七つの紗の踊り
※オペラの和訳をちょっと変えて持ってきた。著作権は切れている…筈。
『さて、褒美を頂く時間だ。お前は俺の前に全てを表すのだな』
一人の男の首を落として、この国の全てと後宮の女達、それと私の全てを手にした将軍は、歓喜を口にしました。
『ええ。誓約ですもの』
私は、男装のまま、宴席の真ん中に立ちました。
この舞いには、楽など必要としません。
ただ、舞い手の肢体が美しくあればよいのです。
先ず、兜が。今は無い自慢の輝く髪が、闇に彩りを添えました。
次に、甲冑が。軍装が解かれ、ただ軽装の男衣を着た女が踊ります。
続いて、帯が。衣の下の女の肌が、見え隠れし始めました。
それから、衣が。肌着からはくっきりと、身体の線が見えます。
そして、肌着。灯火に肌は照らされ、いよいよ男の欲望を駆り立てます。
遂には、晒し。衰えと言う言葉を忘れた様な白い乳房が暗黒に映えます。
終には、刺繍の靴。その素足は、丞相殿の血をふんだんに吸った床を踏みしだきました。
舞いが終わると、将軍は満足げに『まだ褒美は貰い足りてないぞ』と、一糸纏わぬ私を手招きしました。
『いや、私はもっとこの首と戯れたい』
そういって、端に転がしておいた首を拾い上げました。
その瞼は未だ開いていましたが、瞳はもう薄くなり始めていました。
『諸葛元遜、何故お前は最期まで私の顔を見てくれなんだ。この国の全てを見渡し、江の向こうを睨み続けたお前の瞳は、もう濁り出しているのだね。お前の瞳を澄ませよ。元遜。なぜ私の顔を見ないようとしないの』
何かを呟きながら息絶えたその紅い唇からは、尚も紅い舌が僅かに見えました。
『お前の赤い舌はもう動かないのだね。もう何も吐き出さないのだね。元遜。あれほどにあらゆる者に毒を吐き掛け、誑かした、猩々緋の蛇が、動かなくなったのだね。なぜまあ、赤い蛇が 動かなくなったの』
もう二度とその唇からは、いかなる素晴らしき論も、いと高き声も聴くことはないでしょう。
『さあ、御覧。私はまだ生きている。そしてお前は死んでいる。お前の首は私のものだ。 犬に投げてやる事も、 虚空を飛んでいる鳥の嘴に啄せる事も出来る。 犬が食べ残したら虚空の鳥が喰べるだろう』
全く、悪賢く見えてその実自らの事など考えておいではない男でした。
『おう。傲慢なる諸葛元遜。なぜお前は私の顔を見ようとしなかったの。ようもお前は、自らが見るべきもの以外を見ぬ為にお前の目を隠したね。元遜。成程お前は、この国の先を見ていただろう。それで私を、私をちっとも見なかったのね。もし私を見たなら、どうなっていただろうね』
私が更にその首に顔を近付けようとした、その時。
『其処までにしてくれ!!もうじきその首も腐り出す。それより褒美だ』
将軍が、待ちくたびれた、早くその首から離れろと叫んだので、私は首の両瞼を閉じ、その髪を解いて耳を覆い隠し、玉座から背けさせました。
『幼帝に人殺しを見せるのはOKで、ストリップはNG』って、お前らグリム童話かよ。
目的果たして掃除してはい宴会再開、いいのか。
七つのヴェールの踊り、最近はストリップと解釈されることが多いですが、さて。
この時代はまだ纏足はありませんが、足は最後に持ってきました。
この血宴は旧暦10月の話ですから、こんな早くに角膜は白濁しないと思う。