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集大成を見せよう!〜龍神の水郷〜①



〜龍神の水郷 90日目〜


清々しい朝の空気と鳥の鳴き声で目覚めた。


「…ふわぁ〜…ってアジ・ダハーカがいない?」


最近は隣でずっと寝て何時も同じ時間に起きるのだが……神樹の前かな。


着替えて顔を洗い歯を磨く。


「ぷはぁ。いよいよ水郷で過ごす最後の日…」


先ずアジ・ダハーカを探しに神樹の所に行こう。


野営中の遺跡から中央の浮島に向かった。



〜ドラグマの神樹〜


「む。悠か」


「おはよう。今日は早起きだな」


「…其方の寝顔を見ていたらちと感傷的になってのう。少し神樹を眺めていたのじゃ」


「感傷的?」


「うむ。妾が人に心を許したのは悠が初めてじゃ。…もう少し居ても良いんじゃなかろうか。あと一週間…一ヶ月…一年でも。時間の流れが違うし大丈夫じゃろう?」


「皆が心配するからなぁ…。約束を破って遅く帰ったらアルマも怒るだろうし」


主に心配してるのは飯だろうけど。


「うぐ!…そ、それは不味いのう」


しょんぼりするアジ・ダハーカ。


俺は頭を撫で隣で笑う。


「大丈夫。また必ず来る。いーっぱいお菓子を作ってくるから覚悟しろよ」


「かかかか!それは楽しみじゃ」


一頻り笑うと目を閉じ体を寄せてきた。


頰が桜のように薄く紅く染まる。


「其方が居ると心が安らぐ。…触れる体温が…匂いが…とても心地よいのじゃ…」


何だか照れるな…ってうわっ!?突如、神樹に異変が起きた。蒼い光が強く輝き地面が揺れる。


そして俺の腰袋も弱い緑の光を発していた。


「…これはドラグマの神樹が悠が持つ神樹の種に反応しておるのか…何故、今更…?」


腰袋から種を取り出した。するとドラグマの神樹の蒼い光が種に吸い込まれていく。


やがて光は収束し消えた。光を吸い込んだ種は形を変え少し大きくなっている。


「…い、今のは一体…」


「…信じられんが…どうやら悠が持つ神樹の種とドラグマの神樹が繋がったみたいじゃな…」


「繋がった?」


「…うむ。鑑定した結果、そうとしか言えん」


俺も鑑定してみよう。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

神樹の種

・妖精アマルティアが悠に贈った神々の遺産の一つで神樹が育つ種。神樹を植えた地は神の威光を受け多大なる恩恵を齎す。


ドラグマの神樹と繋がった為、成長すれば互いの土地を行き来する神道が開通するであろう。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「互いの土地を行き来する神道…?」


「そうじゃ!悠よ神樹を植え育てるのじゃ。さすればいつでも気軽に会えるぞ。神樹が互いに共鳴するとは初めて知ったが…とにかく嬉しいのう!」


はしゃぐアジ・ダハーカとは対象的にこちらとしては困った事態になった。


「……」


「なんじゃ。浮かない顔をして」


「…いや、実はなーー」


アルマの封印を解く手段について説明した。


〜数分後〜


アジ・ダハーカの顔色が真っ青に青褪める。


「そ、そ、そ、其方…ほ、本気か?あ、あの暴虐大魔神の封印をと、解くじゃと…」


「ああ」


「血の雨が降るぞ…あ、暗黒時代に逆戻りじゃ…!」


恐れ過ぎだろ。


「大丈夫だよ。俺は昔のアルマを知らないが『緋の魔女』…ランダと出逢って変わったんだ」


「…緋の魔女と出逢い…変わった?」


「ああ。…口では嫌いって言って認めないがアルマにとって大切な人だったんだと思う。アジ・ダハーカだって分かるだろ?理不尽なだけじゃないってさ」


「……」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『我が名はアルマ。南の大陸の覇者にして万象を従える魔王の眷族が一人…。私の下僕を傷つけた事をあの世で嘆き後悔するがいい』


『…ア、アルマ様…』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「………」


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


『…ったく。あんたって子は。泣くんじゃないの』


『じゃって…!!じゃっ…ひぐっ!びえーーん!!』


『……ほら、負ぶってあげるから泣き止みなさい。それ以上、泣いたら引っ叩くわよ』


『…ぐす…』


『やれやれ。本当に世話が焼ける子ね。…良い?私があんたを鍛えて絶対に強くしてあげるわ。このアルマ様の下僕なんだもの。…それまでは仕方ないから面倒を見てあげる』


〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜


「……そりゃあ、のう」


「だろ?…一人で縛られ孤独に生きるなんて辛過ぎる。だから神樹の種を使って封印を解きたいんだ」


「…ふむ」


「それに」


「?」


ぐっと顔を引き寄せる。


「もしアルマが苛めたら俺が守ってやるよ」


飯抜きって言えば大人しくなると思うし。


「…ひ、…卑怯じゃぞ…。そんな風に言うなんて…」


卑怯?


「ふ、ふっふーん!…いいわい。反対しても其方は聞かないじゃろうし約束じゃからな。…絶対に妾を助けるのじゃぞ」


「おう」


「どのみち解印には神樹は植えなければならんしの」


「え」


「神々の遺産である神樹の種は植えるだけで祀るには充分じゃ。あとは成長し神樹となるまで育てば勝手に封印は解けると思うがの。万全を期すなら祝詞でも唱えれば良い」


「そんな簡単なのか…」


「簡単に聞こえるじゃろうが神樹の種を手に入れること事態が有り得ん。…しかし、緋の魔女は土地に封印しとるからのう。どんな風に解印されるかは妾も皆目見当がつかん。憶測ですまぬが…」


「いや、有益な情報だよ。本当にありがとう」


感謝の気持ちを込めて優しく抱き締めた。


「ふ、ふぁ…!?…ふにゅう〜…」


顔が茹でタコみたく真っ赤になったアジ・ダハーカ。


神樹の葉から射し込む朝陽が優しく俺達を照らしていた。



〜2時間後 ドラグマの神樹前〜



朝飯を食べ終えるとオルドが飛んできた。


「おはよう」


ーー気持ちの良い朝だな。主は居られるか…主?


「ふへへ〜」


「…さっきからあんな調子で一人でにやけてるんだ」


神樹の前で抱き締めた辺りから様子がおかしい。


飯も全然、食べないし。


「おい。オルドが用があるみたいだぞ」


肩を掴み揺する。


「ふ、へへ…ふへ?…あ。ああ!こほん…何用じゃ」


取り繕うように真面目な顔に戻る。


ーー…今日は『龍招りゅうしょう』の日です。


「んー。もうそんな時期じゃったか」


「龍招?」


ーー半年に一度、龍峰に居る龍達が水郷に集う日を龍招と言う。主に龍峰の支配者の座を賭けて挑むことが出来るのだ。


「うむ」


「へぇ。…挑む奴なんているのか?」


ーー数十年前に一度、若き飛龍フカナヅチが挑んだが瞬殺だった。それ故、今では近況報告の場だ。


フカナヅチが瞬殺…。


「かかか。意気は良かったのじゃがな。…どれ。ぱぱっと呼んで終わらせるかのう〜」


そう言うと目を閉じてぶつぶつ呟く。


どうやら念話で龍を呼んでいるらしい。


ーー普段、龍神の水郷の上空は主の『龍魔法』の結界で閉じられているが龍招の日には結界を解き立ち入る事が許されるのだ。


「ほぉー。凄いな」


ーー…雹晶窟はそれ以外で水郷に来る唯一の道。友よ。お前も大した者だぞ。


空からオルガが舞い降りた。


ーーあら。悠も居たのね。


ーーピュー。


ーーピュピュ。


オルカとオルタも背に乗っている。…龍招、か。どんな龍が来るのか興味があるし見ておこう。



〜1時間後 龍神の水郷 ドラグマの神樹〜



「…はー…色んな龍がいるんだなぁ」


ーーピュ?


ーーピュムピュム。


僅か一時間でアジ・ダハーカの念話に応じ多種多様の飛龍が中央の浮島に集まった。


俺を見て好奇の目で見る龍が殆どだったが敵意を剥き出しに睨む奴もいる。


フカナヅチも現れたので声を掛けようと思ったけどそんな雰囲気じゃないし終わってからにしよう。


今は少し離れた位置でオルカとオルタの子守をしてる。


「大人しく見てような」


ーーピュイ。


ーーピュー。


甘えてくる二匹をあやす。


そうこうしてる内に集まった龍がアジ・ダハーカの前に佇み頭を下げる。


幼女に平伏す龍の絵面は中々のインパクトだ。


「…うむ。皆の衆よく集まってくれた。面を上げて構わぬ」


ーー今日こんにちは半年に一度の龍招の日。主に挑む者は吠えて意を示すが良い。


隣に佇むオルドが問う。


案の定、誰も吠える者は居ない。


ーー…居ないようですね。


「そうか。ならば此度の龍招は解散じゃな」


はや!え、これで終わり…?


ーー…ダハーカ様。一つお答え願いたい。恐らく皆も気になっている故。


歴戦の龍の戦士…とでも例えようか。傷だらけの迫力ある飛龍がアジ・ダハーカに質問した。


「なんじゃ。グラレウスよ」


ーー彼処に居る人間は何者でしょうか?


ーーふぇふぇ。私も気になりましたえ。


苔の生えた年季を感じさせる飛龍が同調する。


一気に視線が俺に集まった。


「おぉ紹介してなかったのう。悠〜!こっちに来るのじゃ」


オルタとオルカを抱えアジ・ダハーカの近くに移動した。


「この者の名は黒永悠。人の身でありながら雹晶窟の試練を乗り越え水郷に至った資格者じゃ」


ーー…雹晶窟を抜けたとは…病を退ける人なぞ居たのか。龍ですら防げぬのに。


ーーほむぅ…よう見ると蛇が憑いとるのぉ。契約者かえ?


騒めく龍達。


ーー…ククッ。グラレウス殿にヤマカタツカミ殿。その者は我等の知る契約者とは一味、違います。


事情を知るフカナヅチが笑う。


「そうか。悠を水郷に導いたのは其方だったな。…うむ!よくやったぞ。妾からも礼を言おう」


ーー勿体無き御言葉。


「そう。悠は契約者じゃが只の契約者ではない。…なんと祟り神と契約しておるのだ!」


一瞬で静まり返った。


ーー…た、祟り神…ですか…?。


「うむ。それにのう…ふへへ…妾とは好い仲なのじゃ。きゃ!…言ってしもうた」


一瞬で再び騒ぎが起きた。好い仲って…俺もびっくりなんですけど。


ーー…主…。


ーー…あらあら。


オルドとオルガが呆れる。



〜15分後〜



騒ぐ龍達にオルドが事情と経緯を説明した。


ーーダハーカ様が稽古をつけた…。


ーーふぇふぇ。そりゃ見込みがあるってことだねぇ。


こそこそアジ・ダハーカに囁く。


「…おい。好い仲ってなんだよ。皆が困惑してるだろうが」


「なんじゃ。妾を抱き締めたじゃろうに」


「感謝の気持ちを表しただけだっつーの」


「ふっふーん。照れおってからに」


その時だった。



ーー…認めないっ!!



怒りを含む叫声が浮島に響く。


群がりが綺麗に割け一匹の飛龍に注目が集まる。


前に伸びた二本の角と隻眼に大きな翼。鮮やかな赤い体色の龍だった。


「…認めぬとは何がじゃ。ウェールズよ」


ウェールズと呼ばれた龍は憤怒の表情で答える。


ーー…人なんて醜く卑劣で愚かな下等種族。争いを繰り返し…自然を己が欲望で破壊する…。私たちの同胞を殺め名声を得んとする侵略者だっ!!


「……」


黙って聞くアジ・ダハーカの双眸が細くなる。


ーー…幾らアジ・ダハーカ様の客人だとしても認めない。この者が龍の聖地…龍神の水郷にいるだけで吐き気がする。況して祟り神の契約者ならば……滅すべき敵でしょう!?


ーーウェールズよ。口が過ぎるぞ。


フカナヅチが窘めるがウェールズは止まらない。


ーー黙れ!…数ヶ月前、私の友は人に惨たらしく殺された。…牙を抜き…舌を切り…鱗を剥ぎ…内臓を抉り…尊厳も無く屠殺されたのだッ!!其奴の本性も…どす黒く汚れているに決まってる!


「…ウェールズ。其方の友を失った悲しみは深かろう。だが弱肉強食は世界の常…其れは龍も人も同じよ。その恨みを全て悠に押し付けるのは違うぞ」


ーー主の言う通りだ。…抱かれた我の子を見よ。これを見ても悠が敵と言うのか。


ーーピュイ。


ーーピュピュピューイ。


「こ、こら。服に潜るな。大事な話をしてるんだから……く、くすぐったい!」


ーー種族も違う出会って間もない私たち家族の為に…自分の身を犠牲にして救ったのよ?


ーー我もしきたりに従い戦ったが此奴はお前が知る人とは違う…落ち着くのだ。



ーー…うるさいっ!!



諭す言葉は逆効果だったらしい。


ーー私は人が憎い。殺したくて堪らないのだ…人に与する龍なぞ…龍族の面汚しだっ!!


ウェールズが激昂し体を震わす。友達を残忍に殺されんだから仕方ないと思うが…。


オルドがウェールズに向かって歩む。


ーーあなた…。


目は爛々と光り角が輝く。


ーー…我が友を侮辱するだけでは飽き足らず…。


竜鱗が逆立ち口から白い炎が洩れた。


ーー…我が主を面汚しと皆の前で侮辱するとは…。


威嚇する様に重い魔圧を撒き散らす。


ーー龍の若造よ。死ぬ覚悟は出来ているな?


ーー………!


身構えるウェールズ。周りの龍は成り行きを見守っていた。…いや、迂闊に手を出しオルドの怒りを買いたくないのだろう。


初めて見たオルドの怒りはそれ程、恐ろしかった。



「静まれ」



アジ・ダハーカが静かに一言告げる。


ーー………はい。


ーー……。


オルドもアジ・ダハーカの命令は無視出来ない。


「…ウェールズよ。そんなに人が憎いか?」


ーー……はい。


「……そうか」


悲しい顔をするアジ・ダハーカを見るのは辛かった。


「……」


分かってる。自分でもお節介だって。


「なぁウェールズっだっけ」


ーー……気安く私の名を呼ぶな。人め。


「…悠?」


黙って見過ごせば良いかも知れない。


「俺が憎いか?」


ーー…その身をこの牙で噛み潰し血を啜りたい程度にはな。


「だったら勝負しようぜ。俺が負けたら殺せばいい」


……でも、見過ごせないのが俺なんだよなぁ。


ーー勝負だと…?


ーー何を言ってるのだ。こんな愚かな者にお前と戦う資格はない。


ーー…貴方がそこまでする義理はないのよ。


オルドとオルガが反対する。


「……」


アジ・ダハーカが黙ったまま見詰める。


耳元で囁く。


「俺に任せとけ…ウェールズが人を憎い気持ちも分かるし悪いようにはしないさ」


「…分かった。其方は本当に優しいな」


「なぁーに…稽古の集大成を…師匠に見せるには良い機会だろ」


アジ・ダハーカが嬉しそうに微笑んだ。


「かかかか!どうじゃウェールズよ。悠は其方と勝負したいと申しているぞ。憎き人から挑まれ断る理由はあるか?」


ーー…宜しいのですか?私は其奴を容赦無く殺しますよ。


「悠は構わんと言っておる。…そうじゃな。これを龍招の一戦としよう。其方が勝てば妾は龍峰の支配者の座を譲る」


ーー…本気ですか?


「うむ!其方が負けたら処遇は悠に任せよう。良いか?」


ーー是非もない!!


猛るウェールズとは対照的にグラレウスとヤマカタツカミが…後からフカナヅチも焦って詰め寄る。


ーーダハーカ様!誠に言っておられるのですか!?


ーーふぇふぇ…若造とは言えウェールズは炎陽龍えんひりゅう。契約者とは言え人が敵うとは…。


ーー悠は弱くはありませんが相手が悪過ぎます。…どうか撤回を…!


「撤回はせん。妾は本気じゃぞ。…オルドやオルガは分かるじゃろ?」


ーーええ。こうなれば主と友の望むままに。悠よ…すまない。…世話を掛けるな。


ーー私も主人と同様に御二人を信じております。…この子たちも一緒です。


ーーピュイピュイ!


ーーピュイ〜!


耳元で鳴くオルカとオルタ。


「決まりだな。相手になるよ」


ーー矮小で愚劣なる人め。私の業火で焼き尽くしてくれる…。


「では場所を変えようぞ。皆の者、付いて来い!」


龍の咆哮が浮島に響き渡った。


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