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淫魔の巣窟で夏祭り  作者: サモナー系執筆者2名
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出会い

 駅。一星たちは蒸気機関車にひかれた寝台列車から降りた。まだセメントが固まりきっていないのではないかと錯覚するほど真新しいホーム。ここ数週間以内に増設されたと言われた方が納得できるホームだ。観光客も多くホームはごった返している。身動きの仕方を間違えば線路へ真っ逆さまになりかねない。ここは西方帝国のサキュバスの邦、その中心駅。ひっきりなしに出入りする貨物列車。駅員やここで交代する乗務員も皆魅力的なサキュバスだという。麻でできた裏地の無い純白の詰襟の夏装が、彼女らの凛々しさを醸し出す。


 跨線橋も新しいはずなのに煤で既に真っ黒だ。ゆっくり進む列に合わせて進んでゆくしかない。途中で跨線橋の下を貨物列車が走って行った。蒸気機関車独特の油混じりな煤煙が流入し息苦しい。これが渡り切るまでに3度(みたび)もあった。それほどの栄えている駅という事でもあるが、苦しいことこの上ない。ようやくわたり終えて階段を下る。

 別のホーム、ここのホームに隣接する木造の非常に大きい駅舎。大仏殿と言われてすら納得できる大きさだ。3階相当の部屋にはテコ扱い所があってこの駅の信号や転轍器を動作させている。ここから見渡せば機関区も操車場も併設された大駅であることは一目瞭然であろう。そして改札手前、人波のすさまじさは渋谷駅をもほうふつとさせる。まあ、改札が手で行われているからだが。白の詰襟に襟章のない改札手と青い襟章の改札掛には明確に階級差があり、掛の者がそれぞれの状況に合わせてフォローに入るなりしつつ指揮している。

 そんな死闘繰り広げる改札から少し離れたところに一人たたずんでいる女が居た。体を魅せつけるような細身に出来た緑色のスーツにも似た服装をしていて、左肩の肩口から折り返しの下襟に設けられた飾緒止めまで金線でできた飾緒を着けている。左腰には短剣を提げ、右腰には小さめの拳銃を差していた。袖口には派手な金の飾りがついている。上襟は黒に見えるほど濃い濃緑色。下はパンツスタイルというやつだ。それらの装飾はこれらを一つにまとめれば悪趣味に見えてもおかしくない。しかしそれを悪趣味に見せないのはそれを着ている者の見た目と雰囲気があるからだろう。背はすらと高く、そして遠目に見てすら重くずっしりと実ったお胸。そしけむっちしとした太ももから尻に抜ける曲線とそれに付随して時に艶めかしくうねる尻尾。顔立ちは整い過ぎて寧ろ汚してみたくなるような顔だ、ナニで。絹糸ですらその髪よりもなめらかであるまい。纏う空気は、高貴さを感じさせるくせにそれを組み伏せてやったら、いったいどれだけ満たされるかと思わせてやまないものだ。まさに男に抱かれるために存在するような女であった。そんな彼女は一星たちを見つけると、ニヤと笑いながらやってきた。


「やあ、彩橋一星君とネクロパ嬢だね。私がWilhelmina von Passchendaeleだ。君たちならばヴィルと呼ぶことを許そう。私がこのように呼んでいいと認めた相手は少ないんだぞ。」


あまりにもきれいな彼女の話しかけられ、思わず固まる二人。それを意に介さないように続けて言う。


「列車では楽しめたかな?」


先に固まったところから復帰したのはネクロパだった、淫魔(サキュバス)だけに。そうして返す。


「ええ、いい部屋でしたし、食堂も豪華でしたが、」


さえぎるようにヴィルヘルミーナはいう。


「で、サキュバスと健康的な男を同じ個室に入れたらたのしみの種なんかそうないと思うのだけど?」


轟沈、である。ネクロパは沈黙させられてしまった。実際致したかはともかくとして、それを明確に意識させられてしまえばうぶな彼女には効き過ぎるヘヴィーパンチだ。例えるならば8.8cmFlaK36の徹甲弾が命中したM3中戦車の様とも言えようか。諸行無常。

 そして、ヴィルヘルミーナは胸の下で腕を組み―その大きさを強調したようにしか見えない―、言ってのける。


「この街に男性用便所なんてものはないからさっさと済ませとけ、この駅のも共用だが、他のところよりは安全だぞ。」


最強級の淫魔(サキュバス)に話しかけられて強制再起動にいたった一星がようやく返す。その言葉をここで書き記すことは筆者の精神衛生上できない。ある種の期待を込めたその声色に、気が付いたのか気がついていないのか、前かがみになりながら答えた。重たそうな双丘がゆさりと揺れる。ナニかねじ込めばきっと楽園だろう口で「誘っているのかい?」と。思わず「もちろん。」と答えた一星のその瞬間、ネクロパは肘打ちをそのこめかみに叩き込んだ。一星は悲鳴を上げる隙すらなく倒れた。その倒れた鈍い音と共に我に帰ったネクロパは、なぜ自分が肘打ちをしようとの思考に達してそれを実行したのだか理解にいたらずおろおろともあらあらともつかぬあわてっぷりを見せている。思惑通りの動きに心の内でほくそ笑むヴィルヘルミーナ。しかしこのままでは予定に差し障るので、二人を駅から連れて出ることにした。











 駅を出れば辺りはやはり活況にあふれていた。路面電車が砂利を満載にした貨車を引きながらやってきたり、旅館の送迎に使われている牛車が縦横に居たり。多くは外からの観光客であろう者等の行き交う事は絶え間がない。また、店も多い。帝國最高価格統制令の様な戦争の足音が、いよいよ身近に降りかかっていることも、今のこのうちは忘れていようともいうかのような活気である。そしてその売り子は少年がやっているものもある。この街ではそちらの方が受けがいいのだ。まあ、その売り子自体がオプション、なんて例もあるのだが。あたりに(こえ)の絶え間なし。


「さて、蕎麦でも食べようか。私は腹が減っている。」


ヴィルヘルミーナはいちいちその身体を惜しげもなく魅せつけるようにしながら言う。そういう生き物であるのは分かるが、それで連れの視線が誘導されているのを見るのは不快であろう。ネクロパの心労が加速度的に増えてゆく。しかもなぜそのような心労を抱くのだか理解しきっていないからであろう、いかんともしがたいふるまいを見せている。

 そんな思いを無視するかのように蕎麦屋の暖簾をくぐってゆく。だしの香りが腹を刺激し、否が応でも期待が高まるものだ。たとい厳密にはそれを必要としない身でも。『必要としない』と『食べられない』との間は天と地以上に離れた、全く異なったもので、実際ネクロパを敬愛しているものには食道楽を決め込んでいる者がいるくらいだ。ネクロパは一星の隣を選んで座り、わずかに椅子を寄せた。二寸は寄せてないが。一星を挟んで反対側にヴィルヘルミーナは座った。椅子は動かさない。


「高いものを頼んでくれてもいいぞ。私は帝国貴族だからな、いくらおごっても釣りがくる。」


と、言いながら天蕎麦を頼む。一番高いものがそれだ。一星は茶蕎麦(ざる)を、ネクロパはとろろ蕎麦をそれぞれ頼んだ。ウェイターの少年を気に入ったのかヴィルヘルミーナは呼び止めようとして、そしてやめた。今ここでソレをするのは尚早と確信したのだ。ここで性癖を暴露してしまえば、きっと目的の達成は難しくなるだろう。そう、ヴィルヘルミーナは実のところ少年趣味なのである。年端も行かない少年を自分の色で染めるのが楽しくて仕方ない、という染められた方からすれば迷惑極まりない性癖である。

 蕎麦が出そろってそれぞれが蕎麦を口にした時、爆弾を投下するヴィルヘルミーナ。


「やっぱり淫魔(サキュバス)らしいね。そんな【筆者によって特に伏す】じみたものを選ぶなんて。欲求不満?」


盛大にむせるネクロパ。一星もヴィルヘルミーナもそれを見て笑う。二人に抗議する声が響く。

 そのあと、一星におすすめの天ぷらを食べさせようとするヴィルヘルミーナと、それを阻止しようとするネクロパとの熱烈なバトルがみられた。結果として右からヴィルヘルミーナの、左からネクロパのそれぞれ豊満なモノが押し付けられることになった一星。その圧力に耐えられなくなるまで続いたのだった。

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