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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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理想郷から来た復讐者


 女神が何をしたのか。

 これから何をしようと考えているのか。

 どうやら話の核心はその部分にあるようです。



『一応言っておくけど、私だって別に神様が悪意やふざけ半分であんな真似をしたとは思っていないよ。その程度の信頼はあるさ。お得意の予知能力でも何でも駆使して、少なくとも見える範囲で上手くいっていることくらいは念入りに確認したんだろうさ』


『ええ、それは、はい。でもですね、ええと……剣のレンリさん? その言い方から察するに、わたくしの未来視が届かないくらいの遠未来では、それが良くない結果に繋がってしまったと?』


『ああ、まったく酷いものさ。ずいぶんと早まった真似をしたものだよ』


『そ、そんな……じゃあ、わたくしは何のために……』



 運命剣と女神の間では何かしらショッキングなやり取りが為されている様子ですが、二人とも明らかに意図して肝心の部分をボカしながら話しているせいで、聞いている皆には具体的なところがサッパリ分かりません。



『話せる範囲で例を挙げていくとだね……世界は荒廃の危機にあった! 加速度的に増大し続ける私の食欲は留まるところを知らず、大地という大地を喰らい付くし、海という海を飲み干し、とうとうこの星には人の住める場所はごく僅かに――』


『いやいやいや、それってわたくしではなく全面的にレンリさんのせいでは?』


『こらこら、その前に突っ込む部分があっただろう。いくら私でもそこまで食い意地が張ってはないよ。だって食べても美味しくなさそうだし。ていうか、流石にこれは普通に嘘なんだけど』


『未来人が平然と嘘バレをしないで下さいよ。こっちは確認のしようがないんだから一瞬信じちゃったじゃないですか。ネタバレへの配慮の方向が間違ってますって』


『いや、荒唐無稽な嘘バレにも一応意味がないわけではないんだよ? ふふふ、未来のお偉いさん共め。こうして根も葉もないデタラメを喋る分には禁則事項のセーフティには引っ掛からないようだ。この調子で私に知らされてない条件をどんどん割り出して抜け穴を探してやろう』


『自分自身へのハッキングも結構ですけど、できれば後回しにしていただけないでしょうか……今、結構シリアスめの話の途中だったと思うんですよ』



 いったい誰と戦っているのやら。この調子だと運命剣が自力で自身にかけられている禁足事項のロックを解除して、好き勝手に時空を改竄しかねません。



『やれやれ、仕方がないなぁ。じゃあ、言える範囲で本当のネタバレに触れるけど……そうだ、もしいたらだけど聞きたくない人は耳を塞ぐなり、場所を移すなりして自衛してくれたまえ。誰もいない? それじゃ続きね。未来の神々は、ああ、ウル君達ね。彼女達はそれなりに上手くやっていたよ』


『うーん、さっきから話の方向がブレすぎてて素直に信じにくいけど……まあ当然ね! 我のことだから、きっとすごく立派な神様になってるに違いないの』



 自分の名前が出たからかウルが反応しました。



『うん、立派立派。そうそう人間と比べたら成長はゆっくり目だったけど、キミ達も将来的にはちゃんと大人の美人さん……美神さんかな? まあ、なんにせよに立派な大人の神様になるから安心してね』


『ふっ、当然なの! 今のうちから芸能界デビューも視野に入れてサインの練習をしておくべきかしら?』


『うんうん、頑張りたまえ。でも、より特筆すべきは外面よりも内面の成長に関してだろうね。一人前の神様になってからも強くなり続けて、たまに世界の外側からちょっかいかけてきた秒で宇宙とか滅ぼせる系のワルモノなんかも難なくしばき倒せるようになって、世界の内側に関してもどんどん不幸や不便が減っていって……まあ、一種の理想郷と言っても過言ではないんじゃないかな。わざわざ死後を待つまでもなく、現世こそが天国さ。いやいや本当だって、今度のは嘘じゃあないよ』



 自業自得で発言の信頼性が損なわれているのは置いておくとして、これが真実であるならば未来のウル達はきちんと神として世界を良い方向に導いていたのでしょう。



『怪我も病気も貧困も差別も、それ以外の思いつくモノも全ては過去に。流石にすぐに何もかも全部とはいかなかったけど、地道にちょっとずつ着実に克服していったのさ。人間だけだと厳しかっただろうけど、そこは頼りになる神様達がいたからね。ところどころで不思議パワーのゴリ押しはありつつも、人類はとうとうそこまで辿り着いた。世界の在り方としては、もう完成と言っても全く過言ではないだろうね。付き合いのある他の異世界も大体似たようなものさ』



 あらゆる不安や苦悩から解放された理想郷。

 それは間違いなく良い未来ではあるのでしょう。


 しかし、そうなると当然の疑問が湧いてきます。


 未来の世界がそんなにも素晴らしいものであるのなら、その恩恵を享受している当事者であるはずの未来人は、どうして歴史を変えようなどと考えたのか。

 レンリ一人であれば単なる好奇心や知識欲という線もあり得ますが、流石に人類全部の頭のネジが同じように飛んでしまったということはないでしょう。多分、きっと、そのはずです。



『それはだね……おや、どうかしたかい神様?』


『あ、あのぅ、もうだいぶ手遅れ感があるのは否めないですけど、口止め料をお支払いしますので、そのあたり適当に誤魔化していただけたりは……?』


『はっはっは、()だね! これを言いに来るために、こっちが何年かけたと思ってるんだい? その研究自体は結構楽しかったし、別に嫌々やってたわけじゃないんだけど。物語なんかだとよく復讐は何も生まないなんて言うけどさぁ、その研究から派生的に生まれた新技術もかなりの数あったりしてね。諸々の権利料だけでも左団扇の暮らしができるくらいには儲かってたし、復讐、意外と生産性があることもあるっぽいよ』



 復讐。

 話す内容こそふざけていますが、運命剣は確かにそう言いました。

 ならば、それは誰に対する何の復讐なのか。



『まっ、あんまり引っ張り過ぎて飽きて帰る人が出ても困るしね。このあたりでサクッと発表しちゃおうか。神様、貴女の思い通りにはさせないよ。自分を世界の為の生贄にして消えちゃおうとか、悲しむ人とか迷宮もいっぱいいるし、そこまで思い詰める前にせめて誰かに相談するとかさぁ?』



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― 新着の感想 ―
ての込んだ○サ○だったとは。 とりあえず、女神様は後千年はごはんとおやつ抜きですね。 安心してください。神子様も喜んで協力してくれますよ。
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