かつてあった未来②
『この世界は、本日をもって新たなる形へと生まれ変わります。七柱の神々が統べる理想の世界へと。もっとも、真なる理想郷の完成にはまだまだ時間を要するでしょうが、今日はその記念すべき第一歩といったところでしょうか』
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これは画面内で女神役の女優が口にした言葉。
そして、このあたりまでは先程自分達が実際に聞いたセリフでもありました。
「こっちの立場からだと駄目出しをすべきか迷うんだけどさ、ここは嘘でも八柱って言っておいたほうが無駄に違和感を持たれなくて良かったんじゃないの? ねえ、神様?」
『わたくしはどういう立場から答えるべきなんでしょうね、コレ? ですが、ええ、たしかに油断や気の緩みがあったのは否めないと申しますか……』
これについては式典が中断される前から、レンリだけでなく少なくない招待客が違和感を抱いていた部分でしょう。そう難しい話ではなく、単純な足し算のお話です。
女神プラス幼女神が七柱なら、その答えは八柱であるはず。
単なる言葉の綾であるとか、あるいは神としての実務をほぼほぼ後任の迷宮達に丸投げして女神自身は楽隠居を決め込むつもりなのだろうとか、さっき聞いた時にはそういった風に違和感の答えを想像していたわけですが、どうやら実際にはそのように平和的な回答ではなかったようです。
女神プラス七柱の神々で八柱。
そこから女神が自害することでマイナス一。自害の理由や手段については未だ不明ながらも、残念ながら女神の計算間違いではなかったのでしょう。
ともあれ、今日と「今日」が同じだったのはここまで。
ここから先は、この場の誰も見ることが叶わなかったシーンへと進みます。
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第一迷宮『樹界庭園』のウル。
第二迷宮『金剛星殻』のゴゴ。
第三迷宮『天穹海』のヒナ。
第四迷宮『洞窟大王』のモモ。
第五迷宮『日輪遊園』のネム。
第六迷宮『奈落城』のヨミ。
第七迷宮『愛ノ宮』のアイ。
画面内では女神役の役者が次代の神々たる面々を聴衆に紹介しています。
ここに集まった面々の多くにとっては既知の情報ではありますが、神造迷宮が実は神を造るための迷宮だったという点も合わせて基本的なおさらいを。
ちなみにやや今更感はありますが、上映時のセリフに関してはご丁寧なことに字幕表示付き。更には映写機をやっている運命剣がスピーカーも兼任しており、器用に各人物の声を当てつつ関係ないお喋りまでしていました。相変わらず無闇に芸達者かつ多機能です。
「おっ、ウル君……じゃなかった。ウル君役の子が自己紹介を終えたタイミングで、演壇の周りが一瞬で花畑に。あれは?」
『ああ、画面内の効果自体は合成と編集によるものだけど、これはこっちのウル君が実際こんな感じのアドリブをやってたからね』
『うん、我も何もなければ小粋なサプライズのつもりでこんな感じのことをやる気ではあったの。その流れで、なんとなく後の子も一発芸を披露することになっちゃったけど』
レンリの疑問には運命剣とウルがダブルで答えました。
実際、彼女達が神に相応しい能力を持っていると示すデモンストレーションとしては悪くなかったかもしれません。予定にないウルの行動に慌てる関係者や、急遽、何かしら似たようなアピールをしないといけなくなった下の妹達は大変だったでしょうが。
画面内ではゴゴ役の子が地面から剣や宝石を湧き出させたり、ヒナ役の子がシャボン玉のような水の球を浮かべて思い通りに飛ばしたり、モモ役の子が長い髪の毛を手のように操ってゴゴが生やした剣でジャグリングをしたり、ネム役の子が来場者の身体の不調を治していたり、ヨミ役の子が不可視の幽霊を見えるようにして死因あるあるトークで場を繋いだり、アイ役の赤ちゃんが元気なハイハイを披露したりしていました。
何かしら物体を生成したりするのが得意な上三人はまだ良かったものの、下四名に関してはイマイチ映像映えしないというか無理矢理感があったのも否めませんが。
『こう言ったら不謹慎だけど、あんな風に順番に一発芸をやる流れにならなかったのだけは良かったかも。ちょっとだけ安心しちゃったわ……』
『ヒナはまだいいのです。モモなんてジャグリングですよ!? まあ確かに「強弱」って見栄え的にあんまり面白味がないのは分かるんですけど』
『根本。原因。そもそも順番に一発芸をやる流れを作ったウルお姉ちゃんの責任を追及すべきでは? と、我は言っておきたいね』
式典がブチ壊しになっていなくとも、それはそれで大変な目には遭っていたらしいと分かりヒナやモモやヨミはご立腹。画面内の子役は堂々としたものですが、演技ではなく実際にぶっつけ本番の無茶振りをされるのを想像したら堪ったものではありません。
『で、でも結局やらなかったわけだし……? 我としては無罪を主張するの!』
『ふふふ、残念ですが被告の要求を却下します。姉さんは反省して今後は勝手なアドリブを控えるようお願いしますね』
ウルは無実を主張するも、ゴゴからの判決は有罪。
まあ、だから何だというわけではないのですが。
「おお、次はわたしの出番みたいだな!」
そんな視聴者の思惑とは無関係に、画面内の式典は更に次のシーンへと。
三代目勇者たるユーシャのお披露目へと進みました。




