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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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かつてあった未来⑥


 聖杖『アカデミア』の隠された機能。

 すなわち、これまで別次元に存在した神造迷宮をこの世界と融合させ、迷宮達を本来司るべき世界と合一させた真なる神へと昇華させること。なるほど、それは確かに大したモノなのでしょう。



「ふむふむ、神様としての完成ね。それで完成することの具体的なメリットは?」


『そうですねぇ。色々ありますけど、例えば……』



 制作者である女神曰く、神としての完成に伴うメリットは大まかに以下の通り。


①パワーやスピード等、基礎スペックの底上げ。

 これについては今の迷宮達は元々全盛期の女神を大幅に上回るほど成長していたわけですが、まあ、あって損をするものではないでしょう。「完成」とまで言う割に地味なのは否めませんが。


②世界に対する知覚力の増大。

 なにしろ世界そのものと一体化したわけですから、この惑星はもはや彼女達の肉体も同然。各々の得意分野に応じて保有する権限や感度はやや異なりますが、一例としてヒナの場合などは学都にいながらにして、惑星の反対側の海流を感じ取って操作するようなこともできるでしょう。これからはどんなに海が大荒れでも、商船や漁船が行き交う航路だけは常に平穏無事な航行ができるようにするのも簡単です。


③世界そのものの強化。

 迷宮達やシモンやライムは今や昭和のギャグ漫画のように地面を殴って惑星を砕くことすらできるようになったのですが、(元々やる気はないにせよ)これからは少なくともこの世界でそれをやるのは難しい。というのも、ただでさえ頑丈な神造迷宮が複合的かつ相乗的に世界の強度を増しているわけです。

 仮にどこかの異世界から世界を侵略したり破壊したりする系のワルモノが来たとしても、有効な打撃を加えるのは難しいはずです。なんでもかんでも無闇に頑丈にしすぎて、地面がカチコチになって畑を耕せなくなったり鉱山で採掘ができなくなっても困るので、実際の塩梅については現実的な社会の在り方と適度な折り合いの付け方を探る形になるでしょうか。



『分かりやすいところだと、ざっとこんなところですかね。ああ、そうそう。これまでは余所の世界との間に無用の軋轢を生まないように制限(ロック)をかけてましたけど、今後は地球や他の世界に自身の領域を広げるのも自由ですので。徒に揉めるのがよろしくないのは変わりませんし、実際やる時はちゃんと現地の方の許可を取るなどして慎重に考えながらお願いしますね』


『『『はーい』』』



 迷宮一同からも良いお返事が。

 ですが、それで済むならそもそもこんな解説パートは必要ありません。


 迷宮達を真なる神にする。

 これについては特に問題ないでしょう。


 ですが、それですんなりコトが終わっていたのなら、そもそも運命剣がこの歴史に飛んできたはずがないのです。もう一つの「今日」で、女神が何かしら余計な真似をしたからこその奇怪極まる現状。スクリーン上のシークバーからしても残り時間は少なさそうですし、件のやらかしまではもう間もないはず。



「おや?」



 画面上の光エフェクトを見る限り、迷宮達をこの世界に染み込ませて馴染ませる工程までは無事完了した模様。ですが、その後でまた今度は女神役の役者が再度ピカピカと光りだしたではありませんか。



『わたくしが言うのもなんですが、こうして客観的に見ると盛り上げようとする際の手癖とでも言うんでしょうかね? 光らせる手法にばっかり頼りきりで、いささかワンパターンな感じがありますね。いや、本当にわたくしが言うのもなんですが』


「うん、それはそうなんだけど神様もだいぶ開き直ってきたね。で、今度のピカピカこそが今回の要点と見たがどうだろう?」


『ええ、レンリさん大正解です。わたくしがやろうとしているロクでもない真似というのがですね……ああ、ちょうどわたくし役の方がセリフで説明してくれるようですよ』



 あまりにもワケの分からない状況で程よく頭がおかしくなってきたせいでしょうか。こちらの世界のまだ何もやっていない女神も、次第に開き直ってヤケクソじみた言動を取るようになってきました。


 さて、運命剣が器用に声真似をしながら声を当てている女神役のセリフに注目してみますと――――。



 ◆



『これでこの世界には新たな神が誕生しました』


『これからは彼女達がわたくしに代わり、この世界を守り続けていくことでしょう』


『役目を終えた旧き神の出番はこれでおしまい』


『最後に、そして最期に、愛すべき我が子らに更なる祝福を』



 ◆



 細かい部分は端折りましたが、大筋としてはこんな具合。

 単なる後任への引き継ぎにしては妙に物騒な言い回しです。


 画面内の迷宮役の面々も見事な名演で戸惑う様子を見せています。

 迷宮役の少女達は顔色を変えて女神役の女優に真意を問い質そうとするも、ある瞬間を境にピタっとその動きを止めてしまいました。驚愕の表情からするに本人達の意思ではなく、身体や口の動きだけを無理矢理止められてしまったような具合です。



「あー、これって……前の破壊神の時にも軽くその可能性を考えたことがあったけどさ、もしかして任意のタイミングで彼女達を機能停止に追い込めるような仕掛けがあったり? 裏コマンド的な?」


『実は、その、はい。まさにその通りだったりしまして』


「もし私が同じように創れるなら安全装置として絶対同じようなの仕込むけどさぁ。画面の中のお芝居とはいえ、このタイミングでのこの使い方は流石にナシじゃない? 目の前で何もできずに親の公開自殺を見せつけられるとか、どう考えてもトラウマ物でしょ。おふざけでシリアスを中和するのも流石に厳しそうなんだけど。人の心はないのかい?」


『こうやって客観視してみたことで、実は今まさに重めの罪悪感に打ちのめされておりますので。人の心はないですが……設計段階ではこの子達への情が湧くことまで計算に入れてなかったですし。ははぁ、こうしてみるとゴゴがユーシャさんを創って以降のアレコレはわたくしに似たのかもしれませんね。これについては狙ってそうしたワケじゃないんですけど、無意識下にでも思考の傾向が受け継がれたというか』


『ええと、その説はどうもご迷惑をおかけしました……』



 女神への責任追及からゴゴの過去のやらかし案件にまで飛び火したのはさておいて、実際起こっていること自体は冗談で流せそうもありません。


 画面内の女神役は、倒れて動きを止めた迷宮達の前で限界を越えて何らかの『奇跡』を行使している様子。先程のセリフから判ずるに、真なる神と化した迷宮達の更なるダメ押しの強化や世の平穏を願うものでしょうか。


 また同じく『奇跡』の力で目の前の人間達が邪魔をできないよう抑えつけてもいるようです。女神が溜め込んでいた全神力のみならず、存在そのものが消滅する前提での限界超過。これほどの大奇跡によって動きを止められてしまっては、流石のシモンやライムも咄嗟に動くのは難しいのでしょう。


 そもそも始まって早々に妙ちくりんな方向に脱線した今日と違い、まともに式典をやっていた「今日」においては完全なる不意討ちだったのです。事態の把握も気持ちの切り替えも間に合わず、誰も彼も戸惑うばかり。即座の対応など望むべくもありません。


 そのまま誰も動けず何もできず。

 皆が無力感に打ちひしがれている気を知ってか知らずか。



 ◆



『ごめんなさい。ありがとう。さようなら』



 ◆



 遺言にしても簡素に過ぎるその言葉を最後に、スクリーン上のもう一つの「今日」の女神は、見事に死に逃げを達成してしまったのでありました。


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