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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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三代目


 まあ、当然ながら何ひとつ大丈夫ではなかったのですが。

 警備の都合も付近の交通事情も一切考えずに、あちこちのお偉いさんと一般人が入り乱れて公園を占拠しての大宴会。野外宴会場と化した公園の付近では自然な帰結として馬車や通行人の大渋滞が発生し、交通整理に追われる衛兵や業務委託を受けた冒険者が大変な苦労をする羽目になってしまいました。



「いや、誠に申し訳ない。一応、見苦しいのを承知で言い訳をさせてもらうと、ドワーフ国の皇帝陛下や魔王軍のお二方が繰り返し大丈夫だと仰られていたものだから、てっきり役所にでも話を通しているものかと……」


「そうそう、アタシ達悪くないもーん……あ、嘘です、ごめんなさい。我々は大変反省しております……」



 翌日、朝イチで伯爵家に赴いて頭を下げているのは、よりにもよってこの学都の治安維持組織の長たるシモンと、昨晩惜しげもなくその歌唱力を披露した世界の歌姫フレイヤ。

 二人とも昨晩の宴会には知り合いや知り合いの知り合いに招かれる形で途中参加した後発組ではありますが、彼らの存在感や影響力を鑑みればやはり軽率だったと言わざるを得ません。そんなワケで朝っぱらからお説教を頂戴しに参上したという状況でした。



「ま、まあまあ。殿下もフレイヤ殿も見ての通り反省していらっしゃるようであるし、今回のところはこのあたりで……」



 とはいえ、大らかにして大雑把な性格のエスメラルダ伯爵が、積極的にそんな真似をするはずもなし。場を提供してはいますが、どちらかというと早く話に区切りを付けて終わらせたい様子。ならば、どこの誰がお説教を見舞っているのかというと……。



「やれやれ、たまには日頃の責務を忘れてハシャぎたいこともあろうが、今のデリケートな状況を失念して乱痴気騒ぎとは感心できぬ。シモンよ、そなたらしからぬ軽挙であったな」


「ええ、陛下の仰る通りです。フレイヤも、ご依頼を頂いた前夜祭はもう明日なのですよ? 久しぶりに魔界時代のご友人方と旧交を温めるとは聞いていましたが、ボコスカ殴り合った上にノドのコンディションも考えずに大酒をがぶ飲みとは、プロとしての自覚が足りないのではなくって?」



 領主館の応接室を舞台に正論を並べているのは、シモンの実兄であるこのG国の国王陛下と、『炎天一座』の舞台裏を取り仕切る黒髪の才女オルテシア女史。ちなみに女史は、エスメラルダ伯爵の第二夫人候補として遠距離交際中の身でもあります。

 また先日学都に到着したばかりの国王は、現在この伯爵邸を滞在先としており、そのせいで昨夜の一件を耳に入れる機会があったということなのでしょう。


 そうして上位者なり管理者なりの立場から、どこがどう悪かったのか冷静かつ的確な正論をチクチクチクチク……と。いくら心身ともにタフな二人も、これは相当に堪えたようです。怒りに任せて怒鳴りつけられたほうが、気分的にはまだマシだったかもしれません。



『ええと、なんだか申し訳ありません。我も配慮が欠けていたようでして』



 そんなシモンとフレイヤに助け船が出されたのは、お説教が始まってから三十分以上も経った頃。同じく昨夜の宴会参加者であるゴゴが応接室に姿を見せたのです。



「はっ、御身がそう仰られるのであれば是非もございませぬ」


「こ、この子が例の……? こほんっ、ゴゴ神の拝謁を賜り恐縮至極にございます」


『いえいえ。どうか頭を上げてください』



 流石に国王も女史も、神の意向に逆らってまでお説教を続ける意思はなかったようです。思わぬ援軍の登場に、シモンもフレイヤもホッとした表情を見せました。



『うーん、「使途様」で通っていた時に少しは慣れたかと思いましたけど、やはり神様ともなると威光のケタが違いますね。人前に出るようになったら、もっと意識して増長を自重しないと危ないものがありそうです』



 大国の王ですらも迷わずひれ伏す神の威光。

 ゴゴは早くもその危険性を認識しているのでしょう。

 姉妹の中でも調子に乗りやすそうな誰かさんなど特に危なっかしいですし、周りの人間がなんでもかんでも言うことを聞くという状況はアイの情操教育にも良さそうに思えません。誰かが暴走したりしないよう、神として相応しい振る舞いに慣れるまでは姉妹間での相互監視や注意を小まめに心がけるのが無難でしょうか。



「して、ゴゴ神よ。本日はどのような御用でしょうか?」


『ああ、そうでした。明後日の式次第に少しだけ変更を入れられないものかと思いまして。ちょっとした思いつきのようなものですし、無理そうならどうしてもとは言いませんが』



 どうやら、ゴゴはシモン達の救出のために来たのではなかったようです。

 彼女の用件は二日後に迫った式典のスケジュール調整について。



『あの子が学都に来ること自体が突発的な思いつきみたいなものだったんですけど、ほら、せっかく世界中の耳目が集まる機会なわけですから。この機にユーシャの勇者としてのお披露目も一緒にしたほうが合理的かな、と』


「ええと、申し訳ございませぬ。そのユーシャという方はどなたなのでしょうか?」



 これまで存在をほとんど知られていなかったのだから無理もありませんが、伯爵やオルテ女史はユーシャの名前そのものが初耳。国王は以前に日本の外務省を訪れた際に顔を見ているはずですが、その正体までは知らなかったようです。



「なんとっ、勇者リサ様に続く歴代三人目の勇者!?」


「そのような御方がおられたのですね!」



 案の定、その正体を告げられた彼らの反応には劇的なモノがありました。

 無駄にややこしくなるので出生の経緯やら現在の勤務先については端折りましたが、それでもやはりこの世界における『勇者』の肩書きはインパクト抜群。


 また初代や二代目と違って、三代目たるユーシャはどこか他の世界から呼ばれたのではなく、この世界で生まれた地元民。もしかすると以前の旅行時のようにたまに外すくらいはするかもしれませんが、基本的な活動方針としては常駐型の勇者になるはず。何かが起こってから召喚するよりも即応性においては優れているでしょう。


 現状は特に差し迫った世界の危機があるわけではありませんが……というか、勇者と同等かそれ以上に強そうな連中が多すぎて明らかな戦力過多傾向ではありますが、それでも勇者がこの世界のどこかにいるというだけで心強さを感じる人々は少なくないはずです。

 かつての二代目(リサ)の活躍ぶりを思えば、本人不在の国や地域での治安改善や経済の活性化といった副次的効果も期待できるかもしれません。



『あとは、ほら。色々な国からお越しの皆さんがいる前で、勇者が特定の国や勢力に肩入れすることはないという意思表示をしておきたかったもので。正直、我としては紹介そのものよりこちらが本命ですね』



 相棒たるゴゴもなるべく見守るようにはするつもりですが、早い段階でそうした釘を刺しておかないと、素直なユーシャを口八丁で言い包めて自国や自勢力の御輿として担ごうとする連中が出てこないとも限りません。特にレンリなど機会があれば積極的にやりそうです。

 そうして勇者の威光を特定個人や集団に利用されないためにも、世界中の首脳陣や新聞社の取材が入る場というのは意思表明の絶好の機会。最初にビシッと言っておくだけで将来の面倒を大いに減らせることでしょう。



「ええ、是非ともユーシャ様のお披露目もねじ込みましょう。伯爵よ!」


「はっ、陛下! 心得ております。取り急ぎ、使者を送って各国から学都にお越しの皆様に連絡を」



 各国の代表が集う式典の予定変更となると一大事。

 だからこそゴゴとしても駄目元くらいの感覚で頼んでみたのですが、国王も伯爵も想像以上に乗り気です。前夜祭のために呼ばれたフレイヤやオルテシア女史は直接関係あるわけではないのですが、やはり同じように盛り上がっています。



「ふぅ、おかげで助かった。まったく勇者様々だな」



 本人不在ではありますが、ユーシャのおかげで難を逃れられたシモンは、一人密かに三代目勇者への感謝を捧げるのでありました。



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やっぱり、トラが出たのか? やっぱり、ハイにテンションMAXになる奴は危険だな? 迷宮にハハッー!する一同 よし、迷宮印の印籠を持たせよう。 〉はは、ウル君懲らしめてやるんだよ。 〉それは、おねーさん…
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