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のんびり過ごそう!⑥


〜百合木の月12日 早朝 マイハウス〜


四日が経過した。


あれから野菜畑の世話や鍛治に没頭する日々を過ごしている。アルマの稽古が始まりアイヴィーも大変そうだが毎日、充実しているようだ。


何度か稽古に付き合ったが……うん。控え目に言っても厳しい。よく文句を言わず従ってると思う。


キューはちょっと大きくなった。ガノンゼオの死骸を食べて成長したのだ。もう少し大きくなればアイヴィーを背に乗せ飛べるかもしれない。


固有スキル『生命帰還』の効果もあるだろうが魔導生命体は成長速度が速いのかも…?


いずれオルドやオルガみたく立派な竜に育ったら庭に納屋を建てないとな。…厳密には竜ではないが。


新しい家族である氷飛龍キルカの遺した卵に変化は無い。調べているが孵化の解決策は見つからなかった。


キューが一生懸命温めてはいるが…。金翼の若獅子にに行ったらエリザベートに相談しよう。


さて。着替えも済んだし野菜畑に行くか。



〜マイハウス 野菜畑〜



「……えぇー…?」


目を疑う光景が広がる。

畑一面に実る瑞々しい青葉と野菜が朝露に濡れ太陽の陽射しを浴びていた。


甘熟ツリーの小さかった若木が見上げる程、立派な果樹へと変化し見たことがない果実を実らせている。


…昨日までの俺が知ってる野菜畑じゃない。急激な変化に呆然としてるとアルマが現れた。


「ふあ〜。…んー!…気持ちのいい朝ね〜。あら…野菜と果物が実ったじゃない」


尻尾を振って喜ぶ。


「…あり得ないだろ。昨日まで芽すら出てなかったのにまるっきり違うぞ…?」


「んー…神樹が成長した影響かしら」


「神樹が成長?」


「確認してみましょ」



〜マイハウス 神樹の池〜



「ほらね」


「……本当だ」


一本の茎に葉を付け伸びた神樹。仄かに輝いている。


「神々の遺産だもの。成長が速いのね」


「毎日、肥料撒いて水をあげただけなのに…」


「龍玉は龍の純粋な魔力の結晶体だから魔力を含んだ雨や土が相性いいのかも。育つほど土地に恩恵を与えるってのは…昔、文献で見たから知ってたわ。…んー…でも一定の成長には時間が…なんだったっけ…」


眉間に皺を寄せ悩むアルマ。…もしかしてドラグマの神樹と繋がった事が関係してるかも知れない。


「駄目ね。思い出せないわ。…あ、そうそう!神樹が成長したし封印も更に緩くなったわよ。いひひ。使える魔法が増えてアイヴィーの特訓の幅も広がるわ。にゃふぅ〜」


「おめでとう」


農作物が育って害はないもんな。びっくりはしたが…。とにかく収穫して今日は野菜パーティだ。


「…神樹を世話してくれる悠には感謝しなきゃね。…ありがと」


俺を見上げ素直に礼を言う。


「珍しいな。家で粗相でもしてきたか?」


「………」


飛び上がり顔を物凄い速さで引っ掻かれた。


「い、痛っでぇ!?」


「…女心って単語の意味を辞書で調べて三千回音読してきなさい」


ただの冗談だったのに…。野菜畑に戻ろう。



〜数分後 マイハウス 野菜畑〜



「……」


実った野菜を摘もうと手に取り驚愕した。


俺はこの場所にトマトを植えた筈だよな…?


手に取ったトマト……らしき心臓に似た赤黒い物体は鼓動を繰り返し太い血管に似た葉脈が脈打っている。


「…まるっきり心臓じゃない」


アルマが横から覗き込む。


「俺もそう思った。信仰の影響で間違いないと思うが…一応、食えるか鑑定で確認してみる」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

鮮血トマト

・黒永悠の野菜畑で育つ心臓に似たトマト。果汁は血のように赤い。見た目と違い脈打つ葉脈の食感と甘味と酸味のバランスが良く従来のトマトより格段に美味。栄養値も高いが見た目で敬遠される野菜だ。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


本当に美味いのか…?


「…栄養もあって美味しいってさ。食べていいぞ」


「せ、生産者の特権でしょ。あんたが先に食べなさいよ」


…食いしん坊の癖に逃げやがった。


鑑定が嘘を吐くとは思わないが食べるのに躊躇う見た目なんだよなぁ。…けど粗末にしちゃ駄目だ。


意を決して恐る恐る一口齧る。


「………」


「…どう?」


「うっ」


「ちょ!は、吐くならあっちでーー」


「美味いっ!!」


「ーー……ってマジ?」


「アルマも食ってみろ」


促され齧り咀嚼したアルマが驚く。


「お、お、美味しい。…いい塩梅の酸っぱさと甘さがいいわ。なにより食感も面白い」


「俺もびっくりしたよ。見た目は最悪だけどな。…信仰の数値がマイナスに振り切れた影響か?」


「あんたの場合は信仰の数値が技術・生産・神樹の加護・龍玉の魔力で相殺された結果だと思う。ミコトの影響もあるでしょうし」


「なるほど」


失敗じゃないだけ良しとしよう。


「信仰の数値がマイナスなら普通は植えても枯れるか…稀にモンスターに変異する現象が起きるはずよ。モンスターにならなくてよかったわね」


ありがとう。神樹様。


「そ、そうだな。…収穫するか」


「ならアイヴィーも呼びましょ。影を操る訓練にちょうど良いわ」



〜30分後〜



「……ふぁ。…おはよー…悠…アルマししょー…」


ーーきゅむ…きゅむ…。


まだ眠そうなアイヴィーとキュー。

日頃の稽古で疲れが溜まってるのだろう。


「シャッキっとしなさいシャッキっと」


「そうだ。アイヴィーとキューも食べてみろ。美味しいぞ」


寝惚け眼が大きく開いた。


「…し、心臓…?…いらない」


このままじゃ食べて貰えそうにないので野菜畑と神樹の件を説明した。


〜数分後〜


「おいふぃ」


ーーきゅむきゅむきゅむきゅむ…。


最初は戸惑っていたが夢中で食べるアイヴィー。キューは最初から臆せず食べてたけど。


…側から見ると心臓を食べてる様にしか見えない。不本意かも知れないが吸血鬼っぽいな。


「今日、初めの稽古は影を使った収穫ね。それぞれ影の形態を変化させ野菜を収穫し箱に分ける…手は一切使っちゃ駄目。もちろん最大出力よ。わかった?」


「ごくん。わかった」


「それと弟子に朗報があるわ。泣いて喜ぶこと間違いなしよ!」


「わくわくする」


期待に顔を弾ませる。


「封印が緩まり新しい魔法が解禁されました〜!…これで思い描いてた稽古ができるわよ。にゃふふ」


弾ませた顔が一瞬で曇る。


「…思い描いてた稽古…」


「ええ!どーしても座学中心になりがちで不満だったけど実践形式の稽古なら経験値も蓄積されるし楽しいわよ〜。どう?嬉しいでしょ!」


「…………」


今でも十分、厳しい内容が更にハードになるんだ。


そんな顔になるわ。


「…うれしいです。アルマ師匠…」


「いひひひ!」


アルマの喜ぶ顔を見て気を遣ってるんだろうなぁ。


「…頑張れ」


肩に手を置く。


「アイヴィーは強くなりたいから。だいじょぶ…」


ーーきゅー。


そんなこんなで収穫を開始した。


〜5分後〜


野菜畑の方はアイヴィーに任せるとして…。

甘熟ツリーの方も収穫しよう。


梯子を木にかけ登り黄色で尖った熟れた果実を捥ぐ。感触は少し硬い。


「…鑑定さん出番ですよっと」


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

雲山レクチエ

・険しい山頂の木に実を付ける梨。澄み渡る空気と山の恵みを糧に育ち固めの歯触りと爽やかな甘さは清涼感に溢れ美味。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「よし!こっちは見た目も問題ない」


大量の雲山レクチエを捥いで収穫した。


そして衝撃的な光景を目撃する。


途中、淵嚼蛇を使って捥いでたら何個か黒蛇が食べていたのだ。


「え。食べたりすんの」


咀嚼する右腕の黒蛇を眺め呟く。黒蛇は食べ終わると低く唸り勝手に消えた。


……び、びっくりなんですけどぉ!!



〜30分後 マイハウス 農作業小屋〜



果物を箱に摘み終わり小屋に戻るとアイヴィー達が怪訝な顔で箱を覗き見している。


「どうした?」


「…これ見て」


「えぐいわね」


ーーきゅー。


箱を見て鑑定する。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


臓腑ポテト

・黒永悠の野菜畑で育つ胃袋に似ているジャガイモ。表皮は艶めく赤黒い色をしてる。見た目に反し風味がかなり強く豊富なデンプン質を含んでいる。生食はできない。料理に使えば絶品の味を生み出すだろう。


蟲茄子

・黒永悠の野菜畑で育つ蝶や蛾の幼虫に似ている茄子。表皮はけばけばしい緑色をしてる。見た目に反し肉厚な中身は加熱すると極上の脂を溶かしたと錯覚する程、ジューシーな味わいを楽しめる。生食はできない。料理に使えば絶品の味を生み出すだろう。


蠕く蛇芋

・黒永悠の野菜畑で育つ胴短の蛇に似ているサツマイモ。先端が蛇の顔になっている。見た目に反し食滅繊維たっぷりで非常に糖度が高い。生食には向かない。焼いて食べれば絶品の味を生み出すだろう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「……」


味が良いだけに勿体ない見た目だ。


「…鑑定したらどれも美味いってさ」


「美味しくてもまるっきり内臓と芋虫と蛇じゃない」


はっきり言うなよ…。考えないようにしてるのに。


「加工したり料理で使えば問題ないだろ。…せっかく作ったんだ。絶対に食って貰うからな」


「……急にお腹が痛くなった。アイヴィーは野菜アレルギーかもしれない」


お腹をわざとらしく押さえる。


「そんな都合の良いアレルギーはありません」


「むぅ」


「かわいく膨れてもダメだ」


「ん〜…にゃふ!そっちの果物は見た目も美味しそうね」


鼻を鳴らし果物篭を覗く。


「ほんとだ。アイヴィーは果物を食べたい。食べなきゃ野菜アレルギーになるから」


180度、野菜を見る目と違う。


「ったく。…みんなで休憩がてら食べよっか。皮を剥くから皿持ってくるよ」


「わーい」


〜数分後〜


皆で小屋の前で涼みながら雲山レクチエを食べる。


「もぐもぐもぐもぐ…ごくん。おかわり」


「はいはい。ゆっくり食べろよ」


「あー…これいいわ。美味しいじゃない」


ーーきゅぷ〜!


爽やかなでさっぱりした果汁たっぷりの甘みが口内を潤す。平和でゆったりした時間を満喫し幸せとレクチエの果実を噛み締めながら過ごした。


収穫した野菜は一先ず箱に入れ家にある保管箱の魔導具に入れた。腰袋に何でも入れるのは嫌だし容量の大きい収納系の魔導具も買わなきゃなぁ。


ーーーーーーーーーーーー

農作物(野菜・果物)

・鮮血トマト×30

・臓腑ポテト×50

・蟲茄子×30

・蠕く蛇芋×20

・雲山レクチエ×25

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