のんびり過ごそう!③
〜百合木の月8日 午前7時 マイハウス 庭〜
翌朝、庭の池のほとりで種を植える準備を整えた。
「……」
ーーきゅう…。
傍で固唾を飲み見守るアイヴィーとキュー。
「ここに植えよう。…いいか?」
ーーーどこに植えても結果は分からないもの。あんたに任せるわ。
不安と迷いを感じさせない声。腹を括ったのだろう。
ーーー土に埋めたらこう唱えなさい。…『天神地祇の理に背き捧げ奉る。永劫の呪縛を解き放ち翼を与えん。我が名に於いて命ずる…フィアーズナ・イア・エオーサ』。…古から伝わる解印の祝詞よ。これで成功すれば変化が起きるはず。
「わかった」
小さな穴を掘り種を埋めた。
…これで準備は完了だ。あとは唱えるだけ。
ーーー………。
「…きっと大丈夫」
ーーきゅー!
皆を見て一度、深呼吸してから祝詞を唱えた。
「天神地祇の理に背き捧げ奉る」
…アルマは罪を犯したかも知れない。
「永劫の呪縛を解き放ち翼を与えん……」
……もう十分、苦しんだ。償いは果たした筈だ。
「我が名に於いて命ずる」
…それでも許されないなら俺が一緒に罪を背負う。頼む…封印を解いてくれ!
「…フィアーズナ・イア・エオーサ…!」
静寂が続き失敗かと思ったその瞬間だった。
「…じ、地震…?」
ーーきゅ、きゅ、きゅう…!
激しい大地の胎動と供に眩い紅い光の柱が次々と大地から立ち昇る。
ーーー…これって…あ、あああああああああああッ!!?
今度は巨大な魔方陣が辺り一面に展開した。
「あ、アルマ!」
駆け寄ろうとするが体が動かない。
「な、何が起きてんだ…!?」
〜同時刻 龍神の水郷 ドラグマの神樹〜
ーー主よ!これは…!?
ーー…ドラグマの神樹が共鳴してる…?
蒼き光柱が地面から溢れドラグマの神樹を包む。
慄くオルドとオルガとは対照的に大声でアジ・ダハーカが笑った。
「かかかかかっ!悠がアルマ様の封印を解くために神樹の種を植えたのじゃな。…刮目せよこの胎動を!」
ーーピュイ!ピュイ!
ーーピュイィ〜!
〜同時刻 禁域シャングラ クリファの神樹〜
「モ、モーガンさん!こりゃあ一体…」
ドラグマの神樹と同じく禁域シャングラでも緑の光柱がクリファの神樹を包んでいた。
「神樹が騒ついて……光が…な、なにか悪いことが起きるんじゃ!?」
ケーロンが呆けミドは慌てふためく。モーガンだけは柔和な笑みを浮かべ冷静に成り行きを見守っている。
「…いえ。これはきっと悠さんが神樹の種を…うふふふ。そうですか。役に立ったみたいですね」
穏やかにクリファの神樹を眺め呟いた。
〜首都ベルカ 第6区画 マイハウス 庭〜
暫く続いた地震が止み光の柱が消える。種を植えた場所を見ると紅い花が小さな芽を囲んで咲いていた。
「ゆ、悠」
ーーきゅきゅきゅう…。
「アイヴィー!キュー!怪我はないか?」
「私とキューは大丈夫。……アルマは?」
急いでアルマの元へ駆け寄る。
ぐったりと項垂れ倒れていた。
「アルマ!…おいアルマ!!」
抱き抱え名前を呼ぶ。息はあるし心臓も動いてる。
…しかし目を開けない。
「嘘だろ…?起きろ!起きやがれ…!!」
「お願い!…目を開けて……!」
ーーきゅきゅきゅー!きゅきゅ!
皆で必死に呼び掛けた。願うように呟く。
「頼む!こんな結末は嫌だ…お願いだから……」
「…あーも〜…アルマアルマってうっさいわね〜」
普通に反応したアルマを呆然と見る俺。体を伸ばし前脚で顔を撫で欠伸をする。
「お、お、お、お前」
「くひひひ…。『頼む!こんな結末は嫌だ…お願いだから……』…なーんて涙目で言ってんだもん。笑いを堪えてたけど我慢できなくて反応しちゃったわよ」
悪戯が成功した子供みたく笑う。
「てめっ…猫鍋にして食ってやっからな!!」
両頰を引っ張る。…心配して損したぜまったく。
「いふぁいふぁいふぁいふぁい!」
暫し引っ張り続けた。
「ちょ、ちょっとふざけただけじゃない!…ど、動物虐待で訴えてやるわよ!?この変態サド家主!」
「…生意気を言う口はまた引っ張らなきゃな。これは虐待じゃない。躾だ」
「にゃあああ!だれか助けてにゃああああん!」
馬鹿なやり取りを口を開けぽかーんと眺めていたアイヴィーがアルマを指差し呟く。
「…アルマが…喋ってる……」
「え…言葉が分かるのか?」
「…うん…アイヴィーにも…ちゃんとわかるから…」
ーーきゅう。
古代語が話せなきゃ分からない筈じゃ…。
「…なるほどね。そーゆーわけか」
アルマは事態を理解してる様子だ。
そもそも封印は解除されたのか…?
「おい。どうなったのか説明してくれ」
「説明しなきゃ分からないか。…下僕一号!二号!三号!魔王アルマ様のありがた〜いご教授をそこに座って承りなさい」
「誰が下僕だ」
「ゴロゴロゴロゴロゴロ……はっ!?ひ、卑怯よ背中をなぞるのは!」
このお調子者のネコめ。
〜数分後 マイハウス 庭〜
アルマの前に俺とアイヴィーが座る。キューはアルマの尻尾で遊んでいた。
「説明するわよ。結論から言えば封印は解けたけど完璧じゃない」
「完璧じゃない?」
「ええ。行動範囲は未だ家の敷地内だけみたいだし完全に解けるには時間が掛かるわ。…でも、呪縛が緩まって変化は起きてるの」
「変化って具体的には?」
「一つは古代語を使わずとも会話ができること」
「……アルマがネコさんじゃないみたい」
「元よりこの姿は仮の姿なの!…二つ目は魔力が戻りつつあるわ。全盛期に比べれば微々たるものだし戦闘系の能力は使えないけどね」
「…アジ・ダハーカは神樹が成長すれば封印は勝手に解けるって言ってたが…」
「その通りよ。神樹がわたしの封印を肩代わりしてるってわけ。成長すれば徐々に封印の呪縛は解かれるでしょうね。流石は神々の遺産だわ。…祟り神を封印してた実績を考えれば当然っちゃ当然だけど」
…神樹に封印しても影響を与えてたミコトって相当だったんだな。
「何れは力を取り戻し世界はわたしの前に跪き平伏す…そう!我が名は魔王アル…にゃふん」
「…なんだって構わない。封印が解けてこれからは会話もできる。…アイヴィーは嬉しいから」
話を遮りアルマを抱き締めた。
「ちょっと最後まで言わせなさいよ!…は、離しな……ゴロゴロゴロゴロゴロ…」
優しく撫でられ目を細め喉を鳴らす。結局、封印が解けてもアルマはアルマだった。
ーーきゅぷきゅぷ。
「にゃっ!!?…キュー!尻尾を噛むんじゃないわよ!」
ーーきゅう?
「いいぞキュー。もっとやれ」
〜10分後〜
「ひ、ひどい目にあったわ」
「自業自得だ。調子に乗るからだぞ」
アルマの封印の件もこれでひと段落したな。
「言い忘れてたけど神樹の世話は頼んだわよ。わたしのためにしっかり働きなさい」
「そうなると思ってたよ」
アジ・ダハーカとの約束もある。
きっちり世話をするさ。
「今日は何するの?」
「んー…そうだな。冒険者ギルドの仕事はちょっとお休みして家で鍛冶や錬成…。他には農作業をしようと思う」
「農作業?」
「ああ。甘い果物がなる木を植えてここら辺を野菜畑にするんだ」
「甘い果物…アイヴィーも手伝う!」
果物と聞いて喜ぶアイヴィー。
「ははは。なら一緒にしよっか。必要な道具を買いに行かなきゃな」
「こほん!」
アルマがわざとらしく咳払いした。
「なんだよ」
「ふっふっふっふ!折角だし呪縛から解放されつつある魔法の力を見せてあげるわ」
「魔法の力?」
「そうよ。元々、この家は地下の工房を含めわたしの『創造魔法』で建てた家だしね。前から一部の魔法は使えてたでしょ?」
「まあな」
「あれが創造魔法よ。そもそも封印された中で魔法を使うには複雑な制限や条件をクリアする必要があるの。五大元素の変換術に魔素の構築や展開式の演算を……って説明しても脳筋の原始人には理解はできないか」
憐れみの目で一瞥された。難しそうな単語ばっか使いやがって…。
「急に言われて分かる訳ないだろ。なぁアイヴ」
「すごい!創造魔法は初歩の物体変化でも一流の魔法使いが取得まで何年もかかる……それを家を建てるレベルで扱えるなんて…!!…アイヴィーにも空間固定計算式を教えて欲しいから!」
羨望の眼差しをアルマに向けた。
「!」
「え…」
分かんの!?嘘だろ……。
「前々から思ってたけどアイヴィーは見込みがあるわね。勉強熱心だし隣にいる原始人とは大違い。…これからはわたしが魔法のイロハを教えてあげる。師匠と呼びなさい!」
「うん!」
「いひひ。素直でかわいいわ〜……ほら原始人。あんたはキューと一緒に畑に撒く種でも買ってきなさい。その間にアイヴィーに教えながらやっとくから」
「よろしく」
二人はわいわい仲良く喋り始めた。話の内容を側で聞いてもさっぱり分からない。
「…行こっかキュー」
ーーきゅきゅう。
「…俺だって鍛治や錬成ができるもん。魔法が使えなくたって大丈夫だし。…べ、別に羨ましくないし。キューだってそう思うよな?」
ーーきゅ!
自分を情けなく擁護しながらキューと買い物に出掛けてたのであった。




