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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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未来の国からはるばると


『私みたいな剣に限った話じゃあないけどね、武器というのは無闇に破壊力を高めればそれでいいとは限らないのだよ。お分かりかな?』


 胸を刺されたはずが、肌にも衣服にも傷一つなし。

 意識こそないようですが、呼吸も正常に行っている様子です。そんな不可解な状況に戸惑う皆に対して、未来のレンリを自称する運命剣はこんな講釈を始めました。


 武器とは破壊力が高ければ高いほど優れているとは限らない。

 それ自体はそう難解な話でもありません。

 実現性の可否については一旦忘れて、例えばナイフで一突きしただけでヒトや魔物が爆発四散したり、拳銃弾の流れ弾で高層ビルが倒壊するようでは、危なっかしくてとても使えたものではありません。

 自分自身や周囲の人間の身を守る正当防衛においてさえ、まともな感性を持つ人間なら過剰な威力によって生じる影響を危惧して使用を躊躇してしまうのではないでしょうか。



『そんなのは流石に極端すぎると思うかい? でも、他でもないこの私自身の製造および使用に関しても、むしろどこまで破壊力を落とすかに多大なる労力を割いたものでね』


「ああ、そういうことかい。そちらの言うことが本当だと仮定するなら、なにしろ時間を飛び越えて目標に届くわけだからね。流石にこっちの私には具体的な原理までは分からないけど、もしも地球のクラシックなSF作品みたいに物体を超光速まで加速するとかの方式だったら、必死にブレーキをかけて勢いの大部分を殺さないと着弾地点たるこの時代のこの惑星そのものが崩壊しかねないからね」


『そういうこと。ただ一応言っておくと、超光速方式のタイムトラベルではないよ。候補としては挙がってたんだけどさ、若い私が言ったみたいにブレーキ面に難があってね。いくら未来の技術とはいえ一度に送り込める質量的にも体積的にも、私に搭載できる機能には限りがあったからね』


「へえ。案外SF(すこしふしぎ)なマンガみたいに、学習机の引き出しにある不思議空間に放り込んだりしたのかもしれないね。具体的なところは、どうせこの時代に与える影響がどうのこうので教えてくれないんだろうけど」


『うん、私個人としてはこの時代に未来技術を惜しげもなくブチ込んだら、歴史の流れがどんな風に分岐しちゃうのか興味がないこともないんだけどさ。そういうのを勝手に言えないように色んな所の偉いヒトの監修の下で発言に制限(ロック)をかけられちゃってて。いわゆる、「禁則事項です」ってやつ』


「それは残念。でも、抜け道はないこともないのかな? とりあえず、剣の私がこの時代に来て神様に刺さったのは一人だけでの独断というわけではないらしいね。いや、それについては最初から教えても構わないと判断されていたと見るべきか。まあ言葉の端々からこっちが勝手に未来情報のヒントを読み取るのは多分できそうだし、剣の私も禁止事項に抵触しないよう悪知恵を絞ってジャンジャン匂わせてくれたまえ」


『オーケー、私! 知っての通り、そういうのは大得意だからね。その部分については特に大義とか強い動機はないんだけど、力を合わせて面白半分で歴史の流れをメチャクチャにしてやろうぜ』



 またもや話題が逸れつつありますが、どうやら運命剣をこの時代に送り込んだ未来の人々には歴史の流れを興味本位でメチャクチャに破壊しないようにとの、キチンとした良識があったようです。未来の出来事を過去形で語るというのも奇妙な話ですが。


 しかし仮にそれが真だとすると、そういった良識を備えた国家なり研究機関なりの要人達が、この時代に運命剣を飛ばして女神を刺す計画を把握・承認していたということになってしまいます。果たして、そこにはどんな深謀遠慮があったのか。

 単に未来のレンリがダミーの計画書なり報告書なりを提出して、報告内容とは似ても似つかない個人的な研究のために予算や人員を出させていただけという疑いも否定できませんが。



「うーん、そういうことを私がしそうかどうかで言うと……ハハッ! まあ、それは置いておくとして、今は確か武器の威力がどうとかって話じゃなかった? うん、何かといえば横道に逸れてばっかりなのは私の悪い癖だよね。何が悪いって改める気が全然ないあたりがね」


『おっと、そうだったね。こっちの私は別に自分自身と話す経験が初めてってわけでもないんだけどさ。共有する知識や経験がこれだけ乖離する年代の私が相手だと、前提条件が違うせいか同世代の自分を相手に話すのとは反応が違って、ついつい話が弾みがちになっちゃうなぁ』


「へえ、とすると人格の移植とは言うけれど実態としてはカット&ペーストじゃなくてコピー&ペーストなのかな? クローンとかロボット技術での肉体の再現とか記憶の共有まで可能なら、ウル君達と似たような感じになりそうだね。というか、そもそもの発想の元はその再現を目指したってあたりかな? それは研究が捗りそうで便利な……っと、いけないいけない。今はまず武器の威力がどうのこうのってトークテーマから消化するとしよう。ワクワク未来技術に関しては、その後のコーナーでたっぷりお届けするということで」


『よしきた! じゃあ、無駄話で尺を使ったからここからは巻きでいこうか。やれやれ、まったくダメじゃあないかADのウル君。しっかりタイムテーブルを管理してカンペの一つも出してくれないと』


『ようやく口を開くタイミングが来たと思ったら、メチャクチャ理不尽な角度から難癖を付けられたの!? この剣、間違いなくお姉さんなのよ……あと誰がADなの!』



 なんだかバラエティ番組のようになってきましたが、運命剣にも一応は自分から話題を振った責任感が全く無いわけでもないようです。それ自体が単なる無駄話であるという疑いもそこそこありましたが。



『はい、じゃあ急ぎで行くよ。まず、そこのネム君も言った通りに神様には傷一つ付いてない。それはいいね?』


『あ、いえ、お怪我はされてましたよ? 倒れた時に頭を床に打ったせいでタンコブが。大事な脳や骨がどうにかなるほどのお怪我ではありませんでしたし、そのタンコブはもう治し終わっていますけれど』


『あれ、そうだったの? 多分、急に私が刺さったせいで、バランスを崩してよろけちゃったのかな? 特別重い素材を使ってるわけではないけど、見た目同じくらいの鉄剣相当の重量はあるからね。怪我をさせるのは本意ではなかったけど、まあタンコブの一つくらいならギリセーフってことで』



 いちいち格好が付きませんが、小さなタンコブ以外に怪我がないのは本当でしたし、その頭の怪我にしたって運命剣が意図したものではなさそうです。

 刺しておいて傷一つないとなると、いよいよ何がしたかったのか分からなくなってしまいますが。まさか知識で劣る過去人を相手に、わざわざ技術マウントを取りに来ただけということは流石にないでしょうけれど。



『ふふふ、この私はゴゴ君やステラ君をも超える名剣を自負してはいるけれど、こと攻撃力という意味ではそこらの果物ナイフ以下のナマクラだからね。どれだけ力を込めても紙一枚も斬れないし、どれほどの達人が振っても虫一匹殺せやしないよ。破壊力的には丸めた新聞紙にも劣るだろうね』


「ふーん、へー、そうなんだ。ところで、キミって捨てる時は不燃ゴミでいいのかな? やれやれ、剣になるまでは良いとしても、なれさえすれば何でもいいってワケではないだろうに。よりにもよってそんな役立たずのナマクラになるとは、この私の面汚しだよ」


『面汚しって言葉を自分に対して使うヒトは未来の記憶込みでも初めて見たなぁ。ていうか、いくら切れ味が悪いからって自分を捨てようとしないでよ。もっとご両親から貰った自分自身というものを大切にしたまえ』


「その貰い物の肉体を捨てちゃったヒトに言われても説得力に欠けるなぁ。そもそも我が家の両親に関しては、面白そうな研究のためなら反対どころか推奨しそうな気もするけど。で、このナマクラには結局何ができるのさ? 文鎮? 漬物石?」



 剣としての性能が期待外れだったせいか、生身のレンリからの好感度と関心が著しく低下したのは別にどうでもいいとして。運命剣の目的に関しては、ますます分からなくなってくるばかり。

 一応、説明する気はあるようなのですけれども、本題に関係ない脱線ばかりで一向に本筋の話題が進みません。それも込みで「レンリらしさ」の説得力が上がっているあたり皮肉なものですが。



『何ができるかって? それは最初に言ったじゃあないか。運命だよ、運命。運命を斬れるんだってば。とはいえ、そう言われても具体的にどういう意味合いなのかピンと来ないのも無理はない。次はそのあたりの解説に移ろうか、新たなリスナーを加えてね。ほら、そろそろ神様の目も覚めたみたいだし』


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― 新着の感想 ―
説明と分析がノリノリなレンリ ただし、回りがついてけない。 ただ、怖いのが運命剣の方か? いきなり、飽きたから帰るとか、飽きたから、本気出すに変わったら、対処が難しい。 あと女神がどちら側? たぶん敵…
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