鈴が鳴る音がする。


お、来たか。


「アイヴィー。ちょっと出てくれるか」


「うん」


玄関に向かうアイヴィー。


ドアを開ける音とほぼ同時に閉まる音が聴こえた。


「ラウラじゃなかったのか?」


「…新聞勧誘の人だった」


家に勧誘が来るなんて珍しい。


再び呼び鈴がしつこく鳴り続けた。


「しつこい勧誘だな」


「無視した方がいい」


更に鳴る呼び鈴。今度はドアまで叩き始めたぞ…。


結構な勢いだ。玄関を壊すつもりか?


「…ちょっとひどいな。俺が行ってくる」


N◯Kを断り続けたテクニックで追っ払ってやろう。


「あ…!待っ」


玄関のドアを開く。


「しつこいぞ。うちは新聞は取らないし勧誘は間に合ってる。次、来たらーー」


「はろー」


「くくく。やぁ悠」


「…こんにちは」


「ーーって…ルウラにエリザベート……ラウラじゃないか」


「ルウラの顔を見るなりアイヴィー嬢が勢い良くドアを閉めてね」


「いえす」


「…すまない。最初は僕一人で来るつもりだったんだが結局、二人も行くって聞かなくてさ」


「別に大丈夫だけど……こら。嘘までついてお客さんに失礼だろ」


「がるるる」


ルウラを見て歯を剥き出しにして唸る。


どんだけ嫌いなんだよ。


「…立ち話もなんだし入ってくれ。雨で濡れたろ?タオルもあるから」


「ありがとう」


「邪魔するよ」


ラウラとエリザベートが家に入る。


「…がーる。どあをしゃどーでくろーずしようとしても無駄。見えてる」


「気づかれた」


火花を散らす二人。…出会った時から喧嘩越しだったもんなぁ。


「ほら、こっち来い」


抱っこしてルウラからアイヴィーを離す。


「べー」


「ふぁっく」


「あー…もう。喧嘩すんな」


一悶着あったがリビングへ案内した。


…三人が訪問するとはどんな要件だろう。



〜20分後 マイハウス リビング〜



「ぐっど!」


「…ふむ。菓子職人になっても通用するぞ」


「本当に美味しい。…フィオーネも言ってたよ。悠は料理が得意だって」


用意したお菓子は好評だった。菓子を食べ他愛ない世間話を楽しむ。


アルマとキューは別の部屋に行ってしまった。


「準備した甲斐があったよ」


「もぐもぐ…」


隣に座るアイヴィーはまだ不機嫌そう。


「それにしても素敵な家だ。庭園もあって…畑も綺麗で…噂に聞いてた廃墟とは思えないな」


「くくく。噂とは…幽霊がでる魔女の家だったか?確かにそんな雰囲気は欠片もない」


「ルウラもここに住みたい」


「…ごくん。寝言は寝てから言って」


ラウラが俺を一瞥し目を閉じる。


「話は変わるけど…悠は見違えるほど強くなったね。僕と同等…いや、それ以上かも知れない…」


「吾も同感だ。…だが現実的に考えれば才に恵まれた者でもたった一週間で『十三等級トップクラス』の強さに到達するなどあり得ん」


「…おぅマジだ!ルウラと戦った時と別人。感心したぜ。ふぅ〜」


アルマと同じく強くなったのを見抜く三人。どうして分かるのだろう。


「…何で強くなったって分かるんだ?」


「マギ・ディテクト」


ぽつりとアイヴィーが呟く。


「御名答だアイヴィー嬢。吾が説明してやろう。『魔力探知(マギ・ディテクト)』は相手の力量を察知する技術でスキルや魔法の類では無い。閲覧系のスキルと違い詳細は知れぬが相手の内包する魔力の滾り・流れ・力の強さを感じ取れる。魔力の数値では無く探知するのは内包されし力強さだな。…妨害系スキルが効かない分、初見で力量を知るには打ってつけの技術なのだよ」


「凄いな」


「くくく。…この技術は皆が使える技術では無い。教わらず最初から使える者もいれば…強者でも使えぬ者もいる。才能とは別に魔力を察知する敏感な性質に左右されるのさ」


「…本で見た。どうやれば習得できるの?」


「習得するには」


「がーる」


エリザベートの説明を遮りルウラがアイヴィーの手を握る。一瞬、すごい顔をしたが何かに気付き俯く。


「…これは…魔力が見える…?」


「性質が合えばすぐ使える。とーくやわーどの説明は難しい。すとれーとに魔力探知の波長を伝えたほーが早い。…おっけぇ。成功した。いぇーい」


ピースするルウラ。


「…あ…ありが」


「…ルウラの直に波長を伝える方法は乱暴なやり方で間違えば波長が混ざり合い自我に害を成す。…通常は対象の魔力を捉えるトレーニングが一般的だがね」


エリザベートが呆れ顔で続けた。


「のーぷろぐれむ。結果おーらい」


「…やっぱり嫌い」


悪びれないルウラを睨み小さく呟いた。


…話が逸れたが先に俺から本題に入るとしよう。


「ちょっといいか。家に来た用件とは別にラウラとエリザベートに聞いて欲しい話がある」


「悠が僕達に?」


「ああ。アイヴィーとルウラは既に知ってるが俺の素性についての話だ」


「!」


「ほう」


二人の双眸が鋭くなる。


「悠…」


不安そうに呟くアイヴィーの頭を撫でる。


「いいの?」


ルウラも真意を確かめる様、見詰める。


「ああ。…でも、妄想の与太話に聴こえるかも知れないし長い話だ。それでも聞いてくれるか?」


「くくくッ!願ってもない機会じゃないか。是非、聞かせてくれ。余程、吾等を信頼してくれてるのだろう。その誠意を笑ったりしない」


「僕も知りたい。君が下手な嘘で誤魔化す人ではないのは分かってる。どんな内容だろうと真摯に受け止める事を……『金翼の若獅子』のエンブレムに賭け誓う」


「そうか」


一呼吸置き告げた。


「…先ず俺はこの世界の人間じゃない」


怪訝と困惑。両方の感情が二人から伝わる。


雨の音がやけにはっきり聞こえた。



〜30分後〜



過去の経緯と事情を話し終える。


…ラウラもエリザベートも何も言わない。


目を瞑り内容を頭の中で反芻し飲み込もうとしてるのだろうか。茶化す事も横槍も入れず静聴してくれた。


「祟り神の契約者、か」


ラウラが呟く。


「…くっくくくっ!…吾の予想を遥かに上回る話だ。信憑性を確かめる術はないが事実と思うしかない。…悠の強さも…常識に疎く浮世離れしているのも…合点がいくしな」


「田舎者って言ってたけど…ふふ。確かに軽々しく他人に話せる内容じゃない。そう言うのも仕方ないよ」


「…し、信じてくれるか?」


「僕は信じるよ。瞳を見れば嘘じゃないって分かるし君は嘘が下手だしね」


「吾も同感だ。いやいや…悠よ!吾の見込んだ通り貴公は只者じゃなかったな」


…存外、すんなり信じてくれたな。


拍子抜けしちゃう。


「…悠が契約者って聞いてどうするつもり?」


アイヴィーが眉間に皺を寄せラウラに問う。


「契約者は監禁されたり人体実験されるってルウラが言ってた。…冒険者ギルド総本部の『金翼の若獅子』の副GMは……悠を拘束して傷つけるの?」


「アイヴ」


「悠は黙って」


「……はい」


「…仮にそうすると言ったら君はどうするんだい?」


ラウラは穏やかに問い返す。


「戦う」


「勝ち目は無いよ?」


「…なくても戦う。絶対に悠を渡したりしない。…アイヴィーは悠を傷つける人を絶対に許さないから」


「……アイヴィー…」


断固とした口調だった。


「……」


ルウラが席を立ち俺の右隣に座る。


「…ルウラもこっち側。下らない倫理観は要らない。信頼できるゆーはないすがい」


「ルウラも…」


「自分は傷つけた癖に」


「過去を蒸し返すのはがーるの悪い癖。ふゅーちゃーに生きよう」


「……ふふ」


ラウラが二人を見て微笑む。


「大丈夫だよ心配しないで。僕も同じ気持ちさ」


「…ほんと?」


「本当だよ。悠とは短い付き合いだが誰かの為に自分の身を犠牲にしても戦うって知ってる。…優しくて…誠実で……そんな彼を僕は君に負けないくらい信頼してるんだ」


「単純に考えて悪人ならばアイヴィー嬢やフィオーネ嬢…他に大勢の人から好かれる訳はない。皆の評価を顧みれば拘束や監禁など必要ないさ。吾も同じ気持ちだ」


「ラウラ……エリザベート…」


「悠もアイヴィーも心配しないで。これからは僕達も力になる」


「副GMと上位ランカーの吾とルウラなら色々と便宜も図れるだろう。頼ってくれて構わんぞ」


「…ありがとう」


口から出たのは感謝の言葉。それ以外、何を伝えたらいいか分からない。


契約者と知っても変わらず接してくれて嬉しかった。


皆を見て心の底から笑顔が溢れた。



〜同時刻 マイハウス 廊下〜



「…ったく。心配かけんじゃないっつーの」


ーーきゅう。


「問題が起きたら対処するつもりだったけど……ふん。杞憂だったわね」


リビングを廊下から隠れて覗くアルマとキュー。


「行くわよキュー。見つかったら面倒だし」


ーーきゅきゅ!


キューを連れてリビングから遠去かるアルマ。機嫌良く揺れる尻尾が心情を表現していた。



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