前夜祭③
よく知らない人と仲良くなるにはどうすべきか?
今回は異世界人同士という特殊なケースではありますが、ここまで噛み砕いてしまえば何ら珍しい問題ではありません。結果的に上手くいったかどうかはさておき、こうした悩みにぶつかったこと自体がない人というはあまりいないのではないでしょうか。
どこの世界のどこの国でもありふれた悩み。
であれば、定石とでも言うべき解法もいくつかあるわけです。
例えば学生の場合は、進級や進学によって周囲の同級生の顔ぶれが一気に新しくなった際に、ちょっとしたゲームやレクリエーションなどをしたことのある、もしくは半強制的にさせられた経験のある人は少なくないでしょう。
これが社会人の職場であれば歓迎会と称した飲み会で飲み食いを共にしたり、元々の共通項が多い趣味のサークルなどであれば更にやるべきことは明確になるものと思われます。
もちろん、こういった方法で必ずしも上手くいくとは限りませんが、多くの場でこういった手法が採用されているということは、それなりに信頼性があるのでしょう。
今回の場合なら、レンリも考えたように超常的なスキルによって『隔意』や『緊張』を弱めたり切断したりといった手もないわけではないのですが、今後こうした別世界の人間が集う場の全部に毎回モモやシモンが同席するわけにもいきません。
非効率は元より承知の上。
ごく普通の人間にも無理なくできる普通の手段を模索するのも先々を考えると必要なことではあるのです。よっぽどの大失敗をして仲が拗れでもしたら、そのリカバリー要員としてモモ達に頼る展開はあり得るかもしれませんが。
「で、いったい誰だい? この私の手柄を横取りしようと考えたのは。やれやれ、これはつまり私の側に相応の迷惑料を請求する権利が発生したと解釈できるのではないかな?」
また酷い言いがかりもあったものですが、それについてはレンリなので今更です。さてさて、そうして思いもよらぬ角度からイチャモンを飛ばされたのが誰かというと……。
◆◆◆
伯爵家の広大なパーティー会場。
その一角に大勢の招待客が人だかりを作っていました。
その中心にいるのが誰かというと、
『要。注目。ここからが面白いところだから見逃してはいけないよ』
黒いおかっぱ髪がトレードマークのヨミ。
ですが、彼女はあくまで成り行きで司会進行を引き受けただけ。
真に注目を集めているのは、そのすぐ隣のテーブル上です。
「おや、いつの間にか消えてると思ったらウル君まで。迷宮の皆でビンゴ大会でもやってるのかな?」
小さい体格のせいで見えにくかったのですが、見れば赤ん坊のアイを除く第一から第六までの姉妹六人が勢揃い。どうやら姉妹で力を合わせて、招待客相手に何かやっているようです。多分、ビンゴ大会ではないのでしょうが。
レンリが見た限りでは、皆で何らかのゲームをやって今は前のワンゲームが終わったところのようです。参加賞なのか、ゴゴが手元で生成した何かを前のゲームの参加者に配っていました。
『順番。入替。さて、それでは前の回が終わったところで次の参加者を決めようか。すまないけど我が勝手に指名させてもらうよ。拒否権は認めるけれど、できれば積極的に参加してくれると嬉しいな』
そう言うと、ヨミは周囲を見渡して次の参加者を探し始めました。
どうやら両世界の出身者から一人ずつ選んで、二人一組でゲームに参加する方式を取っている様子。肝心のゲーム内容やルールにもよりますが、協力プレイでゲームの勝利を目指すというのは、手っ取り早く誰かと打ち解けるのを目的とするなら悪くないアイデアでしょう。
出遅れたレンリには未だ詳細が分かりませんが、一足早く見物していた面々も先程までの膠着状態を打破する契機になるのならと、積極的に手を挙げてヨミにアピールしている人までいます。
この宴に参加している以上は、彼ら彼女らも各々の国許では相応に高い地位なり責任なりを有するはず。それが幼い子供の仕切るゲームにああも関心を寄せるというのは奇妙にも思えますが……いえ、責任を自覚しているからこそ、本来の目的を達するべく、こうして積極的に余興に参加する姿勢を見せているのかもしれません。迷宮達が神であるとまで知っているのなら、それを間近で観察してみたいという思惑もあるのでしょう。
「はいはいはい! うぇーい、ヨミ君見てるー? ほら、こっちこっち! 私を当てなきゃヨミ君の恥ずかしい秘密を大声で暴露しちゃうぞぉ?」
『派手。了承。はいはい、レンリさん。そんなにアピールしなくても見えてるよ。まあ別に断る理由もないから別にいいけど。あと我に恥ずかしい秘密とかないからね?』
「ありがとう、話が早くて助かるよ。でさ、これって何やってるの?」
『不知。驚愕。マジか、この女……!?』
問題点は多々ありますが、ゲームを盛り上げる上ではこういう賑やかしというか道化というか一人くらいそういう変なのがいても悪くない、はず。
まさか一切何も知らない状態であれほどの猛アピールをしていたとはヨミも思わず、早くもちょっと後悔しかけていましたが、今更レンリだけ仲間外れにして追い返すというのも後が怖いものがありました。仕方がないので、このまま淡々と進めることにしたようです。
『一目。瞭然。まあ何をしてるかについては見ればすぐ分かるよ。ほら、こういうの見たことあるでしょ? 幸い、どっちの世界にも似たようなゲームは結構あったみたいだったから』
「へえ、わざわざ長テーブルを一つ使ってゲーム盤にしてるんだ。こんな凝ったセットよく用意したね。それでサイコロを振って出た目の数だけコマを進めて……ああ、なんだスゴロクか」
素人同士で遊ぶ分には運動神経やテクニックの多寡がそれほど問題にならず、交代でサイコロを振るなどすれば協力プレイも可能。そしてこれが肝心な点ですが、どちらの世界にも様々な文化圏に類似の遊びが多々あって誰でも一目でルールが飲み込める。
そうした点を加味して迷宮達が選んだのが、かつて「小洒落たインテリアを作る能力」だとばかり思われていた迷宮展開能力を応用して即席のゲーム盤としたスゴロクゲームでありました。




