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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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前夜祭②



 伯爵家での催しには、この世界の各国要人のみならず地球から訪れている人々も参加していました。事前の交渉や工作においては勇者の出身地たる『ニホン国』の所属である点が有効に働くであろうという、この世界ならではの特殊性から日本人が主体となって活動していましたが、明日の式典には地球の諸外国から派遣された人々も出席するのでしょう。


 もしかしたら式典後の正式な交流開始に先んじて各国の重鎮と顔を繋いでおき、後に本格的な交易や交渉事が始まった際の諸々がスムーズに進むようにとの思惑もあるのかもしれません。なかなか抜け目のない姿勢です。



「おや、あそこで固まってるのは地球の人達かな?」



 これまでの水面下の活動においては、なるべく不審を持たれぬようにとの考えから現地で購入した衣服を身に纏っていた人々も、今回は現代地球人らしいスーツ姿がほとんど。

 そうしたこの世界では相当に目立つ格好の人々が、パーティー会場の一角に固まっているものだから、特に注意して見ずとも注目を集めてしまうのは仕方がありません。レンリは、そうした地球人集団の中に知り合いの姿を見つけて話しかけにいきました。



「やあ、弓場さん。今日はそこの人達の護衛かい? せっかく美味しそうな料理がそこらに並んでて食べ放題飲み放題なのに、好きに動けないとは難儀な話だね」


「ふふ、まさにレンリさんのお察しの通りでして。これも宮仕えの悲しさですね」



 レンリが声をかけたのは、少し前まで一緒に行動していた交渉チームの護衛を務めていた自衛官の弓場一曹。他にも同じく護衛だった軍司三尉や新畑警部、レンリも名前までは知りませんが他のチームの護衛を務めていた自衛官や警察官の姿も周りに見られます。

 いざという時の備えである彼ら彼女らの役割は、主に地球側の各国から訪れている人々の身の安全も確保するための護衛。いわばオマケのようなものなので、レンリのように遠慮なく料理を食い散らかすわけにはいかないようです。



「まあ飲み食いは置いておくとして、せっかく顔を合わせる機会だっていうのに、順調に交流が進んでるとは言い難いみたいだね。見たところ例の翻訳機は全員着けてるみたいだし、言葉の壁は問題にならないと思うけど」


「こうして一箇所に固まっていてくれたほうが我々護衛にとってはラクでいいですけど、多分あんまりよろしくない状況なんでしょうねぇ」



 高性能な翻訳機のおかげで、異世界人同士とはいえ意思疎通そのものには問題ありません。それにも関わらず地球人同士で固まって積極的に異世界人に話しかけに行けないのは、恐らく心理的なハードルの高さによるものでしょう。


 姿はそっくりでも文化も違えば常識も違う。

 同じ地球人同士でも当たり前にあることですが、相手が異世界人ともなればその差異は更に大きなものとなるはず。各々、事前に入手した資料を元にできる限りの予習はしてきたとはいえ、ふとした拍子に悪気なく無礼を働いてしまったがために後の交流に差し障りが出る可能性だって否定はできません。



「つまりは大の大人が揃いも揃って臆病(ビビ)ってるわけだね。もっとも、それについてはこっちの世界のお偉いさん方も似たようなものみたいだけど」



 積極的に話しかけにいけていないのは、こちらの世界のお歴々も同様。ふと周囲を見渡せば、チラチラと地球人集団に視線を向けているあちこちの王様やら高位貴族やらが何人もいました。

 まるで意中の相手に想いを伝えられずにモジモジしている思春期の少年少女のようですが、それなりにイイ年齢であろうおじさんやおばさん、あるいはお爺さんやお婆さんがそんな風にモジモジしていても、ただただ不気味なだけでしょう。


 言語の問題がないことは事前に知らされていますし、やはりこちらも異文化コミュニケーションにより発生し得るリスクを心配している様子。まるで考えなしの無謀な突撃よりはマシですが、考えすぎるというのも困りもの。両世界の円滑にして良好な関係のためには、何かしら膠着状態を崩すキッカケが欲しいところです。



「やれやれ、まったく世話の焼ける」



 一招待客に過ぎないレンリが仲を取り持つ義務などないのですが、ここで双方の世界のVIP相手に恩を売っておけば、後で地球産の物品を入手しやすくなったり居候先に優先的にネット回線を引いてもらえたりといった具体的な利益を得られる可能性がなきにしもあらず。

 彼ら彼女らとて責任ある立場の大人ですし、ここには仕事で来ているわけです。あえて誰かが手を貸すまでもなく、放っておいても勝手に自己解決する見込みもありますが、それがよりスムーズに進んで悪いということもないでしょう。



「いくつか手立てはありそうだけど、穏便なところではモモ君に頼んで『隔意』を弱めてもらったり、同じくシモン君に斬ってもらったり。ネム君にお偉いさん達の頭をパッパラパーにしてもらうのは……もし元に戻らなくなったら困るからナシとして」



 レンリ自身にできることはたかが知れていますが、友人達に一声かければ解決の手段は色々とありそうです。かなり広い会場ではありますが、何かと目立つ面々を探すのにはさして苦労もしないでしょう。



「あ、でも皆に頼んだら私の手柄ってことにならないのか。骨折り損のくたびれ儲けっていうのは御免だし」



 解決するだけなら容易でも、それをレンリの手柄として恩を売り付けるとなるとこれが意外に難しい。余計な欲を掻いて勝手に問題解決の難度を上げているだけなので、まったく同情の余地はありませんが。



「そこらの概念をチョイチョイと魔法でいじって何かできないものかな。それとも私でも使える精神魔法のレパートリーから何か……って、あれ?」



 そんな風に無意味に時間を浪費していたせいでしょう。

 なんとも間が抜けたことに、レンリは一人だけ周囲の空気感が切り替わっているのに気付くのが遅れてしまっていました。


 場の停滞を懸念していたのが、この広い会場内でレンリ一人だけであるはずがありません。他にも同じような問題に気付き、そして誰かさんのように手柄だの何だのと余計なことを考えずに、さっさと解決のために動いた者がいたようです。



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空気が停滞 よし、UNOしようぜ! こんな時はボードゲームかゲームブックに限る
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