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のんびり過ごそう!①




〜首都ベルカ 第6区画 転移石碑前〜



道を行き交う大勢の人々。建ち並ぶ店は盛況な賑わいを見せている。


竜の巣から一瞬でベルカに戻って来た。数時間前まで龍神の水郷に居たのに変な感じがするな。旅行から帰ってきて現実に引き戻された…そんな気分だ。


「ねぇ、あの人って…」


「おー。卵なんて持って何してんだろうな」


「ちがうわよ。冒険者ギルドで有名な人よね?闘技場でさ」


「あっ…蛇の人じゃん!」


蛇の人!?


…へ、変に注目されてるな。早く家へ帰ろう。



〜午前11時20分 マイハウス〜



「久しぶりの我が家だ」


アルマは居るだろうけどアイヴィーはどうだろう。


金翼の若獅子に行ってるかも知れないな。


玄関の扉を開け中に入ると予想を裏切りアイヴィーが顔を輝かせ腰に抱き着いてきた。


「悠!おかえり!」


「おっと…ははは。ただいまアイヴィー」


「……」


コートに顔を埋める。


「しっかりお留守番したよ。…えらい?」


「ああ。偉いぞ。食事やお金は足りたか?」


「お金は全然、使ってない。食事はアルマとキューが食べ過ぎたけど……なんとか足りたよ。家事も皆が泊まって手伝ってくれたから大丈夫」


「そっか。ちゃんとお礼しなきゃな」


「…でも」


抱き締める手に力が入る。


「アイヴィーは悠がいなくて寂しかったから」


子供なんだ。保護者が不在で寂しいのは当然か。


「…寂しい思いをさせてごめんな」


「ううん。ちゃんと帰ってきてくれたからいい」


顔を上げたアイヴィーは卵を見て驚く。


「…それは卵?」


「うん。特別な卵でな。それに素敵なお土産もある…ってアルマとキューが見当たらないな」


周囲には居ない。


「悠の部屋で寝てる」


「そうか。じゃあ部屋に行って話そう。話したい事が沢山あるからな」


「うん」


一緒に寝室に向かった。


〜マイハウス 寝室〜


寝室のベッドにはアルマとキューが仲良く寝ている。


部屋は誰か使った形跡が残ってるな。


なぜか甘い匂いがする。化粧品の匂い…?


ーーー…ふぁ〜あ…ん?…帰ってきたのね。


ーーきゅきゅきゅ〜。


目を開けて俺を見るなりキューが顔を舐める。


「わっとと。キュー…くすぐったいぞ」


ーーきゅ?…きゅうきゅきゅう!!


卵を見て興奮するキュー。…え、餌じゃないぞ。


ーー…ってかそれ龍の卵じゃない。あんたの魔力の流れも一週間前と全然違うし結構、強くなったじゃないの。


アルマには俺が強くなったのが分かるみたいだ。


「卵の事もそうだが順番に話すよ」


「わかった」


ーーーさっさと話してみなさい。


「そうだな…。竜の巣の話からしよう」


俺はベッドに卵を置いて話を始めた。



〜30分後〜



「ーーってなわけだ」


土産話をたっぷりと話した。


「…龍神の水郷にドラグマの神樹。…アジ・ダハーカって龍とオルドやオルガ。…時間の流れが違う三ヶ月間の稽古…その卵は龍の卵…うー」


理解力に長けたアイヴィーが頭を抱え混乱している。


まぁ、無理もない。


ーーーへぇ〜!あの子が悠に稽古を。あの弱っちい泣き虫が立派になっちゃってまあ。


アジ・ダハーカの近況を聞きアルマは嬉しそうだ。


「宜しく伝えてくれって言ってたぞ。アルマの過去の話も聞いたが…自称魔王じゃなくて本当に魔王だったんだな。アジ・ダハーカより強いとか俺には想像も尽かないレベルだ」


ーーーにゃふ。最初から言ってるでしょ。…それにしても時間の流れが違うってのは興味深いわね。龍峰の霊脈とドラグマの神樹の影響か。あの子が神々の遺産を見つけ守護してるってのはわたしも鼻が高いわ。


逆誄歌の奇跡については話さなかった。


心配を掛け悲しませたくない。


自分で話すのも善行を自慢する奴みたいで嫌だし。


ーーきゅう。


キューはずっと卵に付きっ切りだ。ベッドに置いた卵に覆い被さり温めている。


…魔導生命体のキューが龍の卵に興味を示すのは何故だろう。竜に似ている理由と関係があるのか…?


「……頭の整理が追いついた。嵐飛龍に案内され龍峰を越えて辿り着いたのは神樹がある幻の地…龍神の水郷。そこで伝説の龍であるアジ・ダハーカと三ヶ月間稽古をした…まるで小説のお話みたい」


「事実は小説より奇なりってな」


笑う俺とは対照的に眉を吊り上げるアイヴィー。


「まず龍峰に一人で行った事実に怒ってるから」


「…すいません」


「やっぱり悠はアイヴィーが傍にいないと駄目。次は絶対についていく」


「結果を見れば強くなれたし万々歳だろ?」


「…結果だけ重視しても意味がない。結果より過程が大切な時もある…本に書いてた」


ぴしゃりと断言される。自分が以前、レイミーさんに言った発言がブーメランになって返ってきやがった。


10歳から怒られる大人がいる。…俺だった。


「…でも、悠が強くなったのは嬉しい」


「おう。…だからアイヴィーに悪者やモンスターが襲ってきても俺が守ってやる」


「うん」


頭を撫でると嬉々とした顔をする。


「それと龍神の水郷や神樹の話は皆には内緒な?」


ドラグマの神樹や龍神の水郷については伏せて置くべきだ。余計な騒ぎはごめんだからな。


「わかった」


ーーー英断ね。神々の遺産なんて争いの火種となり不幸を呼ぶだけだもの。人の手に負える物じゃない。


その火種を庭に植えようとしているんだが…。


「この卵はどうするの?」


「責任を持って育てるよ。新しい家族の一員だ」


「家族が増えるのは嬉しい!キューも嬉しそう」


ーーきゅうきゅう!


ーーー今度は龍の子ね〜。…あんたと居るとほんっと飽きないわ。けど孵化させるのは難しいわよ。わたしも詳しくないし。


「大丈夫だ。心当たりはある」


エリザベートに聞いて見るとしよう。


「…話が変わるけどアイヴィーはお土産が気になるから。わくわくしてる」


「そうだな。皆が来る前に渡しとこう」


ーーーいい心掛けね。魔王アルマ様の実力もやっと理解したみたいだし。


ご機嫌なアルマ。ふっふっふ…驚くぞ。


「アイヴィーには剣と魔導書だ」


霊剣ソルシオンと四海文書を渡す。受け取ったアイヴィーの顔が興奮で紅潮した。


「わぁ…綺麗…!」


「その剣は霊剣ソルシオンって言ってな。相手を切るとMPを吸収できるし結晶魔法って魔法も使える様になるんだぞ。その本は魔法の威力や属性攻撃力が増す魔導書だ」


「す、すごい…すごい!!ありがとう。大好き!」


よっぽど嬉しいのか飛び跳ねて喜んでる。


「ふふ。キューにはこれだ」


ーーきゅきゅう?


カトブレパスの腕輪を前脚にはめる。


伸縮しフィットした。


ーーきゅ!きゅう!きゅきゅ!


腕輪を気に入ったのか頻りに鳴く。


良かった良かった。


「アルマにはこれだ」


ーーーさぁ真打ちの登場よ!どんな宝を………。


種を見てアルマが絶句した。


「その種はなに?」


ーー…きゅう?


アイヴィーとキューが右手を覗く。


「これはな神樹の種だ」


アイヴィーも目を見開いた。


「神樹の…種…?」


ーーー…ええ。間違い無い…神々の遺産だわ。あ、…あんた…どこでそれ……。


「経緯を話すとまた長くなるから端的に言うぞ。ベルカに来る前にクリファの神樹の妖精から貰ってな」


ーーー妖精の贈り物…。


「その時は価値を理解してなかったから腰袋に入れっぱなしだったが……偶然、アジ・ダハーカに種を見せて神々の遺産だって教えて貰ったのさ。これなら封印の代償を上回るだろ」


ーーー……たしかにこれ以上ない代物よ。


「…ランダの悲願もようやく叶うな。後は庭に植えれば良いだけだ」


ーーー……。


瞳を潤ませる。


「…約束したろ。俺が封印を解くって」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『……アルマ。…魔王と呼ばれた…恐ろしい…貴女はもういない。…いつか……貴女…を理解して…封…印を解く…人が…きっと…現れる…。わた…しには…その未来が……』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


ーーー…えぇ。…悔しいけど…ランダ…あんたの言ったとおりだわ。


その瞳から涙が零れる。静かにアルマは泣いていた。


「お、おい」


喜ぶ姿を想像してたのに泣かれるとは思ってなかったので焦る。


ーーー……ぐす。…本当にいいの?種をわたしの為に使って…どんな結果になるか未知数なのよ。


「神々の遺産なんて俺には手に負えない代物だ。これが一番正しい使い道だろう」


ーーー…なら明日、植えてみましょう。泊まってる子達も戻ってくるし。……どんな影響と変化があるか分からないからね。


「それもそうだな」


ーーー…ふん!!…今日は豪華なご馳走を作ってくれる約束よね。腰抜かすほど食うから覚悟しなさい!


前脚で涙を拭う。


いつもの調子に戻っていた。黙って俺とアルマのやり取りを見ていたアイヴィーがアルマを撫でる。


「…封印が解けるのはわたしも嬉しい。よかったね」


俺の話す内容しか分からないが察したのだろう。


ーーきゅう…。


キューも擦り寄る。


ーーー…ったくこの子たちってば…くすぐったいっつーの。


「じゃあ俺も」


ーーーにゃ、にゃ、にゃ、にゃん…はっ!?顎の下を撫でるな!


その後、採掘アイテム・採取アイテム・貴重品を地下の工房で整理した。


鉱石は鍛治師の宝箱に収納し採取アイテムは不思議な菌床箱に分け収納する。


ひと段落して風呂に入りアイヴィーと買い物に出掛けた。皆にも一週間世話になったんだ。


奮発して高級食材を使用したご馳走を作ろう。



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