はじまり
「ミッションコンプリートしました~。この世界でのミッションはすべて達成、おめでと~。この世界でのコンプリート特典は「金のインゴット」だよ~。次の世界に向かいますか~?」
能天気な女のナビゲーションが男の胸のアクセサリーから響いてくる。
「ここも違うのか。てか、インゴットって!」
「いやーそんなもんだろ、だってこの世界水準見ただろ?」
オレンジ色に染めた奇抜な髪を後ろで縛った軽薄そうな男が答える
「だって世界の宝だぞ?」
アクセサリーの男とその傍らで笑っている男はナビの声をそっちのけで文句を言っている。
「・・・で、次いく~?」
「ああ、いくよ。とっとと飛んでくれ!」
「りょ~かい~」
と同時に2人の体は次の瞬間その世界から消え、次の世界に移るため次元のはざまを飛んでいた。
「それにしても、次はどんなところやら・・・せめて飯が旨い世界がいいな」
男は飛びながら、この3年ほどを振り返っていた。そもそもなんで自分が世界を渡り、その世界でのミッションをこなして、クリア特典である世界の至宝を手にしなければいけないのかを。
「あいつ、いつか絶対にたどり着いたら・・・・!!」」
~3年前~
3年前の夏休み、大学2年生になったアクセサリーを胸にかけていた男こと「東儀大和」は秋田にある祖父の家の蔵を整理していた。
半年前に祖父に託けされていたからだ。「おい、大和、もしも、じいちゃん死んだら必ず蔵を整理すること。いいな?絶対だぞ?」と言った祖父こと「東儀大輔」はこの託けの五月後亡くなった。悲しかったし、何よりまだ赤ん坊の頃に両親が死んだ(祖父からそう聞かされていた。)自分にとっては唯一の家族であったので喪失感で胸が張り裂けそうだった。葬儀が終わり、一月ほどは落ち込み、祖父との思いでがあるこの家で引きこもりがちになっていた。しかし、祖父の残した託けを守るため始めたのである。
「しっかし、すげーな。ここ」
蔵のカギを開けると中には棚と木箱で2階まで満載にところせましと積まれていた。
「夏休み中に終わるかな・・・これ」
とにかくやるしかない。とりあえず中身を開けていきますか。そういや、今日は夕方に哲哉が家に来るって言ってたっけ。それまでにある程度まとめて、夜はうまいものでも食べに行きますか。
そう気を取り直した大和は片づけを始めた。
哲哉こと「南条哲也」とは幼少の頃より友達で小・中・高・大と一緒の学校で過ごしてきた。都内の大学に一緒に進学しており、本日夏休みお盆前のバイトを切り上げて帰省してくるのだ。祖父が亡くなったことに一番一緒に悲しんでくれ、通夜・葬儀の時も駆けつけてくれた親友と言ってもよい。
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「ふう。こんなもんか。てか、もう17時じゃん!」
大和は時計を見て、びっくりする。作業してからだいぶ時間が経過していたのだ。
「まあ、でも粗方片付いてきたし、ひとまずあいつ来るから撤収の準備するか」
確か16時半着の電車と言ってたよな。駅から30分くらいだし、実家に帰ってから一息入れて、うちに来るって考えるとあと2時間くらいはあるだろ。片づけて、いったんシャワーでも浴びるかな。。。
「おっひさー」
「・・・」
「あれ?・・・おっひさー」
「よう、早かったな。実家のほうには顔出したのか?」
「うーん、こっちきた!びっくりした?」
「連絡くらい入れろよ」
「いや、だって大和、蔵整理してるんでしょ?大和の性格からいって、俺来る前に片づけて待ってそうじゃん。一回片づけたものまた広げるもの悪いし・・・それに大和のジーちゃんの集めていたものすっげー興味あるし」
「お前はまたそういうことを・・・まあわからんでもないが」
「えーだって大和、あのじゃーちゃんが死ぬ前に念押しした託けでしょ?気になるよ」
そうなのである、臨終の間際にも祖父は俺に念押しをしたのだ「蔵を整理すること。そうすればお前の道は開かれる」と。
「ね、大和お願い」
「しょーがーねーなー。んじゃ頼むわ」
こうして、俺達二人は蔵を整理することになったのである。