かつてあった未来③
ユーシャの勇者としてのお披露目。スクリーンの中の「今日」で行われているソレは、例えるなら騎士の叙任式のようなものでした。
「何やら懐かしいな。俺も父上からあのように剣を渡されたものだ」
とは、現役の騎士団長であるシモンの言。まだ彼の兄が即位する前、先王である父親の前で正式な騎士としての叙任を受けた時のことを思い出したのでしょう。
叙任式と一口にいっても作法やルールは国や時代によって様々ですが、現在上映されているユーシャの場合は、聖剣の形に変じたゴゴを女神が持ち、片膝をついて跪いたユーシャの肩を剣の腹で軽く叩くといったものです。
『初代や二代目のリサさんの時はこんなのやりませんでしたし、大勢の前でやるに当たってそれっぽい風にしてるだけですけどね。叙任の作法とかも単にそれっぽいというだけのアドリブですし。わたくしが言うのもなんですが』
「そうなのか? まあ、なんかカッコいいからわたしも早くやりたいぞ!」
女神自身も言ったように、本来、勇者を任命する際の儀式などありません。
二代目以前に関しては、召喚を試みて誰か出てきたらそれで完了のお手軽スタイル。今回は大勢の前でユーシャに箔を付けるために、単にそれっぽく見えるだけの儀式をやっているだけです。
正確には、こちらの今日では式典が中止になったので、もう一つの「今日」ではこのような任命式をやったということなのでしょう。ドキュメンタリーとして再現するにあたり、多少の脚色や想像も入っているかもしれませんが。
ともあれ、画面内の任命式は次の段階へ。
肩を叩かれたユーシャ役の役者は女神役の同上から渡された聖剣を両手で受け取ると、ゆっくりと立ち上がってから招待客のほうへと向き直り、高々と剣を掲げました。続いて分かりやすい変化が一つ。
「おお、わたしが早着替えをしたな?」
『着替えというか、我の能力の応用で元の服の上に全身鎧を被せた格好ですね。このドキュメンタリーに関しては、編集でそのあたり上手く演出しているようですが』
これならば聖剣の使い手であると衆目に示すには十分でしょう。
かつてのリサもそうでしたが、勇者が身につけている鎧や兜は自在に姿を変えることのできる聖剣の一形態。聖剣と同等の硬度・強度があるので並大抵の魔物の攻撃では傷一つ付かないほど頑丈ですし、万が一損傷しても一瞬で修復可能。
そして特に大事な点として、聖剣の浄化作用で匂いの元になる雑菌が自動的に消毒されるので、長時間着ていても痒くなったり臭くなったりしにくいという大きなメリットがあるのです。ユーシャは性格的にそのあたり無頓着なのですが、旅先で何日も入浴できない日が続くのが珍しくなかった当時現役JK勇者だったリサにとっては防御力以上に重要なポイントでした。
まあ毎度おなじみ便利グッズの紹介はさておいて、スクリーン上の勇者役は何やら古めかしい言葉遣いで格好よさげな口上を述べていました。
「今日」の本物のユーシャ本人が本当にこんな風に言ったのかについては多少の疑問もありますが、内容を要約すると「神々への忠誠を誓うこと」「この世界の勇者として平和を守るべく尽力すること」「特定個人や団体に与したり、私利私欲のために勇者の力を振るわないこと」等々の誓約が主となります。
「なるほど、あんな風に言えばいいんだな。お手本も見れたことだし、後でこっちのわたしがやる時はバッチリ任せてくれ!」
『後で……やるタイミングありますかね? いえ、我としてもそれが出来るに越したことはないですけど』
果たして、ここからの軌道修正が叶うかどうか。
ゴゴの疑問も尤もですが、絶対にチャンスがないとも言い切れません。
こうしてドキュメンタリーの勇者パートも一段落し、次はいよいよお待ちかね。
日本に通じる穴を空間に開け、その上で地球各国との正式な国交の樹立および、平和条約の締結等のコーナーへと移ります。ここまでは地味なリアクション要員でしかなかった各国からお越しのゲスト達および地球から来た外交官達にとってはようやくの、なおかつ唯一と言っていい出番らしい出番です。
もちろん、今回それをやるのはスクリーン上の役者なので、結局今ここにいる彼ら彼女らは大人しく見ているしかないわけですが。
元々、本来の式典で予定されていた大きな予定は「神々のお披露目」「新勇者のお披露目」「異世界との交流開始」の三つ。「今日」の女神が何かやらかしたとすれば、それについても間近のはずです。




