皆でご飯を食べよう!〜龍神の水郷〜②
〜3時間後 龍神の水郷 ドラグマの神樹〜
風竜セセリッモと土竜ベヘリッモを解体し肉料理を拵える。料理と言っても部位を切り分けタレを塗り薬味をまぶした簡単な焼料理なのだが骨が折れた。
鑑定して食べられる部位と食べれない部位を捌く作業が手間なのだ。
竜肉は家畜の肉に負けず劣らず美味しいが部位によっては酷く血生臭い。この作業をしないで焼くと他の部位まで鉄臭い嫌な味になるからな。
それと竜や龍が同種を食べる基準を前にオルガに聞いた事がある。
オルガ曰く…『知性を有するか否か』の差…らしい。
知性が無ければ同種同族でも食う弱肉強食の世界。
人間で良かったと心から思う。
「これで完成っと…」
最後にパンケーキを完成させ食事の準備完了だ。
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竜肉の盛り合わせ
・風竜と土竜の肉を盛り合わせた肉料理。部位によって綺麗に切り分けた肉に甘いタレと薬味を塗り合わせた。焼くだけだが美味しい一品。
ラスト・ハニー
・蜂蜜味の甘い膨らんだケーキ。ふっくら焼き上げた生地に蜂蜜の優しい甘さがマッチする生菓子。
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「悠〜…まだなのかぁ〜?…妾の腹と背中がくっつくのじゃあ〜…」
アジ・ダハーカが催促する。
「出来たよ。持ってくから待っててくれ」
淵嚼蛇で皿をそれぞれ持つ。
闘うこと以外にも呪術を有効活用しなきゃね。
〜20分後〜
龍が肉を貪り食う絵面は凄まじい。圧巻の大迫力だ。
ーー普段、儂が食べてる肉とは比べ物にならん…。
ーーこうも味が違うとは…甘い肉なんて…生まれて初めて食べたえ。
ーーむしゃむしゃ…ん。ウェールズ。その肉は要らんのか?なら我が食べよう。
ーーや、やらん!…噛みごたえはないが口の中で肉が溶けて無くなる…。
切り分けた肉が物凄い速度で減っていく。
どんどん焼かなきゃ追い付かない。
ーーほら。坊やたちもお食べ。
ーーピュムピュム。
ーーピュイ!ピュイ!
ーー…すまないがこっちにも追加だ。
「あいよ。もうちょっとで焼き上がるからな」
この光景を見れば準備した甲斐があったってもんだ。
「ふにゅー!やはり妾は肉よりパンケーキじゃな。この甘さが堪らんのじゃ」
ーー…アジ・ダハーカ様が食べているのは…なんだえ?
「あれはパンケーキって甘いお菓子だ」
「うむ。至極の品じゃぞ」
ーー甘いお菓子…パンケーキ…。
「…何じゃ。物欲しそうな目で見ても絶対にやらんからの。其方らは肉を食べるがいい」
皿を守るように隠した。その後、あっと言う間に竜肉が無くなったのは言うまでもない。
〜1時間後〜
食事を終えまったりしてる皆を尻目に飢餓竜の腰袋にゴミを捨てる。
分別の手間が省けて超便利。
ーーご馳走になった。
ーーふぇふぇ。…いかんせん歳を取って昔より食欲が落ちたけど美味かったよ。ありがとう。
グラレウスとヤマカタツカミだ。
「…あれで食欲が落ちたのか」
ーー儂はまだ食えるがな。
ーー私もあのパンケーキなる物が食べたかったえ。
「次、来た時に用意するさ。楽しみにしてくれ」
ーーふぇふぇふぇ。老い先短い身と思っとったけど…生き甲斐ができたねぇ。
ーーダハーカ様が気にいる訳だ。それにオルドの息子を救った力の経緯も聞いたぞ。
ーー…自分の命を削る神の御業を躊躇せずオルタに使ったんだってねぇ。
「あー。普通だって」
ーー…普通では無い。普通では無いぞ。
「あれを見ろよ」
フカナヅチの背に登り遊ぶオルタとアジ・ダハーカに抱かれ眠るオルカ。それを優しく見守る両親。
「…命を削る価値があるだろ?それに三ヶ月も世話になったんだぜ。恩返ししなきゃ仁義に欠けるってな」
傷だらけの顔に笑みを浮かべるグラレウス。
ーー……ヤマカタツカミ。
ーーええ。自身の血を流し犠牲を厭わぬ気高き精神を持つ者。…祟り神の契約者よ。
ーー儂らの信頼の証を受け取ってくれ。
「これは…」
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鋸剣龍の尖玉
・グラレウスの信頼の証。尖玉には研刃の魔力が封じられている。持ち主のMPを消費し無機物に翳せば自動で研磨される。
土飛龍の豊玉
・ヤマカタツカミの信頼の証。豊玉には土壌の魔力が封じられている。持ち主のMPを消費し地面に翳せば土を豊かにする。
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ーーふぇふぇふぇ。悠の好きなように使うといい。
ーーお前ならば有効に使える筈だ。
「…ありがとう。大切に使うよ」
その後、片付けを終え皆で賑やか雑談する。ウェールズは一人離れた位置で何か考えてるみたいだ。
〜数時間後 龍神の水郷〜
楽しい時間は瞬く間に過ぎ日も暮れ夕方。
ーー…ではダハーカ様。儂らは戻ります。
「うむ。気を付けて帰るのだぞ」
龍峰に帰るグラレウスとヤマカタツカミとウェールズを見送る。フカナヅチは明朝、竜の巣の転移石碑まで俺を送ってくれるので水郷に一泊する事になった。
ーーふぇふぇ。また会おうの…悠よ。
ーー次は儂らの住処へ遊びに来い。
「ああ。喜んで行かせてもらう」
そう言って上空へと飛び立った。
ーー……悠。
ウェールズが近づく。
ーー……あれから考えたが…友を殺された悲しみと恨みは…やはり一生消えぬ。
「…そっか」
ーー…けど悠は嫌いじゃない。…人という種族も…龍と同じで悪意ある者だけではないと……お前は命を賭けて証明してくれた。…これからは…この隻眼で見極め生きてゆこうと思う。…我が友の為に血を流したお前の誠意に報いる為に…龍の誇りにかけ誓う。
「…そう言ってくれて嬉しいよ」
アジ・ダハーカが満面の笑みを浮かべていた。
オルドもオルガもフカナヅチも…皆、嬉しそうだ。
ーー……。
「うおっ」
ウェールズが放り投げた物を受け取る。
危うく落とすとこだった…。
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炎陽龍の炎玉
・ウェールズの信頼の証。炎玉には灼熱のの魔力が封じられている。持ち主のMPを消費し燃え盛る炎を呼び出す。
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「これって…?」
ーーアジ・ダハーカ様。オルドさんとオルガさん。…龍招の際の度重なる暴言と非礼…誠に申し訳ありません。
「気にするでない」
ーー…次はないぞ。
ーーふふふ。
「なぁ」
ーー…お先に失礼致します。
俺を無視して飛翔するウェールズ。
瞬く間に遥か上空へと消えた。
「……行っちまった」
ーーククッ…彼奴は素直じゃない。精一杯の謝罪と感謝の気持ちだろう。
「かかか!ウェールズらしいのう」
こうして一悶着あったが水郷で過ごす最後の日は記憶に残る思い出の一日となったのだった。




