皆でご飯を食べよう!〜龍神の水郷〜①
〜30分後 龍神の水郷 霊脈の秘湯〜
「この大っ馬鹿者!!」
「……はい」
ウェールズとの一戦後、有無を言わさず秘湯に連れて来られアジ・ダハーカから大目玉を食らった。
「不死耐性は確かに強力な耐性じゃ。其方の耐性Lvなら傷もよく癒えよう。…じゃがな!失った血まで再生する事はないのだ!!あのまま血を流し続ければ出血多量で死んでおったのだぞ。幸運にも臓腑を避け刺したから良いものを…」
「……」
「…ウェールズが負けを認めん頑固者だったら間違い無く死んでおった。…なーにが悪いようにはしないじゃ!?…観戦中によもやと嫌な予感はしたが…まさかここ迄、底抜けの馬鹿とは思わなかったわ!」
返す言葉もない。
「すいません…」
「妾は自殺志願者の為に稽古をつけたのではない。そもそも……あー!!幾ら言っても言い足りん!」
「ごめんなさい…」
腕を組みご立腹のアジ・ダハーカ。申し訳なく湯の中で正座していると吊り上げた眉が八の字に変わった。
「……はぁ。逆誄歌の忠告をした時も言ったが其方が無茶をすれば悲しむ者が居る」
「…うん」
「悠は簡単に命を投げ出し過ぎるぞ。…その行為が側から見てる者が…どれ程、悲しみ辛い思いをするか…分からぬか?…其方を愛する者達を裏切るな」
「……」
「自分を大事にするのじゃ。悠は世界に一人しか居らんのだ。地球という異世界からこの世界に来たのは…死ぬ為では無い。生きる為じゃろう」
心に刺さる一言だった。
「…以後、肝に命じます」
「うむ。…散々、怒ってしまったが結果を見れば其方のお陰でウェールズも皆も人を見る目が変わるじゃろう。礼を言わんとな」
「はは。気にすんなって。結構、酷い目に遭ってるし慣れっこなんだ」
「調子に乗るでない。猛省しろ」
笑って答えたら怒られた。
「…はい」
「しかし、負けぬとは確信してたがウェールズを簡単に圧倒したのう。…ふっふーん。一重に妾の教えが良いのだな」
そりゃアジ・ダハーカに比べたら大抵の相手に尻込みする事はない。
「どれ。傷を見せて見よ…うむ。これなら大丈夫じゃな。回復魔法が効かん難儀な体質なんじゃ…良いか?耐性に慢心するでないぞ」
「ああ。約束するよ」
「では皆の所に戻ろう。寝床から持ってきた服じゃ」
湯から上がると替えの衣服を渡された。
「普段、着ている服は血塗れじゃったからの。洗って干しておる」
「おぉ。ありがとう」
「怪我した夫の世話をするのも妻の務めじゃからな」
妻…。
他人から見れば父親と娘だと思うが機嫌も良くなったし言うと拗ねそうだから黙っておこう。
〜10分後 龍神の水郷 ドラグマの神樹〜
中央の浮島にはオルド達と数匹の龍を残し集まってた飛龍達が殆ど消えていた。
「あれ。他の龍は?」
「龍招も終わって解散したのじゃ。自分から希望して残った者もおるがの」
「へぇ」
ーー悠!怪我は大丈夫か?
ーー心配したのよ…。
ーーピュ〜。
ーーピュイ。
俺とアジ・ダハーカに気付き駆け寄る。
「大丈夫だよ。秘湯の湯で傷も塞がっ……」
隣にいるアジ・ダハーカがじろりと睨む。
「……心配を掛けてすみませんでした」
ーーふふふ。かなり怒られたみたいね。
「当然じゃ。この大馬鹿者が。……妻とは大変なんじゃのう。オルドよ。オルガを大切にせんといかんぞ」
特殊な性癖のやつは喜ぶかも知れんが幼女を妻にする趣味はない。
…実際は俺よりとんでもなく年上だけどさ。
ーーあらまぁ。
ーー………。
オルドが黙る。思い当たる節があるんだろうか?
そんな事を考えてるとグラレウスにヤマカタツカミも近付いてきた。
ーー蛇の武士よ。申し遅れたが儂の名は鋸剣龍グラレウスだ。
ーーふぇふぇふぇ…私は土飛龍ヤマカタツカミ。
「どうも」
ーーウェールズとの一戦は儂らも感動した。…悠が勝てぬと見縊っていたよ。浅き見解に恥じいるばかり。
ーー…イグニールが言ってたことは本当だったんだねぇ。…『人は私達の想像を超える。無限の可能性を秘めた生き物だ』…あの子の口癖だったえ。覚えてるかい?
ーー…ああ。懐かしいな。
ふむ。イグニールは変わってると聞いてたが随分と友好的な龍だったんだな。
生きてたら会ってみたかった。
ーー悠。
「お!久しぶりだな。フカナヅチ」
フカナヅチとばつが悪そうなウェールズが歩み寄る。
ーー水郷と外界は時間の流れが違う。久しぶりでも無いが……驚いたぞ。我と闘った時とは比較にならん強さだな。
「アジ・ダハーカが鍛えてくれたお陰さ。オルドやオルガも手伝ってくれたし」
「ふっふーん」
ーークク。埋め難き力量差ができてしまったな。我等も精進せぬば。…なぁウェールズよ。
ーー……。
「怪我は大丈夫か?」
ーー…オルガさんが回復魔法で癒してくれた。問題ない。
「そっか。良かったな」
笑って答えたら顔を背けられた。嫌われたかな。
ーーふぇふぇ。話は変わるがお主はウェールズをどうするのかえ。
ーー…ダハーカ様は処遇は一任すると仰ってたが。
「そうじゃ。悠の采配に全て任すぞ。勝者の特権じゃからな。煮るなり焼くなり好きにすれば良い」
ーー……。
任すって言ったってなぁ。
特にして欲しい事もないし…あ、そうだ。
「一緒に飯を食おう」
ーー……え。
ウェールズもグラレウスもヤマカタツカミも驚く。
ーー飯、だと?
ーー…予想を裏切る答えだえ。
「腹も空いたし折角の機会なんだ。皆でご飯にしようぜ。俺が準備するよ」
ーーふふふ!悠らしいわ。ねぇあなた?
ーー…本当にな。我は友である事を誇りに思う。
ーーピュイ。
ーーピュ〜ピュ〜。
ーー雹晶窟前で約束したのだ。たっぷり食べさせて貰うぞ。
「かかか!素晴らしき采配じゃ。妾にはあま〜い菓子を用意するんじゃぞ」
紆余曲折あったが丸く収まって良かった。
…よし!気合い入れて飯の準備しなきゃな。




