第八話 イジメ
ボサボサの黒髪で死んだ魚のような目をしている少年━━━━━大神雷は窓際の一番後ろの席でただ静かにクラスの端っこでたむろうクラスメイトを見ていた。目線の先は赤っぽい髪を胸元辺りまで伸ばした少女と、明るい茶色をしたショートカットヘアーの少女へと向いていた。
彼女達ははクラスの影、いや闇とまで言える彼の視線には気づきもしないで男子女子混ぜこぜで傍目からは仲良く会話していた。そんな様子を私も横目で見ていたら、机の上に置いてあった携帯がブーブーと震えだした。朝倉先生から『仕事、受ける気になったか?』との内容で届いた。
「いつの間に私の電話番号を」
とボヤきながら、遅まきながら手口に気づきそのまま、『その件については先生を職権乱用の罪で訴えてから考えます。』と書いて返信した。直後に涙目の顔文字で返信されたが、授業が始まったので返さずにポケットにしまった。
ーー
「━━━━━現状報告をお願いしよう」
「何ノリノリでやってんスか」
放課後に昨日の教室に集合と朝倉先生からメールが届いたが、面倒なので無視して帰ろうとしたら新たなメールが届き『無視して帰る場合、数学の成績を欠点にする』と釘を刺された。もう職権乱用どころか悪用しているのだが、これは校長先生に言えば解決するのだろうか?
「もうこれはPTAに……」
「それはダメ!!それだけはやめて!!私無職になるから!!」
私が最後の手段としてPTAを挙げたら、朝倉先生は土下座に涙目でやめてと迫られた。大の大人にここまでさせるとはPTA恐るべし。
「そ、それで現状は?」
「最悪、ですね」
「私から見てもそう思います」
「ホント何してくれんの、彼女。締め上げて退学にしてやろうか」
「この人に先生をやらせていいの?」
「俺に聞くな。まぁ、面倒見が良いって事だけで見ればいいんじゃねぇの?『だけ』だけど」
「上げて落とすなよ!」
「落としに落とされるよりマシだと思いますけど?」
目尻に涙を溜めて泣き崩れる一歩手前の先生だが、明日になればケロッとした表情でクラスに入って来てホームルームを始めたりする超人だ。寝たら記憶がリセットされるみたいな能力なら人間ドラマがあって面白くなるかもしれないが、この人はただの能天気なおばさんだろう。まぁ何やかんや言っても彼女は師で、私達はその生徒なのだから文句は言えない。
「……最悪っか。例えばどんなのな感じ?便所飯で上からバケツの水かけられるとか?」
「それって本当にあるんですか?」
「ないだろ。それにお前も見てたろ?アレはそれより陰湿なヤツだ。いくら朝倉先生がマゾ性癖でもアレは耐えられないだろうな」
「ちょっと!私そんな性癖の持ち主じゃないからね!?」
慌てて先生は否定するが、もう遅い。大神君がスマホを取り出して彼が昨日撮った写真を見せると、先生の顔は赤と青を行き来しそして真っ白になった。内容は如何わしい物で見せる事はできないが、もし断るならコレを使って断れ、と彼が言うほどの特ダネなのは間違いではない。
「あ、雨宮ぁ……何を見たんだよ」
必死の葛藤の末、同じ女である私に頼ると言う手段に出た先生は涙を流しながら話を進めようとしていた。このまま話を続けても良いのだが、私も聴いてて辛いのでその作戦に乗る事にした。
「昨日の帰り、私と彼は本庄さんと坂口さんの後を尾行しました」
「んで、他の人と別れて彼女ら二人になった瞬間━━━━━化けの皮が外れた」
「普段のクラスでの生活は彼女らの中は良好、いや親密とまで言えるほどです。ですが、彼女達が一対一の状況になると立場は変動します」
彼女の化けの皮が外れた瞬間、別々の方向から監視していた私達はそれぞれで絶句した。周りに顔見知りの人がいなくなった瞬間、本庄さんはカバンを坂口さんに投げ渡した。それだけならまだ可愛いモノで、二人は近くのコンビニに向かいお菓子や、ジュース、プリペイドカードも籠に入れレジへと向かった。普通なら籠に入れた本人である本庄さんが払う物を、レジは丸投げでテクテクとコンビニから出て行った。残された坂口さんは仕方なく財布を取り出し、何千円とする買い物を済ませてから彼女の後ろを追いかけていた。
「小学校とか中学とかじゃ見ない手口だな」
「そらそうでしょうね。そん時は暴力がモノを言いましたが、今じゃ一端の高校生でもそこそこの金は持ってますから」
「言い訳の余地が多過ぎます。これを何とかしないと先生からの注意も逃げられます」
「あぁ。私もそう思っていた。私が彼女達の訳あり関係に気づけたのは、坂口の親御さんからだし……」
「坂口さんのご両親から何を言われたんですか?」
「最近、娘の金の使い方が荒いってさ。バイトをしてるからお金は貯まるんだが、その貯めたお金もすぐ無くなっていくそうだ」
坂口さんが何を思って本庄の奴隷となっているのかはわからない。あと彼女がそうされる理由。学校で仲良くする理由は自分が彼女をイジメているっと言う情報を防ぐ為、同じ学校の人の目を避けるのも同じ理由とすると、彼女ら自身の問題が原因となる。
「まぁ、打つ手はねぇだろうな。今の写真を見せても、どうせそのあと自分で払いましたーとか言ったらその場は凌げる」
「まだ張り込みを続けるって言いたいの?」
私の問いに彼は馬鹿な、と失笑した。その態度がもう勝ちは見えているみたいな態度だったので、痺れを切らした朝倉先生が悔しそうな表情で解答を求めた。
「じゃあ何をするんだ、大神」
「俺にしかできない事、ってことでOK?まぁ心配せずとも明日の放課後には事件は収まってますよ」
彼は悪質な笑みと共に自身の勝利宣言を私達に聞かせた。
とうとう次回で大神君が、本性表します!
さてそれが吉と出るか凶と出るか……。
そんな次回は明後日の夜九時です!お楽しみに!
では、また!