女神の独白と邂逅。
嗚呼、これは何故でしょうか。
ある一人の不幸な少女を転生する。単純な何時もと変わらぬ私の役目。
確認すればする程、極僅かな軋み。
それが死ぬ筈ではない男性の死を招く。
決められた運命から外れてしまった。
帳尻を合わせなくてはいけない。
愚かな失態。しかし、この事態に私は楽しんでいる。
幾星霜、数えられない時代から繰り返した初めての失敗。
因果から外れた人がどのように影響するのか…何を招くのか知りたいのだ。
そうして一人佇む男性に私は話し掛けた。
〜狭間と混沌の領域〜
ーー貴方は死ぬべきでなく死んだ。代わりに異世界で第二の人生を謳歌する機会を与えましょう。
「……」
ーー本来なら電車に轢かれ死亡し転生するのは彼女だけの手筈でしたが…。
「………」
ーー少々、因果律が乱れ貴方は巻き込まれてしまったのです。
「…………」
ーーそれ故、転生する事は不可能…異世界へ転移もとい再召喚させて頂きます。
「……………」
ーーここまで質問及びご不明な点はございますか?
「…えぇー…」
唐突な展開に口からは掠れるような声しか出てこない。
俺は仕事帰りに駅のホームで電車を待っていた。……そう。電車の到着寸前に隣の中学生の女の子が電車に飛び込んだ!
その子に手を引かれ…ダメだ。そこから先の記憶がない。
気づいたら白い部屋で突っ立っている。
抑揚のない女性の声以外は音もしない。誰もいない様子だ。
ーー状況把握と情報処理が追い付かないのは致し方ありません。これは夢幻の類いではなく現実です。
「いや、その…先ずあなたは誰なんですか?」
ーー狭間と混沌を管理する者。人は私を女神と呼びます。
「め、女神ですか…」
機械的な女神様。声が綺麗な分、余計に冷徹に聞こえる。
ーー余り時間はありません。質疑応答が必要なければ早急ではありますが再召喚を始めさせ…。
「は!?いやちょっ、ちょっと待ってください!。そ、そうだ。俺が死んだって証拠を見せて欲しいんですが」
こんなので死んだなんて納得できるか。
夢だ。これは夢なんだ。起きたらまた社畜の日々が…。
ーーご覧下さい。
目の前にスクリーンが現れそこに鮮明に映っていたのは……。
ーー貴方の死因は轢死と断定されています。遺体の回収は広範囲に肢体が断裂している為、部分的に貴方自身と判断出来る箇所は頭部の……。
「……もう良いです勘弁して下さい」
自分自身のグロ映像だった。
ーー分かりました。他には何か?
事務的に女神は聞いてくる。
「…あ、そういえば一緒に飛び込んだ女の子は…?」
ーー異世界に転生しています。
「そう、ですか」
自分の死んだ姿を見て当然ショックだったが不思議と受け入れてる。…辛過ぎると泣けなくなるってこんな感じなんだろうか?
30歳になってこんな最期だとは思ってなかったけど。
ーー時間が惜しい。異世界への召喚及び構築を開始します。
「ふぁ!?」
ーー貴方の名前を。
「く、黒永悠」
ーー黒永悠。……異世界にて同個体の構築完了致しました。欠損及び身体構造に相違なし。
「パルキゲニア…?」
ーー貴方が異世界で生きる為に必要な才能を二つ…そして私のささやかな加護を授けます。
「すみません。聞いてます?」
ーー付与開始。
「いやだから異世界ってどんな世界なのか教え」
ーー付与中です。暫しお待ちを。
「聞けよっ!」
敬語を忘れ思わず叫ぶ。
ーー選択が完了致しました。
ーー『鋼の探求心』を黒永悠に付与。……付与完了。
ーー『暴蝕』を黒永悠に付与。……付与完了。
「…痛っ!?」
酷い頭痛が襲ってきた。
ーー続いて加護の付与を開始。□□□の加護を黒永悠に付与。……付与完了。
痛みで段々と意識が遠のいていく。
ーー召喚を開始します。簡単な説明は後程。異世界では最初に自身に付与されたスキルと加護の確認をお薦め致します。
「いっ、ぐぅ…あ?」
ーーではまたお逢いしましょう。
「待ち、やが」
俺は暗闇に落ちるように意識を失った。