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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
最終章『咲き誇れ、きざはしの七花』

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運命剣レンリ

最終章スタートです。

どうぞ最後までお付き合い下さいませ。


 時刻は正午を回って間もない頃。

 場所は学都南の界港に設えられた式典会場。

 あちらこちらのお偉方が慌てふためくその前で。


 どこからともなく投じられた白い剣――女神を刺し貫いた狂気の凶器は、その狂喜を隠す素振りもなく堂々と名乗りを上げました。


 運命を断つ刃。

 故に、運命剣。

 運命剣レンリ、と。





 ◆◆◆





「剣が好きすぎるあまりに、とうとう剣そのものになってしまった私だって!? そんなの……うん、まあ、正直やりかねないラインではあるかな?」


 どういう手段を用いればできるのかはレンリにもさっぱり分かりませんし、それ以前にそんなことを実行した覚えもありません。もっと言うなら女神を害する意思など微塵もありませんが、機会と手段があれば自分が今の肉体を捨てて剣になってしまうこと自体は大いにあり得る。なんとも困ったことに、レンリとしてもその点に関しては大いに頷けるものがありました。



『うんうん、流石は私。別に急いでるわけじゃあないけど、いちいち認めるの認めないので言い争うのは面倒だからね。話が早くて助かるよ』


「それはどうも。話が早いというなら、ついでに一つ答え合わせ願おうか。ええと、そこに転がってるイカしたデザインの剣のキミ。本当にキミが私であると仮定して、その出どころは未来の世界だという理解で合ってるかな?」


『ああ、それも正解だよ。ちょっと露骨にヒントを出し過ぎてしまったかな? 懐かしい顔が多く見えたものでね』


「なるほど。具体的な年代までは分からないけど、人格を剣に移すような技術があるとするなら肉体的な老いを考慮に入れる必要はないかな? 最近新しくなった死後の世界の仕様が大きな変更もなく続いてるなら、そもそも死んだ後だって現世への干渉はやれなくもないだろうしね。どんなに短くとも数十年、恐らくは何百年か、もしかすると千年単位での未来かもしれないね。いや、それにしては年齢相応の落ち着きというか老成感みたいのに欠ける気も? うーん、まあ、それについてはいつまでも童心を忘れない素敵な大人になったものと解釈したいかな」


『ふふふ、いつから来たかまで言っちゃっても別にいいんだけど、あんまりネタバレをするのも面白くないからね。そのあたりの年数はあまり重要なポイントというわけでもないし』


「うん、ここで肝心なのは『未来』であるという点だ。そもそもの話、どうして未来を見る能力のある神様が無防備にもあっさり刺されたのかという疑問だけど、これは恐らく……」



 まだ完全に信じ切ったわけではないのでしょうが、流石は同じレンリ同士。

 打てば響くような反応の良さで、周りを置き去りにどんどん話を進めていきます。


 まあ流石にここらで一度「待った」がかかりましたが。



「待て待て待て⁉ 一人と一本で勝手に分かり合っておるでない。俺達にも分かるように親切丁寧に順を追って話してくれ!」



 他の皆にも似たような文句はあったのでしょうが、とりあえずシモンが周囲を代表して彼女達の会話に割り込みました。どうせ後々で事態の真相に迫ったりもするのでしょうが、今この瞬間における優先度としては正直そこまで高いものではありません。特に警備責任者であるシモンとしては、何を置いてもまず確認すべき点がありました。



「ええと、まず、レン……いや、運命剣と言ったな?」


『うん、言った言った。ところで、自称しといてなんだけどさ、やっぱり大仰すぎてちょっと恥ずかしいねコレ。ああ、そうそう。キミらの立場としては、こっちの剣の私がそこの若い私とイコールだと素直に認めるわけにいかないのはちゃんと理解してるから。こっちに何らかの意図があって、本当は別人なのに同一人物だと誤認させようとしてるって線を否定する材料もないだろうしね。まっ、「運命剣」でも「剣のほうのレンリ」でも、なんなら略して「剣リ」でも好きなように呼んでよ。親しみを込めて』


「くっ、言ってることは正しいのだが、こうまで先回りして気遣われると調子が狂うな!? すごくレンリらしくはあるのだが!」


『そうそう、多分一番気になってるだろうから先に教えておくと、別にこの私を皮切りに、これから他の剣や攻撃がビュンビュン飛んできたりはしないから。だから、お偉いさんの避難誘導とかは必要ないよ。もちろん、これをそのまま鵜呑みにもできないだろうけど、そういう方面の警戒は緩めても問題ないとは一応言っておくよ』



 レンリを自称しているとはいえ、一応、敵であるはず。

 だというのに、運命剣からはビックリするほど敵意や悪意といったモノが感じられません。当然、そう思い込ませるべく親しい風を装っているだけという可能性もまだ否定できないのですが。



『シモン君には、あとライムさんと迷宮の皆もね。どっちかというと迂闊に話を信じちゃったうっかり者が、変な解釈をしてそっちの私に危害を加えないかに注意していて欲しいかな? ほら、こっちの私は剣だから大丈夫だけど、生身で刺されたり斬られたりすると普通に死んじゃうし』


「おっと、そういう可能性もあったね! はい、お集まりの皆さん。この私はそこの私を自称するカッコイイ剣とは縁もゆかりもない赤の他人だから、間違えて攻撃したりしないように! シモン君達も、しっかり守ってくれたまえよ」


「う、うむ、それはもちろん守るが……くっ、いちいち緊張感が削がれる!?」



 ただでさえ人目を集める壇上で、それなりに大きな声で会話をしていたせいでしょう。ここまでの会話は式典に出席していたゲスト達も概ね把握しています。

 なにしろ、現在は女神が胸を剣で刺されて倒れた直後。

 興奮と短絡の末に、剣ではない生身の人間であるレンリに敵意を向けて攻撃してくる粗忽者がいないとも限りません。こうして釘を刺しておけば、あるいは注意を促しておけば、とりあえずそういったリスクは消えたものと判断できます。



『なにしろ登場の仕方がアレだったから好感を持つのは難しいかもしれないけど、あんまり敵意を持たれると聞く耳を持ってもらえなくなっちゃうからね……というわけで、ここらでもう一つ好感度の回復を図っておこうか。やあ、ネム君ちょっといいかい?』


『あら? あらあら、ええと……はい、今どなたか我を呼びましたか? すみません、女神様(あるじさま)に集中していたもので、お話の流れがよく分からなくて』


『なぁに、気にしない気にしない。で、そんなネム君に質問だ。神様の容態はどんな具合かな? 刺しておいて……いや、刺さっておいて、かな? 刺さっておいて聞くのもなんだけど、別に煽りとかじゃなくてさ』


『はい。その、我もとっても不思議なのですけど』



 ネムは女神が胸を刺された直後に治療を開始しようとして……しかし思うように『復元』できないことに戸惑い、ずっと不思議そうに首を傾げていました。

 死者をも蘇らせる彼女の力でさえも治せない重傷だとか、能力そのものが発動できないわけではありません。しいて言うなら、どこをどう治すべきか分からなかったというあたりでしょうか。



『うーん、我の見間違いだったのでしょうか? 女神様(あるじさま)のお洋服にもお身体にも、どこにも刺されたような痕が見当たらなくて』



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