国を分けて
十年程、形だけの平穏が続いた後に、それは崩れました。
兄が、突然消えてしまったのですよ。
公にはふとした病で斃れた、となっていますが真相はどんなものでしょう。
しかし、兄が消えたら消えたで新しい太子が問題でした。
兄は結局最後まで父から完全に愛されはしなかったようで、父に愛されていた、また自らと仲の良かった弟を太子にするように遺言の中で薦め、事実その男が新しく東宮に入ったのです。
その弟は、私にとって最も太子に好ましくない男でもありました。
弟の母は、後宮にいたれっきとした人間の女でしたが、嫉妬深い女でもあり、男子を産んだ他の女達を後宮から追い出したり、時には直接害したりもしていました。
これだけ生きていても女が女に嫉妬するというのは、私は未だに理解が出来ないのです。
その流れの中で、『男子、それも太子を産んだ私の方が偉い』とばかりに、未だ空位であった皇后の座を望んだのです。
彼女が皇后になってしまったら、父の後宮はどうなってしまうのでしょうか。
あの女から産まれた弟は、母の傀儡となって国を乱すでしょう。
私は夫に働きかけ、より父に愛されていた、彼ではない弟を支援するように言いました。
夫は、前妻との次子を太子のすぐ下の弟に近付け、その幕僚としました。
やがて、弟は太子と同等の宮を与えられ、東宮が二つあるような不思議な宮中となったのです。
『いずれ東宮は遷る』と臣民共に噂を始めました。
弟もその気になって東宮を狙い始め、太子も兄より引き継いだような幕僚に助けを求めました。
とうとう父の臣下は後宮と共に二つに割れ、終わりの見えぬ泥争いを始めたのです。
太子の母は『早く父には死んで貰って、子が玉座に付く日を待ち望んでいるという』私の讒言によって皇后の目が消え、狂い死にしました。
宮中で幾人の臣が死んだでしょう、私も正確には覚えておりません。
「驚いた。あなたにその様な過去があったとは。それとも、失礼だが父君は老耄したのか」
世の人は、貴方の様に父の事を『英明なれども晩年に耄碌した』『死ぬのが遅すぎた』等と評します。
されど、父は決して私一人の言葉によって踊らされる程衰えてはおりませんでした。
老いたる父にも思惑は御座いました。
賭けに出て、負けたまでです。
結局太子を廃し、もう一つの東宮の主も自害を命じられて、十にもならぬ末の弟を太子に立てる事で決着しました。
私としては、太子が他に代わってくれればそれで十分でした。
尚も太子に縋り付いた名族が、一人殺されました。
妹の夫でした。
私は妹に恨まれる身となり、それ以後私に血を分け合った姉妹はいないも同然です。
東宮の主となった末の弟は、何処か兄に似た面立ちでした。
その貌には兄の様な不気味さはなく、愛らしさと賢さを兼ね備えた幼子でした。
或いはその母がまともな人の女であったなら、私も兄を慕えたのでしょうか。
それでも尚、廃された太子を戻そうと闇で蠢く男もいました。
自分は廃された太子を護る振りをしつつ、長子を『もう一人の太子』の元へ送り込み、共倒れが見えるや否や、我が子に毒杯を飲ませた奸智極まる男です。
魯班は、絶対太子のまま死んだ孫登が嫌いだったと思う。
二宮の変、彼方此方のサイトで考察が進んでいるのですが、読めば読むほど頭がこんがらがる。
孫権は割と最後まで自分の頭で考えていた(豪族勢力を抑え込もうとしたら、国がグズグズになった)と信じたい派。
孫亮は、孫登そっくりの顔立ち…はウチの設定。