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淫魔の巣窟で夏祭り  作者: サモナー系執筆者2名
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 うなるモーターは最早轟音と言って差し支えはない。旧式な、とは言ってもこの帝国では最新鋭にして最高性能の直流主電動機が、路面電車を動かしている。帝国で初めての実用電気鉄道、いや、軌道である。運転士の後ろ姿が艶めかしい。思わず手がでそう、と思う一星ではあったが、手を出せば多分死ぬ。比喩でなく。

 街の中心に向かう車窓に見渡す限り、男などはなかなか見つけられず、居っても大抵は旅行客の様だった。働く者は皆淫魔(サキュバス)ばかりだ。ヴィルヘルミーナに聞けば、この街はかくあるのが当たり前だという。淫魔と男の惚れただ脹れただの真ん中で、奪い合いになった挙げく刃傷沙汰だの刺されてお堀にぶち込まれただのそんなお話を見て来たかのように、いや、彼女の仕事である治安維持組織の長という立場上本当に見たことがあるのだろうことを話した。結びに「種族が違おうが、女の惚れたって感情は抑えられんね。特にこの世界のサキュバスなんか、そういった独占欲強いからね。」と締めた。






 城のそれは簡単に解説するとなんだか和洋折衷様式のわけわからん構造だ。帝冠様式ともいう。そんな中に平然と行く。警備の者もやる気があるんだかないんだか祭りに浮かれているように見える。誰もそれを口にしないが、この祭りはもしかしたら戦争終結までやれないかもしれないという空気は、確かな現象を持って迫っている。鉄鋼の生産は兵器と鉄道に絞られつつあって、日用品に『代用陶器』が出回り始めているのも拍車をかけている。そのような陰鬱とした現実を忘れるためか皆祭りに傾倒しているのだ。この街に多い観光客もそうだ。見るのが最後になるかもしれないから。

 そんなざる警備を抜けてたどりついた謁見の間。その上段にて座っている妙にご機嫌な淫魔の女王、マリア。なんだか先ほどまでだれかと酌み交わしていたような様である。



「客人をお連れしました。」


 ヴィルヘルミーナの呼びかけに応じて、マリアは言う。


「あなた方が、一星さんと、ネクロパさんね。」


 二人が軽く会釈をした。


「マザージュから娘と娘婿をよろしくと言われて、いったいどんな者たちなのだろうと、とても楽しみにしておりました。」


にこやかに爆弾を投入するその様は『偉大過ぎる帝国指導者閣下』と重なっていなくもない。向こうは実弾であるが。


「ヴィル。あなたが案内するんでしょう?」


「その、つもりですが。」


「じゃあ、よろしくね。」

















 祭りの会場外苑。幾らかの屋台が出ている。活況だが、よく見れば戦争の影が見える。屋台のコンロに代用陶器製のものが混じっていたり、いたるところに見る志願兵募集の張り紙に立ち止まる者が居たりと。


「さて、夕食もここで済ませようか。伯爵邸(私の家)で堅苦しい食事よりは、いいだろう?」


そんなことを言いながら、尻尾でネクロパをつつく。特に理由はない。そういうものだ。「淫魔(サキュバス)はきまぐれ尾に用心」と言われるゆえんである。そして、おすすめの屋台に行く前に祭りの必需品である護符を買い与えようと思い、選ばせる。まあ、この街の護符の9割8分は恋愛関係だ。恋多き生き物だから。恋のあまりに親殺しだの子殺しだのも絶えないが。これを祭りのさなかに川に放擲するというイベントがあり、そのためにここで買わねばならない。ヴィルヘルミーナは特大の恋愛成就のを購入していた。二人が選ぶに言葉の違いで困っているのをみて、によと表情が動く。そして、護符の古文字が読めないことをいいことに、夫婦安泰のペアセットを買わせた。なんにせよ金を払うのはヴィルヘルミーナなのだが。


「最後に、今日はここで夕食としよう。鮨だ。」


そう、鮨の屋台である。この街は海ともそう離れておらず、鮮魚が豊富である。よってこのようなものがちょくちょく見受けられるのだ。手軽でしっかりと腹にたまるので働く者の味方と呼ばれているくらいには、一般的なものである。


「ちなみにおすすめはしめ鯖だ。」


そう言って、ぴょいと口に放り込む。ちろちろと動く舌がエロい。指でも絡ませたら大変なことになりそうだろう、きっと気持ちが良すぎて。


「さあ、おごりだ、食え!」


そう言って胸を張る。重たいソレがわずかに遅れて追随し、柔らかさを強調するように揺れた。それに思わず視線が行く一星とため息をつくネクロパ。そうして日は落ちてゆくのだった。

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