第一話 入学
「んだとコラァッ!!!!」
雀の心地よい鳴き声が響き、桜の花びらがヒラヒラと舞い上がる。優しく暖かい春の風が校舎の中をスーッと流れて行く。だが、その素晴らしい空気をぶち壊しにする出来事が私の目の前で起こっていた。
「だから、邪魔。退いてくんね?」
「テメェ……俺が誰だかわかってんのか、あぁ?」
「知るか。俺はお前みたいな筋肉ダルマ、興味ねぇわ」
ぶち壊しの原因は男子生徒同士の喧嘩。一人は筋肉隆々で赤髪のリーゼントをして、見かけから不良と呼べる青年。もう一人は中肉中背で短くも長くもない黒髪をした少年だ。だがべつにこの喧嘩でどっちが怪我しようが、死のうが私には関係ない。ただ喧嘩をするのなら他所でやって欲しい、と言うのが私の願いだ。なぜなら、彼らが喧嘩している場所は━━━━私の下駄箱の真ん前だから。
「いい根性してやがるな、ガキッ!!」
「あっそ。だるま落とし、されたくなかったらサッサと失せろ」
「この……クソガキがッ!!!」
赤髪の男は黒髪の少年の安い挑発に耐えられず、右手を振り上げる。なんで男という生物は暴力で解決しようとするのだろうか。自分を傷つけたい人の集団なのかな?何にせよ邪魔なんです、あなたたたち。
「━━━喧嘩ってのは、先に手を出した方が強制的に負けなんだぜ?」
黒髪の少年は男の腕を軽く回し、顎にアッパーを、股間に飛び膝蹴りを食らわした。多分、本人的には昇○拳なのだろう。倒れる男を上から嘲笑しながら覗いている。男の方は言うまでもない。非常に痛そうだ、主に股間が。
「コラァ!!!誰だ乱闘を起こしてる奴は!!」
「……ゲ、先公だ」
先公と言われたものが走って近づいてくると、見物客は蜘蛛の子のように散って行った。私もそれに乗じて逃げようかと思ったのだが、靴を取り替えていなかったので上履きを取ろうとした時、先生に捕まった。
ーー
今日は入学式。私は今日から櫻東高校に入学する。そんな記念すべき日に、私は勘違いで生徒指導を受ける羽目になった。入学したその日に指導を受けるのは私と黒髪の少年が学校が成立してから初らしい。何も嬉しくない勲章だ。
「つまり、天宮は何もしてないのだな?」
「はい。私は上履きを取ろうとしただけです」
ガヤガヤと騒がしい職員室で私、天宮燈は黒髪の少年と一緒に担任の朝倉先生から指導を受けている。何も言わず、事実を述べたら先生はアッサリと納得し私への話は終了した。このままだと、もう数分で帰らせて貰えそうだ。
「それで?大神は?」
「……zzZZ……」
スーッスーッっと気持ち良さそうな吐息が聞こえると思えば、もう一人の大神と呼ばれた少年は立ちながら寝ていた。もう一度言っておく、今は指導を受けている最中だ。
「おーい!起きろー!大神ー!」
「……起きてますよ。続けて下さい」
「どこがだ!!」
朝倉先生のツッコミで他の先生からの視線がこちらに向く。向こうで怒られている赤髪の少年ですら真面目に話を聞いていると言うのに、こちらの一年生は完全に先生を舐め腐っている。
「あー、別に俺は正当防衛なんで。非があるのは向こうですから」
「君の正当防衛は認めよう。だが、少しやり過ぎなのではないか?アレだと過剰防衛になるぞ?」
私はチラッと赤髪の少年を見やる。彼は三年生らしく、職員室の奥の方で怒られていた。そんな彼の顎には青く痣ができており、下半身は常時片手で抑えている。私にはよくわからないが、相当痛かったのだろう。
「大丈夫そうですね。それに、俺はただ邪魔だって言っただけなんで」
「ハァ……まぁ入学初日と言う訳だから今回は不問とする。以後気をつけるように」
「覚えていたら気をつけます!それでは」
彼は一礼し、ポケットの中に手を入れながら私と先生の前から去って行った。私も同じように先生に一礼し、回れ右して去ろうとした時、後ろから声がした。
「これからよろしく」
それに答えることなく私は半迷路となりうる職員室を抜けて、廊下へと出て行った。
ーー
教室に戻ると、同じクラスの人が雑談を交わしていた。クラスでは電話番号の交換や、どこの中学校だったかなどと中良さげな会話をしていたり、集団によれば既にカースト制度が誕生していた。そんな中、若い女の先生が教室の中に入って来た。私は、いや私と彼は彼女の事を知っている。なぜなら先程まで彼女から指導を受けていたから。
「まずは入学おめでとう。これからの学校生活を大いに楽しんでくれ!あぁ、自己紹介をしよう。私は朝倉 愛可。このCクラスの担任だ。何か困ったことがあればいつでも聞いてくれ」
そうハキハキと彼女は喋り、クラスの中にある緊張を程よく緩めた。皆がそれに合わせて話し始め、少しずつだが騒がしくなる。が、朝倉先生はそれをいとも簡単に一言で止めた。
「君達に一つ知らせがある。明日は休みだが、明後日から交流関係を深めるべく一泊二日の宿泊行事がある。準備物等の内容は以前に配った書類の中に入っているので、それを参考にする事。さて、今日はここまでだ。解散!」
彼女の号令とともに散り散りに解散し始め、私もその流れに乗って教室を出た。カバンを肩に掛け、私は足早に廊下を通って階段を降り始めた。
この日、これからが、私の異常なる高校生活が始まる。しかし、今はまだ知らない物語。
はい!どうも!■です!
結局彼は孤高に立つを連載していきます!
投稿日は交互なので、次回は明後日となりますのでご了承下さい。