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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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最も恐れるべきは内側に


 レンリ達は歴史的重大イベントの直前にも呑気に朝食のハシゴなどしていましたが、当然ながら他の関係者はもっと責任感や使命感を持って真面目に動き回っていました。



「団長、定時報告です。会場内外に不審物、不審者など見当たりません」


「界港に興味を持った冷やかしはそこそこ来てますけど、今のところ無理に押し入ろうとか忍び込んでまでどうこうしようって人はいませんね。慌てなくても今日の夕方には発表するって伝えてるのが効いたみたいです」


「うむ、報告ご苦労。交代で休憩を入れつつ引き続き頼む」



 本番目前に忙しくしている人は大勢いますが、特に会場の警備責任者であるシモンの重責は大変なものです。昨夜の宴の後で一度着替えと仮眠を取るべく屋敷に戻りましたが、その後はまだ夜が明ける前から会場に赴いて精力的に働いていました。


 情報の漏洩には注意していましたが、人のやることであればどんなに気を付けていても万が一は起こり得ます。重要人物が一堂に会するこの場は、例えば良からぬ輩がテロ行為を企てるには絶好の機会。爆発物や毒物を持ち込んで使用したり殺傷力のある魔法を発動させたりして要人の殺傷に至れば、世界中の国々が大混乱に陥るのはまず確実。

 ましてや今回は、この世界のみならず地球の各国からも大勢が出席するわけです。参加者の身にもしものことがあれば、ここまで準備してきた異世界間の交流計画が白紙になったり、最悪のケースだと世界の壁を隔てての戦争や制裁、賠償問題などにも繋がりかねません。どれだけ慎重になっても決してなりすぎるということはないでしょう。



『シモンさん、我々のチェックでも特にこれといった問題はなさそうです。地面の下や壁や天井裏まで異常ありません』


「うむ、協力感謝するぞ。そなたらの視覚であれば見落としはあるまい」



 いくら入念に確認をしようとも、もしも遠隔操作で起爆可能な爆発物を事前に床下に埋め込まれていたりすれば、人の目でいくら見ても分かりません。常識的に考えればまずあり得ませんが、地球側の参加者の中にテロリストが混じっていれば機械的な仕組みを用いた危険物を持ち込まれる可能性だってあるわけです。


 もちろん今回の出席者に対しては入念な身元、経歴、思想の確認が行われた上でこの場に送り込まれてきたわけですが、整形手術で他人になりすましたり身内を人質に取って脅迫されたり、薬物を用いた洗脳で危険思想を植え付けられたりしていたら、いくら写真と見比べても潜在的な危険性まで見抜くのは非常に困難。


 もはや杞憂という段階をも通り越して被害妄想的ですらある想定ですが、シモンは迷宮達に協力を要請することで、そうしたチェック漏れの可能性までをも潰していました。


 迷宮全員ではありませんが、姉妹の中でもお利口さん側に属するゴゴとモモとヨミが何時間も前から会場近辺をうろうろと歩き回って確認作業の手伝いをしています。もう少し時間が経ったら騎士団の団員と一緒に、入場口でのチェックも手伝ってもらう予定です。

 もし胃袋の中に危険物を呑み込んで隠してしまうような通常のボディチェックをすり抜けてしまう方法でも、彼女達の目まで誤魔化すことは不可能。更には、ゴゴ達が神力を用いて一帯を覆った結界の効力で、転移魔法による空間を隔てての会場内への移動も封じています。加えて、シモン本人がその研ぎ澄まされた感覚で会場に出入りする全員の悪意や攻撃的な意思の有無を見極めるという盤石の態勢です。



「団長、ニホン国の警備担当者から再度の打ち合わせがしたいと連絡が」


「うむ、分かった。すぐに向かおう」



 更に更に、地球側の協力を得ての監視カメラや無線機、赤外線センサーといった機器の導入。具体的な仕組みまでは分からずとも、単に教わった通りのボタンを押してモニターを見たりマイクに向けて話すだけならば、ハイテク機器に馴染みのない騎士団の人員にとってもさして難しいことではありません。

 もちろん機材を提供するのみならず、地球側の護衛として来ていた各国の警察・軍事の専門家も外部協力者として警戒に当たっています。相手を信用していないようで内心気分が良くないかもしれませんが、これならば相互監視の役割も果たせて一石二鳥。


 食あたりや毒物への警戒で、休憩中に食べるためにと界港内のいくつかの部屋に用意してある飲食物も缶詰やレトルト食品ばかり。それも開封前にパッケージに異常がないかの確認が義務付けられています。

 激務の中の貴重な食事休憩がこの有り様では少々味気ないですが、コトの重大性を考えれば文句を言うわけにもいきません。



騎士団(うち)の皆には落ち着いてから何か埋め合わせをせねば。特別ボーナスを弾んで、あとは美味い店を貸し切りにして打ち上げを……っと、いかんいかん。そのあたりを考えるのは無事に終わってからにしよう」



 いったい何をどうすればこの警戒態勢を突破できるのか、もはや彼ら自身にすら分かりません。集まった面々が力を合わせれば、テロリストどころか巨大隕石が落ちてこようが異世界の悪神が攻めてこようが余裕で撃退できるでしょう。



「何も心配は要らぬ、はずなのだが……」



 思いつく限りの対策は事前に打ってあるものの、それでもどこか安心しきれないのはシモン達がこれまで巻き込まれてきた数多の大事件のせいでしょうか。


 ここぞという時こそ何かが起こる。

 ほんの小さな誤解や思い違いや悪ノリが大事に繋がってしまう。

 なんなら、これまで遭遇してきた街や国家や世界の危機は、冷静に思い返してみれば大半が顔見知りのやらかしの結果であったような気さえも。黒幕や元凶とまでは言わずとも、仲間内の誰かが余計な真似をしたせいで無駄に騒ぎが大きくなったり混乱の度を増したことは数知れません。



「ううむ、最近はそういう悩みを抱えていた者はいなかったとは思うが……」



 少なくともシモンの知る限りでは、最近そういった類のトラブルはありませんでした。もし周りに悟られないよう巧妙に悩みを隠している誰かがいたとして、周囲に一言の相談もなくいきなり世界をどうこうしようという身内はいないはずです。多分。恐らく。きっと。


 なんで最後の最後で身近な友人知人に警戒の目を向けているのかと、シモン自身も申し訳ないやら後ろめたいやらの気持ちは多々あるのですが、それについては仕方がありません。なにしろ、これまでに積み重ねてきた負の実績が多すぎます。むしろ極めて適切な姿勢だと言えるでしょう。


 こうして、ありとあらゆる状況を想定して神経をすり減らしつつ、シモンは熱心に職務に励み続けておりました。



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うむ、何か起きる兆候は無し、つまり、異変だ。 シモンの身に何かあれば〉ライムの地雷 ライムに何かあれば〉シモンの地雷 〉この世に愛着は無いな? 〉もう、助からないぜ! となるはず 何だ、あのバカ逝き…
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