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のんびり過ごそう!④


〜30分後 第6区画 商店街〜


「トマトに茄子…ジャガイモとさつま芋…」


初心者向けで育てやすい野菜の種と育苗を八百屋のオッさんに勧められて買った。他にも野菜栽培の手順本・鍬・シャベル・一輪車・フォーク・草刈り鎌…必要な道具は軒並み買い揃えている。


ーーーーーーーー

所持金:610万G

ーーーーーーーー


「楽しみだなぁ」


ーーきゅう。


野菜が実った畑一面を想像しながら帰り道を歩いた。


〜マイハウス〜


家に戻った俺は愕然とした。苗と種が入った袋を手から落とす。


「帰ってきたわね〜」


「悠!悠!見て!アルマの創造魔法はすごい!!」


「………」


興奮冷めやらぬアイヴィーとは正反対に俺は開いた口が塞がらなかった。


「ふっふっふっ!ちょっと張り切り過ぎちゃったわね。神樹を植えたからか植物にも魔法の影響が起きたのは予想外だったけど」


ーーきゅう!きゅきゅきゅ!


「…ちょっと…って…おま……これ…」


敷地が広がった大きな庭。家を出る前は無かった頑丈そうな木造りの小屋が二つ建設され正面には柵が並び区切られている。


池のレイアウトも変わっていた。神樹の種を植えた場所は小さな橋が架けられ浮島となり見事な植生が池を囲む。地下水が湧くのか池の水は澄み切り底もかなり深い。…最早、庭園だ。


家も増築され前の外観を受け継いでるが見栄えは更に良くなっている。


「は、ははは…浦島太郎にでもなった気分だ……」


夢でも見てるのかと思い自分の頰を抓るが…痛っ!?


紛れも無く現実だった。


「家の内装も変えたわ。既存の部屋は弄ってないけど台所と風呂場を改築して部屋数を増やしたの。地下の階層は地下二階まであるわよ。一階は変わらず工房。二階はアイヴィーの修行目的で作った稽古場ね」


「…えぇー…」


驚き過ぎて声が出ない。


「外観は見てわかるでしょ。神樹の周囲は庭園風に変えて小屋は農作業をするって言ってたから作ってあげたわ。一応、柵で区切って畑のスペースも確保したわよ」


「…そ、創造魔法ってこんなに凄いのか?」


「ん〜。『最上位魔法アデプトスペル』の一つだけどこのレベルで扱えるのは中々、いないと思うわ」


「絶対いない!!…五大元素の変換量も魔素構築や魔法展開…演算速度も…桁違いでもう…アイヴィーはびっくりしてるから!」


興奮し鼻息も荒い。こんなアイヴィーを見るのは初めてだ…。


「にゃっふー!流石、わたしの弟子ね。師匠の凄さをよく理解してるじゃにゃい」


「…いや…俺もこれは…マジで凄いと思う。ありがとな……」


「ふっふっふっふっ!」


鼻高々にアルマが笑う。


常識と物理法則を無視してる。リフォームが短時間で終わるんだぞ。


最上位魔法か…。


練度と同じで魔法も単純に魔力やMPだけではなく深い知識や応用力が必要になるみたいだ。


残念だが知識がない原始人の俺には習得できないだろう。今後のアイヴィーに期待だな。


…ずっと呆けていても仕方ない。アルマがここまでしてくれたんだ。農作業を始める支度をしよう。


〜30分後〜


作業義に着替えた。


「準備万端」


アイヴィーも麦わら帽子を被り作業着に着替えてる。


ゴシックドレスとパジャマ以外の服装は新鮮だ。


「よし。それじゃ畑を耕す前に…」


貪欲な魔女の腰袋から取り出したるは土飛龍の豊玉。


「龍玉じゃない」


「おう。仲良くなった龍達から貰ったんだ」


「ふぅーん。ずいぶん気に入られたみたいね。滅多に人に渡さないのに」


めっちゃ簡単に渡されたけどな。


「…龍玉…本でしか知らない」


「これは仲良くなった龍の友達から貰ったんだ。…本の知識も大切だが自分で実際に体験し人柄を育むことも大事なんだぞ。現場に居なきゃ知り得ないことだって沢山あるんだ」


保護者らしい発言を久々にした気がする。アイヴィーの尊敬の眼差しをひしひしと感じるぜ。


社会で積み重ねた経験は伊達じゃないってことだ。


「…否定はしないけど学がない奴ってすぐ精神論とか対人関係の重要性を説くわよね。教養がなくて知識の造詣がないから」


「そうなの?」


アルマの鋭い一言が突き刺さる。


「な、何のことかな」


誤魔化すように豊玉を翳しMPを消費する。豊玉が輝き辺り一帯の地面を光が包んでいく。


ーー土飛龍の豊玉により土壌が肥沃になりましたーー


「…へぇ。使うとウィンドウの表示があるのか」


「アイヴィーも使ってみたい!」


豊玉を渡すと周辺に翳して歩く。波立つように地面を走る光。


「おお〜…楽しい!」


アイヴィーが庭の土を豊かにして回ってる間に土起こしと整地の準備をするか。野菜栽培の手順本を見ながら必要な道具を取り出す。


うろ覚えの知識しかないが地球の農作業とパルキゲニアでは類似点も多いが違う点もある。


本を見る限りだと…ふむふむ。


耕して肥料を撒き種や育苗を植えて…水やりをする。


後はモンスターの害獣・害虫の対策をすればいいだけか。一番大変なのがモンスターの対策らしいが此処ならその心配も必要ない。


素人でもいけそうだ。


ミドさんは生産・技術・信仰の数値が影響するって言ってたっけ。…信仰がマイナスに振り切ってるけど大丈夫だろ。今更どうにもならないし。


「…ふあ〜あ…平和ね〜」


ーーきゅ〜。


〜10分後 マイハウス 農作業小屋前〜


「準備もできたし野菜を植える畑を鍬で耕すぞ。大変だけど頑張ろう」


「うん。アイヴィーは元気いっぱいだから」


鍬を持ち張り切る姿が可愛い。


「あ、ちょい待ち」


「?」


アイヴィーをアルマが呼び止める。


「あんたは影を使って鍬を操りなさい」


「影を?」


「悠が居ない一週間の間、自主練習してる様子を眺めて分かったわ。せっかくの『森羅系(ナトゥーア)』の才能スキルを活用し切れてないもの。練度が低いわ」


「…私の影の練度が低い…?」


「ええ」


練度が低いと言われ些か納得いかない表情だ。


「自分では使い込んで研鑽してるつもりでしょ?…甘いわね。強力無比な戦闘能力と固有スキルを成長させるのは並大抵のことじゃないのよ」


「……」


「10年かそこらで極めるなんて無理」


「……」


「…とは言え10歳でその強さなら十分とも言える。上には上がいるのも事実だけど。極めるつもりなら頂は遥か彼方ね」


「遥か…彼方……」


「…俺も稽古でそう教わった。練度って言葉もその時に初めて知ったよ」


「あんたは異世界から来た人間だし知らなくても仕方ないわ。その様子じゃ重要性は学んできたのね」


「ああ。嫌ってほどな」


「アイヴィー。幼い身で強さを渇望するのは理由があるんでしょ?」


アイヴィーが俺を一瞥し力強く頷き答えた。


「うん。大切な理由がある」


「…そう。なら師匠のわたしが言うことを実践しなさい。アジ・ダハーカを鍛えた実績は伊達じゃないわ。諦めないなら必ず強くしてあげるから」


…アジ・ダハーカを鍛えたって……そりゃ確かに最高の実績だが子供にはきついんじゃないか?


「わかった」


「よし。影を最大出力で展開した状態を保ち鍬を振り下ろして畑を耕しなさい。限界状態の維持は練度を上げるのに効果的よ」


「…悠、鍬をあるだけ貸して」


「お、おう」


予備分を含め買ってきた鍬を全部並べる。


「影よ」


影が鍬を掴み持ち上げて広がる。


「耕せ」


無数の鍬を影が一斉に振り下ろす。一糸乱れずに土を耕しながら前に進んでいく。


まるで耕耘機だ。瞬く間に土を耕していく。


「すっ、すごい…」


「その調子その調子〜。あと五往復しなさい」



〜20分後〜



「あ、アイヴィー!無理しなくていいからな!」


「…ぐっ…うん…だ、いじょ…ぶ!」


額に汗を滲ませ歯を食い縛る。三往復目からペースが落ちてきつい表情をしてるな。


「アルマ。あれってかなりきついんじゃ…?」


「当然よ。普段は出力を抑えて影を操ってるんだし」


「森羅系のスキルって何なんだ?」


「森羅系統の固有スキルってのはHPとMPを消費せず自然現象を操れるレアスキルのことよ。使い勝手は抜群で超便利。他のスキルと比べ郡を抜いて秀でてるわ。その分、スキル所持者も稀ね」


「HPとMPを消費しない…」


「その代わり運動と一緒で使えば使うほど体力を消耗する。…練度を高めるには日常的に鍛える必要があるの。体を動かさなきゃ鈍るのと一緒よ」


「いきなりハードルが高いんじゃ…」


アルマが俺を睨む。


「限界を超えなきゃ強くなれないわ」


有無を言わせない確固たる口調。


「…確かにな」


自分も限界を超え稽古を続けたから分かる。


「でしょ?…黙って見てなさい。短期間でもわたしの稽古を経験すればアイヴィーは段違いに強くなる。あんたは特殊なタイプで物理特化の野蛮人だけどあの子はわたしと相性が良い」


や、野蛮人…。物理特化なのは認めるが酷くね?


畑がみるみる耕されていくなぁ。疲れたアイヴィーの為にタオルと飲み物を用意しとくか。



〜30分後〜



影が消え鍬が落ちる。


「はっ…ぜぇ…はぁ…!…ご、ご、五往…五往復…終わっ…たか…ら…!!」


息も絶え絶えで大汗を流す。一心不乱に鍬を振り土を掘り続け疲労困憊なのだろう。


今にも倒れそうだ。


「いひひ。途中、危なかったけど根性あるじゃない。明日からは本格的に訓練するから覚悟しなさい」


「…ほ、ほんか……く…ぜぇ…ぜぇ…てき…?」


「ん〜。楽しみだわ〜」


「りょ、りょー…か…い……」


魂が口から抜けるようにあんぐりしてる。


「…頑張ったな。ほらタオルと水だ。小屋でゆっくり休んでろ」


ひったくるように水筒を奪いがぶ飲みするアイヴィー。


「…んぐ…んぐ…んぐ…!…ぷは!…ありがと…休む……」


ーーきゅあぁ〜…きゅぴー…。


惰眠を貪るキューの隣に倒れるように横になり目を閉じて寝入る。


「…明日からも大変だと思うが応援してるぞ」


タオルでアイヴィーの髪や体の汗を拭きながら呟く。


お陰で十分に畑を耕せたな。面積も広く…いや、広すぎだ。農園レベルだろこれ。


…まぁいい。やり甲斐がある。


こっからは俺が頑張る番だ。



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