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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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これならきっと大丈夫


 本番間近。

 式典そのものは屋外に設えられた演壇で行われる手筈になっていますが、大勢の出席者をそれまで外で待たせておくわけにもいきません。

 どうせ、まだ職員の雇用すら始まっていない界港には、使われていない部屋が沢山あります。セキュリティ上の観点から好き勝手に歩き回らせるわけにはいきませんが、会議室としての使用を想定しているような比較的大きめの部屋をいくつか開放して、本番まで待機するための待合室としていました。


 できれば美味しい物を飲み食いしながら本番前の緊張を解したいところですが、食中毒や異物混入への用心からご馳走はお預け。あるのは瓶や缶入りの飲み物と簡単な乾き物や菓子類くらいでしょうか。

 豪勢な料理はすべての予定が恙無く終わった後、昨夜の前夜祭と同じく伯爵邸で開催予定の打ち上げの席でのお楽しみ。昨日以上に贅を尽くした宴の用意で、きっと今頃領主館に勤める使用人は大忙しのはずです。


 そんな待合室の一室で。



「やあやあ、私達まで入れてもらってすまないね。ほら、私ってば知っての通りデリケートな性質だろう? あっちのお偉いさんが山ほどいる部屋だと、どうにも気が休まりそうになくてね」



 なんて図々しいことを言っているレンリはさておいて、この部屋には本日の主役たる面々が勢揃いしていました。まず神子の肉体に憑依した女神を筆頭に、正式な神様デビューを目前に控えた第一から第七までの迷宮達、そして三代目勇者として紹介される予定のユーシャ。

 こういった重大イベントの前は人によっては一人静かに落ち着いて過ごしたいという考えもあるのでしょうが、先述の彼女達は揃いも揃ってそうした例には当てはまらない様子。本番まで大人しく待っているのもヒマだったのか、いつもの顔見知り連中をお喋り相手に呼びつけて、本番直前の時間を過ごしていたというわけです。



「シモンさんは流石に無理だったみたいだけどな」


「うん、お仕事……大変、だね」



 ルグもルカも他の面々も、今日はフォーマルな礼服やドレス姿。

 例外は真っ白い神官服の女神と、この場にいない警備責任者のシモンくらいでしょうか。入場時のボディチェックと同時に各々の武器を預けてきたので、剣も差していない丸腰。この場にいない招待客に関しても、警備への協力をしている一部人員以外は同じく武器の類を手放しているはずです。

 まあレンリなどは特に必要もないのに、単なるアクセサリに偽装した人造聖剣を持ち込んでいたりするのですが、順当に行けばそれらを使うような場面はないでしょう。



「皆、似合う」


『あい!』


『ふっふっふ、それほどでもあるの! エルフのお姉さんも素敵なのよ』


 

 それより見るべきは普段以上に力を入れている各人のお洒落についてでしょう。特に迷宮達は主役ということで気合が入っているのか、これまで色々なパーティーに出席した時にも見たことのなかった新作ばかり。まあ厳密には彼女達の服は身体の一部なので新作も何もないのですが、少なくとも気分的にはピカピカの下し立てです。


 各々のパーソナルカラーを取り入れたドレスは、体格的に子供服サイズではありますが、ウエディングドレスを連想させるようなヒラヒラしたデザイン。

 なんと赤ん坊のアイまで、いつの間にか同じような格好になっていました。恐らくは姉達を見て自発的に真似したくなったのでしょう。流石に布状のドレスは髪色と同じ鏡状ではなく薄ピンクですが、それでも胸元の大きなブローチに鏡があしらわれていたりなど、アイも彼女なりにお洒落を楽しんでいるようです。



『緊張した時は手のひらに人って書いて飲む、だったわよね? 人を書いて飲む、人を書いて飲む……』


ヒナ(ひーちゃん)、昨日からもう大きめの都市が滅亡するくらいゴクゴクいってるのですよ。ていうか漢字文化圏の出身でもなければ人間でもないのに、この手のおまじないって効くものなんです?』


『疑問。同意。言われてみれば微妙かもね。思い込み(プラシーボ)含めての期待にしても、そもそも我々にプラシーボ効果ってあるのかな?』



 本日の主役の中でもほぼ唯一カチコチに緊張しているヒナは、モモやヨミがフォローに回っている様子。こうしている今も『強弱』で心身のストレスを和らげているのですが、それでもなお追いつかないのでしょう。



「それなら、ゴゴ。わたし達で斬ってやるのはどうだ?」


『ああ、それが手っ取り早いかもしれませんね。技の練度に関しては少々落ちるかもしれませんけど、わざわざ忙しいシモンさんを呼んでくるのも悪いですし我々で。というわけで、ヒナ?』


『う、うん、なんでもいいからお願い……ふぅ。心なし気が楽になったわ。ありがとね』



 『強弱』でも追いつかない緊張に関しては、勇者と聖剣の協力技で強引に解決。当人達曰く、シモンほど使い慣れていない分だけ同じ概念斬りでも精度はいくらか落ちるようですが、ゴゴとユーシャが近くにいれば念じるだけでの発動も可能ですし、本番中にも都度斬っていれば緊張したヒナが大ポカをやらかすような心配もないでしょう。



『くすくすくす。できれば我もお姉様に何かして差し上げたかったのですが』


「ああ、ネム君は今は何もしなくて大丈夫かな? ステイステイ、お願いだから何もしないで大人しくしててね?」



 概念斬りでもなお追いつかなければネムの出番だったかもしれませんが、幸いなことに『復元』までする必要はなさそうです。神同士では能力の効きも多少落ちるとはいえ、予測のできなさという点においては赤ん坊のアイと双璧を成すネム。本人は少し残念そうですが、出番が来ないに越したことはないでしょう。



 歴史的な重大イベントを目前に控えても普段と変わらず。ほとんどの面子は、むしろ気を抜きすぎているのに注意したほうが良いくらいかもしれません。


 歴史が変わる間際。

 最後の穏やかな時はこんな具合に過ぎていきました。





 ◆◆◆





『ふふ』


 あまりにもいつもと変わらぬ皆の様子に、女神は思わず笑みを零しました。

 

 多量の神力を消費してまで視た未来を、このすぐ後に起こることを考えると当然恐怖や罪悪感はあるけれど、これならきっと大丈夫。この先も、神の眼ですら見通せない遥かな未来まで、彼女達がいれば不安はない。



「うん? 神様、何か面白いことでもあったかい?」


『ええ、ええ、ありましたとも』



 密かな安堵を胸に秘め、女神はただ穏やかに微笑みました。



十五章は次回で終わる予定。

その後は少し間を置いてから最終章となります。

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シモンは人気者だから仕方ない。 何か有った〉女神のご飯の様子が記録されていた
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