異世界を学ぼう。③
〜翌日 クリファの森 実戦訓練1日目〜
ハロー。地球聞こえますか?
こちら黒永悠。モンスター退治に奮闘中です。
「しっ!!」
金剛鞘の大太刀が巨大な蜂を真っ二つにする。
ーーブゥゥンブゥゥン。
「うじゃうじゃいやがる…」
初めての戦闘は緊張が半端無かったが杞憂に変わる。
夜刀神の加護のお陰でモンスターを殺す事に躊躇も戸惑いも感じない。
それに各種武器類も自分の手足の様に扱えた。
刀の構え・剣の振り方・銃の撃ち方…体が自然に反応するのだ。
「黒蛇纏いっ…と!」
右腕から伸びた黒蛇が巨大蜂を捕まえ地面に叩きつける。巨大蜂はぐちゃぐちゃに潰れた。
「ふぅ。これで一息…」
ーーガルルッ!
…つけないなぁ。蜂の群れを退治し切ったと思ったら今度は野犬の群れかよ。
「凶暴じゃねーか!この森にいるモンスター!?」
全然、大人しくないんですけどぉ…。
ーーガウッガウガウ!
「…三日月斬り」
金剛鞘から抜かれた大太刀が軌跡を描き一掃した。
「…HPは減るけどいいなこの技」
冒涜者のスキルのお陰で回復するから頻繁に使えそう。マップから赤いマークが消え多数の青いマークが点滅した。
「ふむ…これを使う時がきたか」
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
『森に行く前に…こちらを差し上げます』
『革のポーチ?』
『これは貪欲な魔女の腰袋と呼ばれる魔導具です。物量や質量に関係なく生きていない物ならば何でも収納出来ます』
『まるで四次元ポケットですね』
『……四次元…?…ともかくモンスターを倒すと死骸の他に素材等のアイテムをドロップする事があります。この魔導具は口金を開けば倒したモンスターの素材や死骸を自動で回収し腐敗せず袋の中で保管
してくれる便利な物ですよ』
『いやいやいや!普段から世話になってるのに……無料でこんな道具を貰えないですよ!』
『私が昔使ってましたがもう無用の長物です。魔導具も棚で仕舞われるより使って貰った方が嬉しいでしょう』
『でも…』
『ふふふ、頑固ねぇ……。でしたら森で倒したモンスターの素材やアイテムを頂きましょうか。ミドやケーロンにも渡せば二人も喜びますし』
『…だからって』
『まだ何か?』
『………ありがたく頂戴いたします』
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
あの有無を言わせない笑顔は無敵だな…。
口金を開くと死骸とドロップした素材がポーチに吸い込まれていく。
「おぉ…よしっ。すげぇなこれ」
まだまだ赤いマークは沢山ある。
〜クリファの森 実践訓練14日目〜
「ラストォ!」
ーーーーギリギリギギ…!
リッタァブレイカーを甲羅に振り下ろし爆発させる。
ーーーーギ…ギ……リ。
砕き焼かれた蟹は泡を吹いてひっくり返り絶命した。
今日は少し北にある沼地を探索していたら巨大蟹の数匹に襲われた。応戦し死骸と素材をポーチに入れる。
戦闘にも慣れ分かったことが幾つかある。
①戦闘技の深淵狩りの技法は金剛鞘の大太刀でのみ使用できる。金剛鞘の大太刀の大剣・二刀・大太刀でそれぞれ技を発動すると固有のモーションに変化する。
②マップの赤いマークが大きいほどサイズが巨大なモンスター。
この日も結構な戦闘数をこなし意気揚々とモーガンさんの家に戻る。
〜クリファの森 実戦訓練35日目〜
空を飛ぶ翼竜のモンスターが上から魔法を放ち攻撃してくる。
…何度か遭遇したが魔法を使えるモンスターは厄介だ。油断しているとダメージを一気に食らう。
ーーギャ!!
ケーロンの魔銃で羽根を狙い撃ち落とし銃殺した。
特定の部位を破壊してから倒すと効率よくモンスターを倒せるのも新しい発見だ。
…最近は最初に比べ襲われる頻度も減ったな。明日はもう少し奥に行ってみよう。
〜クリファの森 実戦訓練40日目〜
「…くそっ…痛ぇ…」
…俺は馬鹿だ。スキルや加護を過信し過ぎた。
目の前にいる雑魚敵のスライムみたいなモンスターは
かなり強い。冒涜者の効果でダメージはあるが致命傷には至らない。
光線をこちらに向け次々と飛ばしてくる。
これに当たったのが不味かった。
ーーーーーー
HP874/4500
ーーーーーー
一気にHPが減った。
…もしやあの光線は聖属性の攻撃なのか?
ーーコォー。
また光線がくるぞ!
…どうする。這い寄る白蛇を使うか?いや、この状況でMPが切れて魔素欠乏症はきつい。
黒蛇で攻撃して…待てよ。黒蛇纏いって武器にも纏えるんじゃないか?
試しにリッタァブレイカーに這わせモンスター目掛けて撃鉄を起こし振り払う。
通常より爆発の威力が凄まじく増していた。
ーーーージュワァ…。
致命傷だったのかモンスターは蒸発し消える。
「た、助かった…」
強敵を倒しまた一つ理解した事がある。
「…調子に乗らず驕らない…肝に銘じなきゃ」
黒蛇纏いが武器にも応用できると分かっただけ良しとしよう。
…ただ、MPも消費するみたいだ。連続で使用はできないな。
俺は周囲を警戒しながらボロボロの体で帰路についた。
〜クリファの森 実戦訓練66日目〜
皮膚が裂け血が噴き出した。
「!」
ーーーォオオ!!
神樹の森の奥。昼なのに樹々で陽の光が遮られた深い茂みの中にそいつはいた。
人の顔をしたヘラジカ。…気持ち悪い。
体は小さいが動きが素早く風の魔法を使ってくる。
竜巻を起こし近寄らせようとしない。…近寄れたかと思えば今度は突進をお見舞いされる。
攻防を繰り返し気付いた。
竜巻を起こした瞬間、後ろに下がり距離を取ろうとする隙があるのだ。
「(…今だ!)」
俺は金剛鞘の大太刀を抜き戦闘技を発動した。
「一刀・閃」
飛ぶ斬撃がモンスターの首を切断する。
「……よっしゃあ!」
喜んだ瞬間、ウィンドウが開いた。
ーーーLv1→Lv2へLevel upーーー
・戦闘数値・非戦闘数値が上昇しました。
・戦闘技『ギミックブレイク』を習得しました。
・戦闘技『ブレイカー』を習得しました。
・従魔との親密度が上がりました。
・強敵を倒し固有スキル『浸食』の効果が発動。
「…毎日毎日モンスターと戦ってようやくLv2…。どんだけ戦えばLv5になれんだろ」
ステータスを選択し確認する。
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名前:黒永悠
性別:男
種族:人間
称号:穢れを背負う者
職業:契約者 Lv2
戦闘パラメーター
HP5800 MP1700
筋力899 魔力102 狂気1800
体力327 敏捷600 信仰-600
技術455 精神102 神秘700
非戦闘パラメーター
錬金:21 鍛冶:45
生産:32 飼育:20
耐性:狂気耐性(Lv Max)神秘耐性(Lv Max)
不老耐性 不死耐性(Lv3)聖耐性(-Lv Max)
戦闘技:獣狩りの技法・ギミックブレイク←
魔法:闇魔法(Lv2)
奇跡:死者の贈り物
呪術:黒蛇纏い・這い寄る白蛇・呪炎
加護:アザーの加護 夜刀神の加護
従魔:祟り神(親密度16%)
固有スキル:鋼の探求心 浸食 冒涜者
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戦闘技
①ギミックブレイク。
仕掛け武器を扱う者の技。
・ブレイカー…HPを継続消費し力を溜め渾身の一撃を放つ。
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「ふむふむ」
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金剛鞘の大太刀+1
・浸食の効果発動により斬れ味が強化。
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「おおー!」
パラメーターもめっちゃ上がってる。
加護で上がり辛いが上がると半端ないな。
残り27日…。この調子で頑張ろう。
〜クリファの森 実戦訓練86日目〜
森の中を歩いていると助けを呼ぶ声が聞こえた。
ーーーータスケテ!タスケテ!
ーーーーオネガイ!オネガイ!タスケテ!
ーーーータベラレチャウ!タスケテ!
声の方向へ暫く歩いていく。すると…
「うぇっぷ!……ぺっぺっ。…これ…落とし穴か!?」
…落とし穴に落ちた。
しかも結構、深い。体中泥塗れだ。
ーーーーヤーイ!ヤーイ!ダマサレタ!ダマサレタ!
穴の上から小馬鹿にした笑い声が聞こえる。
「待ちやが」
ーーーーバーカバーカ!キャハハハ!
穴から這い上がり銃を撃とうしたが既に声の主は消えていた。
〜夜20時 モーガン宅 リビング〜
今日、森で起きた出来事を話してみた。
「…それは『妖精』ですね」
「妖精…」
「妖精は木々や草花に宿る魂の化身で精霊の一種よ。好奇心旺盛で悪戯好きなのが特徴です」
「泥塗れにされましたよ…ったく」
「ふふふ。滅多に人前に姿を現さないので妖精を見た人には幸運が訪れると言い伝えがあります」
「幸運、ねぇ」
「…取り敢えず夕飯にしましょうか。悠さんもお腹が空いたのでは?」
「ぺこぺこです」
野菜たっぷりのシチューに舌鼓を打ちモンスターの死骸と素材を渡して眠りについた。
〜クリファの森 実戦訓練87日目〜
ーーークルナ!アッチイケ!
ーーーモォォォ!!
俺に悪戯をした妖精の悲鳴と牛の鳴き声が聞こえる。
注意して近付き木の陰から様子を伺った。
ーーーキャア!?
牛頭人身のモンスターが手に持った大きく錆びた斧を振り回し妖精を襲っている。
ーーーモォォォオ!
初めて見たけど強そうなモンスターだ。このままじゃ妖精は死ぬだろう…でも俺には関係ない。
わざわざ首を突っ込み助ける義理もないしな。
ーーータスケテ!タスケテ!
…助ける義理はない。
ーーークルナ!クルナ!!
……助ける義理はないんだ。
斧を無残にも妖精に振り降ろされ……。
ーーーキャアアア……アッ…?
ーーーモォッ!?
「俺が相手だ牛野郎」
……なかった。
金剛鞘で受け止め間に割って入る。義理がなくても助けなくちゃ…男じゃないよなぁ!
ーーーモォッオオォ…!!
斧に力が入り足が地面にめり込む。
…舐めるなよ。
「おらぁ!!」
こっちは祟り神様のお陰で筋力高いんじゃい!
弾き飛ばし二刀で斬る。斬る。斬る。斬る。
ひたすら斬り続けた。
しかし余程、強いモンスターなのだろう。怯まず斧を振り回してくる。
「っ!?」
避けきれず腹に突き刺さった。
「痛ってぇえええええ!?」
ーーーモォォォオオォオ!!
勝ち誇り雄叫びをあげるモンスター。
「…まだ、だ…!」
突き刺ささる斧を無視し前進した。腹から血が溢れ出し鮮血が飛び散る。
ーーモォ!?
二刀で放つ渾身の三日月斬りが両腕を切断した。
そのまま胸に刀を深々と突き刺す。
ーーーー…モォォ…オオオオオォ…!!
今際の断末魔が響いた。…絶命したみたいだな。
「はぁ…はぁ…!…ああぁ…くそ…」
不死耐性と冒涜者の効果で傷口が塞がり始めたが血を流し過ぎてくらくらする。
「しばらく休憩だ…こりゃ」
その辺の樹に寄りかかって座り込む。
ーーー……。
妖精が近寄ってきた。
花のスカートにふわふわの髪。小さな羽がぱたぱた動いてる。…とても可愛らしい顔をしていた。
「……………」
ーーーダイジョブ…?
「…大丈夫じゃない。……もう俺に悪戯すんなよ」
ーーー…ウン。
「…ほら…いけよ。また怖いモンスターに襲われるぞ」
ーーー……アナタノナマエハ?
「……悠。黒永悠だ」
ーーーユウ…。ワタシハ…アマルティア!
ーーーオレイ!オレイ!
小さな種を渡される。
「?」
ーーーアリガト…ユウ…チュ。
頰にキスされる。
照れ笑いの笑みを残しアマルティアは飛び去った。
「ありがと、か…はは。悪くない気分だ」
その後、動けるまで回復し神樹の森を後にした。
〜夕方17時50分 ケーロン夫妻の家〜
起きた顛末を報告するとミドさんが口を開け呟いた。
「妖精を助けたって…あんた、ねぇ…?」
「…からかってんじゃねぇよな」
「本当ですって!お礼を言われてキスもされたし…あ!種も貰ったんですよ。ほらこれ」
種を見てモーガンさんの顔色が変わった。
「…その種をよく見せて貰っても良いですか?」
「どうぞ」
モーガンさんに種を渡す。
「……これは神樹の種…ですね。この種を植えればクリファの神樹のように育ち植えた土地を比類なき恩恵と守護を齎すでしょう」
「……ぶったまげたわい」
「はー…」
この言葉に驚愕するミドさんとケーロンさん。
「そんなに凄いんですか?」
西瓜の種にしか見えないけど。
「この種の価値は計り知れない。手に入れるためなら国家間で戦争が勃発する程、貴重な物です」
やべぇぞ……西瓜の種。
「余程、その妖精に気に入られたんでしょう。妖精が人に贈り物をするなんて…。これは悠さんが大事に持っていて下さい。きっといつか役に立つ…そんな予感がするわ」
「え…あ、はい」
戦争を引き起こす種…永遠にポーチに入れとこう。




