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のんびり過ごそう!②




〜夜19時 マイハウス リビング〜


「はふはふ!うっめぇ!」


「ラッシュ…落ち着いて食え」


「…ごくごく…かぁー!!…仕事明けにキンッキンに冷えたエールは最っっ高だぜ!ユーが作ったこの料理…油淋鶏…っつーんだっけ?よく合うじゃねぇか」


「タンシチューもよく煮込まれて絶品ですよ」


「海鮮と野菜たっぷりのパスタがうちは一番好き〜!」


「キャロル。アイヴィーにもパスタちょうだい」


「ほんふぉおいふい〜」


夕方、皆が家に帰ってきた。


あれやこれや聞かれたので龍神の水郷にまつわる話は一切伏せて答えた。龍峰に行った事をフィオーネとキャロルに怒られたのは言うまでもない。


忠告を無視して行った訳だから当然だが最終的には…。


『悠さんらしい』


…の一言で片付けられてしまった。


今は俺が用意した料理で楽しくパーティー中。


ーーー…がつがつがつがつがつ!!


ーー…きゅぷきゅぷきゅぷきゅぷ!!


アルマとキューには特別に大量の料理を拵えたが…フードファイターかよ…って勢いで一心不乱に食べている。


「…つーかユーよぉ。龍峰に行って偶然、卵を拾ってきたって言ってたけど本気で育てるつもり?」


キャロルが問う。


キルカの卵は偶然、死んでいた龍の側で見つけたって事にしている。


「本気だ」


「『串刺し卿』ですら龍は孵化させたことねーのに」


「大丈夫さ。必ず孵化させて立派に育てるよ」


「…一度決めたら頑固だもんな。うちもユーなら捨てたりしねーって信じってからがんばれよ」


「おう」


「飛龍の卵の現物となると価値は計り知れません。売らずに育てるって考えは悠さんらしいです。…うふふ。忠告を無視して龍峰に行った甲斐がありましたね」


鋭いフィオーネの流し目が刺さる。


「…すいません」


「しゃーないって。ユーだもん」


「ええ。私も分かってますよ。だって悠さんですから」


二人の言葉に棘がある。


「いや…まぁ……ちょっと興味があってな」


「もう。心配する私達の身にもなって下さい!」


プンプンしてる。可愛いな。


「あんま責めんなよ。…ユウだぞ?素直に従うよーな男じゃねぇって知ってんだろ」


エールを片手にモミジが笑う。


「そーだぜ。なんたってユーさんだもんな」


「…すみません。俺もそう思う」


「うんうん。ほんっと心配したんだよ!」


ボッツもラッシュもメアリーも同意した。


「悠も反省してる。一緒に行かなかったアイヴィーにも責任があるから。みんなも責めないで」


出来の悪い弟を庇う姉のようなアイヴィー。


悠だから仕方ないって新手のパワーワードですか?


「えっと、ごめんなさい」


縮こまる俺を見て皆が笑った。


…ちくしょー!イジメだ!


「はははは!…しかし、大牙竜ガノンゼオを討伐か。…ユウさんのSランク昇格も時間の問題ですかね」


「Sランクぅ?」


今で充分だし。寧ろラウラに騙されたし。


「露骨に嫌な顔しないで下さいよ…」


「あー。功績を考えりゃ妥当かもな〜。…でも無所属登録者フリーメンバーのSランクなんて六年前に引退した『鬼夜叉』のじーさんしか居なかったよな?」


「そうですね」


キャロルが答えフィオーネが頷く。


「『鬼夜叉』か。…知ってるぜ。うちのGMが鍛えた『琰刀えんとう墨桜すみざくら』の持ち主だな。…あのジジイが認めた冒険者っつーんで職人ギルドじゃ有名な語り草だ」


モミジがビールを呷りながら呟く。


「へぇ」


「たしか……なんだっけ…そうだ!『花の悪魔カンパニュラ』と契約した契約者なんだろ?」


「契約者…?」


ラッシュの一言にドキッとした。


「ええ。全盛期の活躍は記録にしか残ってませんが本来ならSSランク…いえ、 SSSランクのGRに格付されても遜色ない伝説の冒険者です」


「…そんな凄い人なのか」


「はい。当時の記録ではギルド法を何度も違反し契約者で人格に問題があって昇格は不適切と判断され続けたと聞いています。…それに無所属で何処のギルドにも属さない自由奔放な方だったとも」


「……」


「有名なのがさる王族の依頼を断って農村を襲ったモンスターの討伐に向かった話ですね。報酬金には興味が無く幾ら金を積まれても気に入らない依頼は絶対に受けなかったそうです。逆に貧困に喘ぎ苦しむ人々の依頼は率先して受注されたとか…」


「…ユウさんみたいな人じゃん」


「うん。悠だ」


アイヴィーとメアリーが俺を見る。俺も聞いてて被ってるとは思った。


「私もそう思います」


「俺は現状で満足してるよ」


あんまり興味がないからな。…にしても契約者ってのは警戒されるんだな。


「そうでした。話は変わりますが明日から冒険者ギルドに来られますか?」


「んー…あー…少し休もうと思ってる。鍛治仕事や錬成とか家でしたい事が沢山あるからな」


「そうでしたか。実はラウラさんから悠さん宛に書類と伝言を頼まれてたんですよ」


「ソロオーダーがあるなら受けるよ」


「いえ、違います。書類は後でご確認下さい。伝言は…『百合木の月13日の午後16時に家へ訪問したい。都合が悪ければ良い日を教えて欲しい』…との事でした」


「ラウラが家に?」


「…『金翼の若獅子』の副GMが所属していないメンバー宅に来るなんて前代未聞ですね」


「如何ですか?」


「大丈夫だよ。分かったって伝えておいてくれ」


どんな要件だろ。


「了解です」


ーーー…けぷ。あー…食ったわ。


ーーきゅぷう…。


アルマとキューの腹が倍以上に膨らんでる。


「この一週間は楽しかったね。皆で泊まってさ!」


「まーな。美味い飯を食えて食費も浮いたしモミジとも仲良くなれたし」


「ケッ…」


「ふふふ。また皆で泊まりたいですね」


忙しい中、泊まってくれたのは有り難い話だ。


あ、そういえば…。


「寝室が甘い匂いがするんだが誰が使ってたんだ?」


フィオーネ・モミジ・メアリーの動きが止まる。


「いししし。みんな交代で使ったんだ。理由はもががが!!」


モミジがキャロルの口を塞ぐ。


「だ、誰が使ったっていーじゃねぇか。…なぁ?」


「え、ええ!べ、別に変なことはしてませんし…」


「そ、そーだよ。ちょっと…ごにょごにょ…しちゃったけど…」


「アイヴィーも寝室を使ったから」


アイヴィーを除く三人が挙動不審だった。


…それから一時間後。


明日も早朝から仕事が立て込んでるフィオーネとキャロルは先に帰り続いてクエストの予定があるボッシュ達も帰宅。


モミジもそろそろ帰るそうだ。



〜マイハウス 玄関先〜



「…本当に送って行かなくて大丈夫か?」


「おう。大した距離じゃねーしな。アイヴィーはユウが居ないくて口には出さねぇが寂しかったみたいだぜ。…今日は一緒に居てやれよ」


…もしや皆も気を遣って早く帰ったのか。


「本当に世話になったな」


「気にすんなって。…それとユウに渡すもんがある」


モミジから木箱を渡される。


中を開けると小さな指輪が入っていた。


「これは『呼び声の指輪』ってもんでオレが作った。…裏面に文字が彫ってあんだろ。これは装備者に『紀章文字』を彫った奴がメッセージを送れる指輪なんだ」


「メッセージを送れる…?」


「指輪を小指にはめてみろ」


左手の小指に指輪を装着する。


するとメッセージウィンドウが表示された。


ーー飯、美味かったぜーー


「おぉ!」


「こんな感じだ。一方通行の会話しかできねーし文字数に制限もある。距離が遠く離れても無理だがベルカ圏内なら問題ねぇー。…依頼がありゃユウに伝えるのに便利だろ」


「貰っていいのか?高価な品に見えるが」


「いいんだよ。ユウが有名になって『巌窟亭』の依頼も増えたし鉱石を寄付してくれて仕事が捗ってんだ。…オレからの…なんだ……プ、プレゼントだよ」


照れたのか頰を掻き誤魔化す。


「……ありがとう。大事にする」


スマフォがない異世界パルキゲニアでは連絡手段が限られてる。これは嬉しい贈り物だ。左手の小指にはめた指輪を見詰める。


シンプルで好きなデザインだ。


「おう!」


歯を見せ笑うモミジはとても可愛かった。


…普段からこんな風に笑えば男が砂糖に群がる蟻のように集まるだろうな。


「今度、『巌窟亭』に行く時は竜の巣で見つけた鉱石も持ってくから楽しみにしててくれ」


「わかった。…じゃあまたな」


モミジを見送り家に戻った。


…さて食器を片付けるか。


ーーーーーーー

呼び声の指輪 E

ーーーーーーー


〜夜22時50分 マイハウス 寝室〜



「すー…すー…」


ーーきゅぴー…きゅぴー…。


「…眠れない」


アイヴィーと卵を抱えたキュー。


今日は一緒に寝ると早々にベッドに潜り込んできた。


俺は久々のベッドで中々、寝付けずにいる。


「……ちょっと一服してくるか」


そーっと起こさない様、起き上がり寝室を出た。



〜マイハウス 庭〜



アルマが夜空を眺め黄昏れていた。


「…眠れないのか?」


タバコに火をつける。


ーーー……昔を思い出してたのよ。


「そっか」


煙を吐く。暫く沈黙した後にアルマが喋った。


ーーーこの地に封印されて何百年…。ランダが死んでから年を数えることもやめた。


「……」


ーーーくひひ…。思い返すと封印されても仕方ないくらい人やモンスターを殺めたわ。今でも死に逝く者の表情や悲鳴を鮮明に覚えてる。


「……」


ーーー…けどランダと出会って認めるのは癪だけど……楽しかった。…居なくなって初めて気付いたのよ。親しい人を亡くす辛さを…孤独に過ごす永久の時間の恐ろしさを……。


「……」


ーーー…ランダはそれが分かってたから封印を解除しようと必死だったって後年に悟った。…わたしはもう諦めてたけどね。報いだと思って。


「……」


ーーー……諦めてたのにあんたが現れた。…あの子達も…また温もりを知ってしまった…。


「……」


ーーーわたしは怖い。封印が解けずまた永遠の孤独が続くかと思うと……怖いの。きっともう耐えられない…。希望が大きければ絶望も大きくなるから。


「……」


ーーー本当に解けるか不安なの……もし神々の遺産でも無理なら…。


「大丈夫だ」


ーーー悠…。


「駄目だったとしてもまた方法を見つける」


ーーー……。


「絶対に見つけて封印を解くよ。…どんな相手が立ち塞がっても…例え神様が相手でも俺が全員ぶっ飛ばしてアルマの封印を解いてやる」


ーーー………。


「家族の為なら諦めたりしない」


俺の決意は変わらない。


そうアルマに伝えたくて強く断言した。


ーーーちょっとこっち見なさい。


アルマを見詰める。


ーーー…一度しか言わないわよ。悠と出逢えてわたしは幸せよ。わたしにとってあんたは大切な人なの。…どんな結果になっても後悔はない。悠のお陰で…不安も恐怖も消えたわ。


「……アルマ」


気持ちを吐露して恥ずかしいのかアルマが身を翻し叫ぶ。


ーーーにゃあああ!!あー!もうっ!……へ、部屋に戻るわよ。


「…仰せのままに。魔王様」


これ以上、言葉は必要ない。アルマとの絆が深まった事を実感し一緒に寝室へ向かった。



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