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Act.6 赤い矛と青い盾

 深層心理鉱脈(ディープブルー)は同期した者の心理を読み取り、自在に変形する金属の能力。


 英士は巨大な盾を作り、ジャングルジムの槍を受け止めた。接触したとき、火花が散った。ぶつかり合う衝撃は凄まじく、気を抜けば弾き飛ばされてしまいそうになる。回転の振動が腕に伝わり、腕が縄のようにしなった。


 地面まで装甲の長さを伸ばし、支柱で後ろから盾を補助することで何とか耐えている。


「邪魔よ! 退きなさい!」

「嫌です。水を指してすいません。でも、嫌なんです!」

「何が!」

「こんな決着はあなたの強さじゃないから。俺がいなければ、きっと……」


 黙りなさい。痣野はそう英士の言葉を遮った。


「そんな仮定はいらない。私は迎え撃てると判断したからここにいるの。勝手に私の意志を背負って余計なことをしないで」


 何も言えなくなった英士に痣野が呟く。「穴は開けられる?」。英士が見た痣野はもう真っ直ぐに盾の先の敵を見据えていた。


「槍の回転軸は釘よ。その位置で盾に穴を開けられる? 大きすぎると槍が入り込むから、釘のサイズで」

「出来ます!」


 腕に刻んだ十字傷からの出血を振り払う痣野。それから彼女は先に支配下に置いてあった血の弾を構える。「すぐやって」。


 釘の位置はわかっている。英士は支柱を増やして地面に固定し、痣野のために少しスペースを空けた。


「いきます」


 一声かけてから盾に穴を作る。鈍い衝撃があり、槍の先端が潜り込んできたのがわかった。槍先が盾の厚みから飛び出すことはない。しかし槍の形が均一ではないから、振動が不規則で英士の渾身の力でも長く持ちそうになかった。


 刺し込まれた先端の釘が穴の中で取り乱したように躍り狂う様がわずかに見える。それでも潰れたり、曲ることはない。頑丈なのではなくトバイアスの支配力で補強されているからだ。


「念のため、手を離した方が良いわ」


 痣野は手のひらで穴を隠すようにして血の弾を押し込める。すかさず英士は盾から離れた。


アルターポーテンス、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)


赫灼煉華(かくしゃくれんげ)・一輪挿し」


 途端に盾が爆風で押され、支柱が地面を掻きむしる。ディープブルーの途切れた箇所に火の手が上がっているのが見えた。


「能力を解いて」


 英士は言われるがままにディープブルーを解除した。


 ひしゃげたジャングルジムが横たわっている。トバイアスは被害こそ受けてはいないが、唖然としていた。


「追撃がなかったようだけど、天気予報でも見ていたのかしら?」


 痣野がいけしゃあしゃあと宣う。


「強かだな吸血鬼。釘の投擲は弾かれるし、かと言って君が地面に溢した血は言わば地雷だ。直接釘を刺しにかかって踏み込めば私だけが損をする」


 英士は足元を見た。血の円陣が出来ている。先ほどまで立っていたところは土が掘り起こされてしまっているが、確かに直前まで彼女は周囲に血を撒いていた。


 抜け目がない戦い方というのは、英士には出来ない。痣野の機転に感嘆するばかりだった。


「君を殺すのに準備がいるらしい。ここいらでお暇させていただくよ」

「逃げるの? 農夫さん」

「収穫の先送りだよ。天気と相談でもするさ。だが必ず刈り取る。お前ら吸血鬼をのさばらせても、土壌を汚すだけだからね」


 いつの間にかトバイアスの傍らに小柄な少女が立っている。彼女がトバイアスの裾を掴む。そして次の瞬間にはその場から二人ともいなくなった。

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