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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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かつてあった未来⑧


『……とはいえ、だ』



 運命剣は言いました。



『諸君らも知っての通り、彼女達は強い子だからね。強くて、そして優しい子達だ』



 スクリーン上の映像も残り僅か。

 絶望と混乱に終わった「今日」は終わり、長くこの世界を守り続けた女神が消え去り……しかし、それでも明日は来るのです。



『十分な引き継ぎがされていたとはとても言い難いけど、彼女達は新しい神様として上手くやっていたとも。災害や疫病から人々を守り、世界の脅威になるような外敵を打倒し、最初のうちは失敗もそれなりにあったにせよ慣れない神様業をあれこれ試行錯誤していたものさ』



 突然、神が失われた世界の混乱とは如何ほどのものがあったのか。

 ましてや同時に異世界との交流まで開始されているわけで。

 完成した神にとっても、決してラクな道程ではなかったはずです。



『泣きながら、傷ついたまま、ね。彼女達も人前では努めて明るく振る舞おうと気丈にしてはいたけれど、そんな無理がずっと続くはずがない』



 こちらの今日では女神の存在が消えたわけではありませんが、この歴史とは異なる歴史における自分達の気持ちを想像してしまったのでしょう。迷宮達も画面を見ながらぽろぽろと涙を零していました。


 ウルも、ゴゴも、ヒナも、モモも、ネムも、ヨミも。

 アイに関しては姉達の雰囲気に釣られただけかもしれませんが。



『私や仲間の皆もなるべく励まそうとしたり、あとは神様を復活させる手がないか思いつく限りの手を試してみたりね』



 真っ先に思いついて駄目だったのが、神子の肉体に対する『復元』の使用。

 ですが、依代の肉体をどうしようと別の中身が湧いて出てくるはずもなし。

 『強弱』の補助込みでも単に神子が赤ん坊に戻るだけでしかありませんでした。


 それ以外だと世界各地に残存する『神の残骸』の収集と干渉。

 元々は女神の肉体だったモノに対し、例の如く『復元』を使ったり『奇跡』で精神面が芽生えないか試してみるも、これも失敗。以前に学都を壊滅寸前にまで追い込んだのと同じ、まともな思考力のない怪物にしかなりませんでした。


 あとは、本日は欠席している魔王およびその一家に頼るも成果なし。

 絶大な戦闘力を始め様々な超常的能力を有する彼ら彼女らとはいえ、決して真の全能というわけではないのです。新たな家族が増えた喜びに、大きく水を差す結果になってしまいました。


 変わったところだと、迷宮達が記録していた女神のデータを持ち寄って、本物に限りなく近い言動を取るであろう疑似人格を電子的なAIとして生み出そうとするアイデアも。そもそも復活ではありませんし、これについては完成前の早い段階で計画中止になりましたが。



『まあ失敗ばかりとはいえ一所懸命に手足を動かしてれば気は紛れるし、あとは時間が悲しみを癒してくれたって面もあったんだろうね。何年も経つ頃には多少は立ち直って、自然な笑みを見せてくれるようになってきたさ』



 深く傷つき、悲しみに暮れながらも、人々を慮れる強さがある。

 トラウマを克服し、より良い未来へと歩んで行ける。

 それ自体は素晴らしいことなのでしょう。

 まさに旧き神に代わる新しい神々として相応しい。


 しかし、それでも。



『たまにね、泣いてるんだよ。静かに声を押し殺して。他の誰かの前だと平気な風に振る舞ってても、ふと気が抜けた瞬間とかに思い出しちゃうんだろうね』



 傷が完全に癒えることはない。

 心に刺さった針は決して抜けない。

 何十年も、何百年も、あるいはもっと。



『おっと、映像のほうはもうそろそろ終わりかな? まあ見ての通りなんだけど、ざっくり要約すると新しい神様達は悲しい思い出をたくましく乗り越えて役目を果たし、平和な世界を創り上げましたとさ。めでたしめでたし……では、気が済まなかった奴がいるわけだ』



 結果的に良い世の中になったのだから、それでいいじゃないか。

 そんな風に考えて呑み込むのが賢い態度なのかもしれません。


 ですが、誰もが賢くなれるわけではない。

 そんな賢さなんて欲しくない。

 もっと愚かな自分でありたい。



『まあ、その一人が私なんだけど、これについては決して数少ない変わり者ってわけじゃあない。未来にはそんな愚か者が結構な数いたんだよ、マジでマジで。これについてはウル君達の頑張りのおかげだろうね。人徳ならぬ神徳かな? 神様のお世話になる一方じゃなくて、彼女達のために何かをしたいって考える人がどんどん増えてきたんだ』



 もしかしたら、こうすることで折角の平和が失われてしまうかもしれない。

 自分達の望みと引き換えに別の誰かを不幸にしてしまいかねない、言い訳のしようもない『悪』なのかもしれない……けれど、それでも。


 悪で、愚かで、そして何より諦めが悪い。

 そんなどうしようもない人間だからこそ、神ですら届かない『奇跡』に至る。



『そりゃまあ、神様にだって何かしらの考えはあったんだろう。それこそ自分が犠牲にならないと世界がヤバくなっちゃう的な? いや、何も言わずに消えちゃったわけだし動機とか目的については結局知らないままなんだけどさ。でも、そういう細かいアレコレは一旦置いといて言わせてもらおう』



 ここで長かったドキュメンタリー映像も終わり。

 運命剣は、レンリは神子の中で聞いているはずの女神に向けて言いました。



『……よくも、私の友達を泣かせたな?』



 長い永い時を経て。

 かつてないほどの怒りを込めて。


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