本祭2
祭りの行われている社。そこは活況を呈していた。しかし、放送が始まると皆、シンと静まる。畏れ多くも偉大なる帝国指導者閣下より賜った祝電の奉読が始まることを知らせたからである。長々と美麗字句を並べた祝電。その間は皆直立不動の姿勢で聞いている。ここは独裁国家だ。時が止まったようにすら感じる。そして奉読が終わった途端、皆一様の方角、帝都に向かって脱帽し最敬礼を捧げる。二度も言うようであるがここはそういう国なのだ。それが終わった途端に活況が戻ってきた。変わり身の早い事である。領主であるマリアの話などまだ放送は続いているのだが、みな聞き流している。そういった一連のことに戸惑っている一星たち。それに対して諦めたように「こういう国だから」と返すヴィルヘルミーナ。何度も言うがこういう国なのである。
屋台は数多にある。まあ、淫魔が主催する淫魔の為の祭りである、期待するようなエロいイベントなどない。世はそういうものである。数少ないそういったモノも、基本的に淫魔向けであるからあまりうれしいものではない。ここで重宝されているのは看板娘ならぬ看板オッサン、あるいは看板少年はたまた看板青年。そういう土地なのである。まあ、そばには必ず店主である淫魔の姿があるのだが、これは配偶者が他の淫魔にうつつを抜かさないように見ているという意味もある。淫魔の独占欲は海より深いのだ。そんな店主の幾人かが、一星を売り子に欲しい逸材とばかりに目を付けた。あんな美味そうな、いまのところ青年とはいかないようなそれならきっと多くの客が来る。飛び出す時が遅れれば、きっと後悔するだろう。だからそれは当然であり必然なのであるが、かち合いが生ずる。先に目をつけたのは自分だとばかりに目をぎらつかせて、つかみかかり合い直前にいたるさまはある種滑稽にも見えるものだ。原因である一星は目を白黒させているが。一歩引いたところで、ヴィルヘルミーナはネクロパにそっと囁く。「あんだけ魅力的な奴、手放していいのか?」と。まあ、アレである、付け火だ。
キャットファイトは祭りの中漁火のごとく多くの者らを引き付けてある。皆これを煽りつ原因たるを見、察する。天地のこれほど素晴らしき男は他にあるまいとぞ思える貝紫にも似た高貴な色合いの髪をしたる少年。今や始まる祭りが花よ。賭けの対象にもありしか。あるいは飛び入る者あり。これぞ祭りぞ、淫魔の祭りなり。さあ、騒げ騒げ。