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淫魔の巣窟で夏祭り  作者: サモナー系執筆者2名
6/9

本祭1

 朝の組手の後、また風呂で一悶着あったが、委細は伏す。今回は一星の男性機能に影響の出かねない事故であったことのみを以って唯一の状況報告と為す。如何。


 脱衣所には使用人が用意した祭りにふさわしい衣服。それぞれを着つけるのも使用人であるが。その使用人が、一瞬一星の芳醇な香りにつられて手を伸ばしかけたが、そこは伯爵家御付きの上級使用人である。踏みとどまって着付けに専念する。仕上がった服装は、なんと言おうか、脱ぎきしやすそうな、妙に肌露出の多めともいえる服装であった。その癖してどうしたことか中性的な、どちらの性でも着れそうな服装である。『キクノスケ』とかいう呼び名のある服装だそうな。この他に選択肢は、無い。不要だ。

 そしてネクロパであるが、これは(こと)にし難し。銀の髪に合わせて映えるか木綿の素なる(りょく)なりしを。点にありしか藍の装飾は闇夜の蛍か彩りたる(さま)の美しきに。衿元より伸びるうなじの艶めかしさは絶対領域とぞ言うに値す。着付をしたものは誇らしげに題をつけたり『鈴蘭』と。

 治安維持機構の制服に身を包んだヴィルヘルミーナは二人を交互に見つつ、意味深にうなずいていた。この制服で行った方が喜ばれることから余り着飾ったことがないので、二人が少しうらやましいのだがそれをおくびにも出さずにいる。さて、祭りに行こう。その前にいくつか事を済まさなければならないが。ヴィルヘルミーナは銀貨と銅貨がたっぷりと詰まった財布をネクロパに放ってよこした。ヴィルヘルミーナは基本的に、淫魔(サキュバス)が金銭を負担するのが一般的な、男に財布の中身で心配させるのは不徳の極み、まして男に払わせるのは先祖代々の墓に入ることができないほどの大罪とされている価値観の中で育ってきた。だから、財布を渡す相手はネクロパになるのだ。


「おし。二人とも。その財布はもろともやる。使い切っても使い切らなくてもいいが、もう返すなよ?返されるのは貴族の恥だ。」


そういうものなのである。なお、紙幣はまだ一般的でないので、非常に重たい。銅や銀といった重金属の束であればそーなる。そーならんほうがおかしい。ついでに、金入道中差かねいれどうちゅうざしという、武器としての脇差の部分と、鞘に細工して金銭を入れた部分のある財布兼武器ともいえるものを一星に渡す。近年鉄道の発達や内務省郵便の簡易口座を用いた金銭のやり取りができるようになり不要となりつつある過去の遺物であるが、土産に呉れてやるならばこれほど面白いものはあるまい。日本の法など知ったことではないが。しかも先ほどの財布で十分なくらい入っている。武器としても財布としても使う事はあるまい。


「これ、刀を抜いた状態だとお金が落ちたりとかしないんですか?」


「落ちないぞ。これはこうやって抜刀するとだな。」


実際にすらと抜刀してみせる。白刃きらめくさまは非常に絵になる。というかヴィルヘルミーナに白兵が似合い過ぎるのである。


「鞘の側にあるばねが刃に押されなくなるんで戻ってだな、銭の入る引き出しが固定されるんだ。この状態で鞘を逆さにして振っても一文たりとも落ちたりしないぞ。」


それだけ武器が似合う人が脇差片手に鞘を振って落ちないことを見せるさまはなんだか滑稽である。それを見せてから納刀し、鍔についたふたを開ける。


「こうしないと取り出せない仕組みなんだ。納刀して鍔のふたを開けねば出せない。」


ためしに一つ出てきたのは100文銭だ。それをほいと戻しながら言う。


「この街では男であるなら武装してよいことになってる。自衛しないとまあ、なんだ、犯されるぞ。」


そう言いながら再び一星の手に金入道中差を渡す。腑に落ちないような何とも言えない表情の一星。まあそうだろう。というか刀は扱いに慣れていなければただの鉄の棒と大して変わらない。いや、壊れやすい分鉄パイプの方がマシかもしれない。


「いいか、自衛ってのはな、こういう得物を持っているって見せつけるだけども効果があるんだ。実際使う事がないのが理想だよ。」


ヴィルヘルミーナはそれだけ言って、祭りに行く道を考え始めた。あまり裏道に行けば事故の元だが、これほどいい()を多くの淫魔の密集するところに連れてゆくのも、いいものではない。いくら自衛の手段を持たしたと言っても。ふと視線を上げれば、帯に適当に金入道中差しをぶっ込んで格好つける一星と、呆れた顔で何か言っているネクロパ。この二人なら大丈夫だろう。思わず笑いが込み上げたヴィルヘルミーナ。

先祖礼拝の都合で明日明後日の更新はないはずです。

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