本祭3
死闘を制したはネクロパなり。異界とは云えども女王が娘にて、ヴィルヘルミーナの猛攻に防戦一方とはいえども対応できる者、数は多くとも素人に近き者らに負けるはずなし。如何。
崩れた装をヴィルヘルミーナが寄って整えてやるに、あたりの者のため息在りし。そのままに氷漬けにでもして飾りたく思うほどの圧倒的なる景。一星もまた息をのむ。さうして、己が一体どれ程の美姫と共にありしかを改めて知りぬ。
ようやく(主に筆者が)落ち着いたとき、ネクロパは視界の端に、信じられないものを見た。綿菓子片手に根付を物色する母の姿を。何と云うか、ものすごく楽しんでいるようで、ちっぽけなお面やらちゃっちい何かの景品を引っ提げて、軽く酔ってでもいるのかたばたばとばかりにいる。たばたばとしか表現の仕様がない様子なのである、たばたば。そして、ネクロパと目があった後、非常に悪い笑みを浮かべた。見ていたのだろう。というか、もしかしたら焚きつけていたのかもしれない。よく思い返せば先ほどの喧嘩をあおる声の中に確かにこの駄母の声があった。普段ここまで怒ることないのだがこの街でため込んだフラストレーションは大きい。温厚な彼女をして、いっぺん〆ようとも思わせたのだが、そんなことは御見通し、精密に操作された小さな魔力塊がネクロパ眼前2寸で炸裂。視界を一瞬奪いその間に姿をくらました。ここまで精密な魔力操作はさすが年の功、否、経験のなせる業か。女王の名は伊達ではない。かくて鬼神がごときに機動するのである。神出にして鬼没、かく在りてがこそに好みなる餌を得る。
神輿や山車が出ていく。その華やかな盛り上がり。しかし何故かその根底に寂しさを見つけることはたやすい。戦争である。帝国指導者閣下が導く究極の戦争である。それは国家そのもの全てを相手に投擲するがごとくの総力戦、ここに来た観光客も死ぬ前の華を思い出にしたい者たちであればそうもなろう。この祭りも戦争が終わるまであるまいとうわさがあればこそだ。それを纏ってきらびやかな神輿は往く。山車の太鼓はそれを打ち鳴らす。桜は散り際こそ美しい、この祭りもまさにそれを思わせる。散る前の極限の輝きである。ああ、なぜこの世に戦などあろうか。生きることすなわち闘争である。生きとし生けるものが皆死に絶えるまで戦はなくならぬ。
そのような陰鬱を払うか、走る二人ある。そは片や鬼、片や天狗。この帝国に住まう鬼とも違う鬼が、この帝国には居らない天狗を引きまわして駆ける。その様だけは確かに戦もない世界の平和な祭りのようだ。少女たちが続く。『SHOW YOUR SON』。さうとも聞こえる声を残して視界から消えゆく。
「山車神輿 鬼にひかれる 天狗かな とでも詠めば善かろうか。君はあれらと会ったことがあるだろう?」
いきなりネクロパのそばにいたのは、礼装に身を固めた国家人民軍の中将、すなわち筆者であった。