表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

106/465

去り逝く命と託される命



〜40分後 アジ・ダハーカの龍峰 上空〜


「…いいか。絶対に宙返りとかすんなよ!!」


ーー…詰まらん。


やけにアクロバティックな飛行をしたがるフカナヅチの背に揺られ蒼空を飛ぶ。


吹き抜ける風と突き抜ける雲。眼下に広がる山脈が小さく見える。


「絶景だなぁ」


景色を楽しんでいると微かな叫び声が聞こえた。


「…フカナヅチ。今のって」


ーーああ。同胞の叫びだ。悠、済まぬが…。


「行ってくれ」


ーー…しっかり掴まっておれ!


龍の叫び声が聴こえた方角に向けフカナヅチが猛スピードで急降下した。



〜アジ・ダハーカの龍峰 滝の麓〜



寸刻で山脈から轟音で流れ落ちる滝口に到着する。


「!」


ーー…骸竜か。


滝の麓では一匹の白い飛龍と骨だけになった竜の骨格を模したモンスターが激しい戦闘を繰り広げていた。



ーー……ッ!?…この…身に滅ぶ…とな……れ…ど…先には行かせ……ん!!


ーーオォォォ…。



飛龍は既に重傷で傷口から夥しい出血を流し今にも死にそうだ。


ーーあの飛龍…龍峰では見慣れぬ龍だな。別の土地から此処に移住した者だろう。


「…骸竜って?」


ーー非業の死を遂げた竜には怨念が宿り稀にああして不死種の魔物モンスターへ成り果てるのだ。


「非業の死…」


ーー…竜の力に加え不死の自己再生の特性を持つ厄介な相手だ。悠よ此処で待っていろ。…龍峰の生まれでなくともあの龍を放って置くことは出来ぬ。


自己再生か。


兇劍の固有スキル持ちの俺なら問題ない。


「俺が戦うよ。フカナヅチはあの龍を頼む」


ーーあ、おい!


滝口から飛び降りた。骸龍と飛龍の間に立ち塞がる様に着地する。


ーー……!


ーー案ずるな。我等は味方だ。回復魔法を施してやる……この傷は。


遅れてフカナヅチが白い飛龍の側に降り立つ。


ーーオオォ…。


迫る骸龍に淵嚼蛇の黒蛇を伸ばし拘束する。


ーー…ォォォオ…!


骸龍が黒蛇を振り解こうとしてるが無駄だ。


そのまま力を込め骨を粉々に砕いた。


…念には念を入れとくか。左手を翳し裂傷が起きる。


「禁法・縛烬葬」


業火が骨を焼き尽くす。


灰燼が風に流され彼方に消えた。


マップを見ると赤いマークはない。


「これでよし」


狂気12000の数値が影響し半端ない火力だ。裂傷を我慢して練度を高めれば更に威力が増すだろう。


楽勝だったな。


戦闘を終えた俺はフカナヅチと横たわる飛龍の元へ駆け寄る。


「その飛龍は大丈夫か?」


静かに首を横に降った。


ーー……ま、さか…人に…助けられ…るとは…。


息も絶え絶えに俺を見る白い飛龍。


澄んだ金色の瞳は今にも光を失いそうだ。


ーー……私…は…氷飛…龍……キ…ルカ。…北の地『ニザヴェッリル』から…龍峰に来た……。


フカナヅチが静かに告げる。


ーー…この者は既に深手を負って骸竜と戦っていた。永くは生きられんかっただろう。…首の傷を見よ。


キルカの首を見ると一部分が腐敗し血が黒く固まっている。酷い傷だ…。


ーー龍の急所である逆鱗が綺麗に抉り取られ壊毒に侵されている。……人が龍を狩る時によく使う手口だ。この傷でニザヴェッリルから龍峰まで来るとは…。


「!」


ーー…お、ね……がい…私…の子を…あの子を…どうか…助けて…。


目から光が消え息途絶えた。


「…ごめんな」


キルカの目を閉じ謝る。


ーー…何故、お前が謝る。龍とて悪戯に人を脅かし殺す時もある…その逆も然り。悠が気に病む事はないぞ。


「それでもだ」


ーー……。


フカナヅチの言う理屈は分かる。…それでも言葉を理解できる俺には辛い。


「あの子って言ってたよな?」


ーーうむ。風よ。


流れ落ちる滝の水を風が遮る。裏には大きな穴ぐらがあった。敷き詰められた柔らかい葉と花。真ん中には卵が一つ置かれている。


ーー…やはり滝の裏か。あのキルカと言う龍はこの卵を守っていたのだな。


汚れ一つない純白の卵。


オルガの卵と大きさは同じ位だ。


「…なぁこの子はどうなるんだ?」


ーーまだ孵らぬ卵だぞ。親も死んだのだ。


「……」


ーー…龍の卵は孵化する為に膨大な魔力を必要とする。その過程で親の能力や特性、知識を受け継ぐのだ。故に知能も高いが成長は竜に比べ緩やかだ。


卵を見るフカナヅチの目は厳しい。


ーー…見たところ魔力も十分に通ってない中途半端な状態だな。このまま孵らず他の龍や魔物の餌になるだろう。


「フカナヅチ」


ーー何だ?…ってその顔はまさか…。


「そのまさかだ。俺が育てる」


ーー本気で言っているのか?


「本気だ」


フカナヅチは呆れ顔だ。


ーー…人に竜を赤子から育て従える術があるのは我も知っている。…たが龍となれば一筋縄ではいかん筈だ。孵るかも分からんのだぞ。


「…キルカは最期まで自分より卵を心配してた。今際の際の願いだぞ。見捨てるなんて出来ない」


ーー……。


「…卵から孵った子が五体満足じゃなくてもいい。責任を持って俺が育てる」


当初は移動が便利になる程度の理由で卵を欲しがったが今は違う。…助けたいんだ。


「反対しても聞かないぞ」


目を細め笑う。


ーー…御人好しとは悠を指す言葉だな。我に反対する権利なぞ無い。好きにすれば良い。


「やったー!」


卵が割れない様にタオルで包み慎重に抱き抱える。


ーー…クク。アジ・ダハーカ様が貴様を好く気持ちが分かった。やれやれ…まさか()()()()()()()を抱くとは…。


「何か言ったか?」


滝の音でよく聞こえなかった。


ーー何でもない。…行くぞ。


こうして帰り道に龍の卵を手に入れた。


アジ・ダハーカやオルド達と出会ってアルマの封印を解除する手段も見つけたし手土産もある。


本当な最高の三ヶ月……もとい一週間だったぜ。



〜午前11時 竜の巣 転移石碑前〜



あれから一時間、空の旅を続け転移石碑に到着した。


周辺に居たモンスターはフカナヅチを見るや一目散に逃げる。


「送ってくれてありがとな」


ーーふん。気にするな。


「…フカナヅチのお陰で皆に会えて強くなれた。今度、来る時も美味しい飯をご馳走するよ」


ーー次、会う時まで我も研鑽を積み強くなる。龍の秘術も会得して見せようぞ。…悠も楽しみにしておけ。


それだけ言うとフカナヅチは飛翔し空へ消えた。


「龍の秘術って…龍人変異のこと?」


意味はよく分からなかったが……いっか。


さて俺も家へ帰ろう。


「今日からお前の家でもあるんだぞ」


卵はしっかり抱え直し転移石碑に触れた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ