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Act.4 ナイフと釘

 手がかりを求めて痣野は交差点に立つ。


 児童公園があるためか拓けた印象を受ける。その公園が清虚嶺蘭女学園の生徒が襲われた現場とのことだった。


 トラックが掻き分けた空気が痣野の髪を乱す。交通量も多い。タバコの煙がなびいて止まない。


 夕暮れ時の空には忙しなく鳥が行き交い、不穏な雰囲気をかもし出す。やけに鳥が多いのが気にかかった。


 横断歩道を渡り、公園側へ。何でこんな人目につくところであの狡猾な老婆が通り魔などという大それたことをしたのか、痣野は疑問を持つ。


 見回してみても、なんの変徹もない道路だ。ジェリコが関わったとされる吸血事件は必ず十字路で起きている。何か、それこそジェリコにしかわからないこだわりがある筈だと痣野は考える。


 住宅街の十字路、ビルの谷間の交差点、郊外の畦道。何枚もの現場の画像や航空写真をプリントしたものを見比べても何も共通点が読み取れない。


 ただ道が交われば良い……? 条件は本当にそれだけ?


 視覚に頼った次は、匂いを探る。吸血鬼の体に変換されてから嗅覚が上がっていた。二ヶ所から肉の腐った、すえた臭いがする。道路のその位置をカラスがしきりにつついていた。


 もう一ヶ所の臭いを辿って公園の中を痣野は見た。


 カラスが占拠している樹木の下にブランコが設置されている。そこに腰かけた男性が爪先で地面を掻いて小刻みに揺らしている。キィ……、キィ……と余韻のない音が立つ。男が着ている黒衣の肩にはマスケット銃と杭のシルエットを組み合わせた十字架の刺繍が見えた。彼もまた痣野を見ている。


 痣野は歩み寄る。


「あっちにベンチが空いているわよ、釘打ちトバイアス」

「揺れる分、得した気にはならないかい吸血鬼」


 目眩に見舞われたかのような動きで、ゆらりと立ち上がるトバイアス。痣野はタバコを金属製の携帯灰皿に納めた。


「ジェリコを追ってきたのでしょう。言っておくけど私は何も関係ないわよ」

「農夫は野菜をいっぺんに刈り取るものだ。君もジェリコも私からすれば大して違いはないのだよ。けれど収穫量が多ければ嬉しいだろう? 豊作って奴さ」


 それに、とトバイアスは不適に笑う。


 互いに懐から得物を抜く。間髪いれずにトバイアスが片手につき四本の釘を放った。


「君がジェリコではないという確証がない!」


 痣野は己の手首をナイフで横に切る。それから飛び交う羽虫を払うように血の滴る手首を素早く動かした。


アルターポーテンス、曼珠沙華(まんじゅしゃげ)


 弧を描いて広がった流血は紅蓮の炎を噴いて爆ぜる。


 爆風を受けて釘は直線軌道を外れて四方に散らばった。熱線を受け、凹凸がはっきりとしたトバイアスの顔は赤く染まる。


「血液を起爆させる能力か」


アルターポーテンス、のたうち回る標本(タンブルキャタピラー)


 木材に負荷がかかる音がした。ベンチが音源だった。一本の脚は腐敗していたらしい。脆くも崩れて既にぶらついている。また一本、弓形にしなっていた脚が土をどかして根本から引き抜かれた。直後、片側に残っていた一列が同時に折れた。


 束縛するものがなくなったベンチは回転し始める。遠心力で土を撒き散らす。ベンチは痣野を目掛けて飛んできた。すかさずナイフを突き出すが、レコード盤に弾かれた針のように切っ先は拒まれた。左腕を盾にするが、直撃を受けて抉れる。


 回転は止まらない。指示を待つ従者のようにベンチはトバイアスの側に控える。


「ベンチが回ることはお得なの?」

「君の致死率が上げられるならそれは得に違いない」

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