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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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嗚呼、懐かしきアイツとかコイツとか⑤


 どこかで見たような連中の酒盛りに巻き込まれたゴゴとユーシャ。

 まあ逃げようと思えばいつでも逃げられるわけですし、各人の関係性など興味がある部分もないではありません。持っていた料理を代価として色々と教えてもらうことにしました。



「そりゃオメェ、“鬼”のキガンといえばドワーフの間じゃ超の付く有名人よ! 五百年ちょい前くらいの魔族相手の戦争(ドンパチ)じゃあ、この馬鹿でけぇガタイで敵将をバッタバッタと殴り殺してな」


「……む」


「んで、戦の最後には自分の左腕を犠牲にしつつも決死の覚悟で当時の魔王に隙を作って、そこを初代勇者様がバッサリってな! 地下帝国(ウチ)じゃあ子供(ガキ)でも知ってる大英雄サマよ!」


「……否」


「なぁにが違うってんだ。こっちはそれを目の前で見てんだっての。オメェ、ちやほや持ち上げられるのが嫌だからって滅多に地元に寄りつかねぇしよぉ」


「……ぬ」



 現在はドワーフ皇帝がキガン翁の過去について語っているところです。

 なんでも彼らはかつて戦場で肩を並べて戦った戦友同士なのだとか。



「ほほう、御坊は初代勇者様と共に戦われたのか。ならば、うちのご先祖様とも面識があったやもしれんの」


「ああ、そういやこのジジイが聖剣を造るだ何だの言ってんのは、先祖が本物を見たからとかって話だっけか」



 レンリやその祖父である老賢者の先祖も、彼らと同じく五百年前の初代勇者と協力して魔族の軍勢と戦っていたのがキッカケで聖剣造りを始めたワケで。なんとも奇妙な縁もあったものです。



「あの頃は死に物狂いで大変だったけどよ、今となっちゃ良い思い出よ。賢者のジジイの先祖以外だと、ほれ、ちょうどこのG国ってなぁガリバニアの野郎の国だったな」


「是」


「そうそう、思い出してきた。三度の飯よりも剣を振るのが大好きな馬鹿野郎でよ。アイツの剣もワシが鍛えてやったヤツなんだよ。アレ、今どこにあんのかいの?」



 ちなみに今ちょっと名前の出たガリバニア何某というのは、このG国の五百年前の名君にして大剣豪。そしてシモンの遠いご先祖様でもあります。かつての勇者と肩を並べて戦った戦友の子孫が次代の勇者の弟子。単なるなりゆきと偶然の結果とはいえ、そこに歴史的なロマンを見出すのが悪いということもないでしょう。

 長命種族あるあるですが、酒の席での昔語りがついつい歴史の授業のようになっています。当時の戦友もドワーフやエルフを除く大半はとっくに墓の下。いずれ彼らが天に召された時に再会できる可能性はありますが、かつての友を懐かしんでか少しばかりしんみりした空気になってしまいました。


 とはいえ、そんな湿った空気も長続きはしません。



「ははぁ、ヒトに歴史ありっすねぇ。師匠ってば、自分のこと全然喋んないんすもん。いやまぁ、それ以外も全然……最近はちょっとはマシになってきた気がしなくもないっすけど」



 キガン氏と一緒に旅をしているバーネット嬢でも知らない話がザクザク出てきます。ちなみに、この神官二人がドワーフ帝国御一行様と一緒に行動しているのかについては、そう複雑な理由でもありません。

 なんでもドワーフ一行が式典に出席するために地下帝国から学都まで移動している際、たまたま途中の街道でキガン氏を見かけた皇帝が強引に引っ張ってきたのだとか。背丈は普通のドワーフの五割増し、体重に関しては三倍以上もありそうな規格外の巨体です。さぞや目立っていたのでしょう

 先程も軽く触れられていましたが、どうやらこの巨大な老僧は地元で英雄扱いされるのが居心地悪く、もう何百年も地下帝国に帰っていなかったのだとか。



「皇帝さん達と一緒だと毎日のご飯が豪華になるし、自分としては万々歳っすけどね。なるほど、その腕はそんな理由で落としちゃったんすねぇ」


「キガンよ、オメェ弟子の嬢ちゃんくらいには教えとけや。でな、どうにか戦争に勝ったまでは良いものの、敵も味方も散々に殺し殺されたせいかコイツってば戦うのがすっかり虚しくなっちまってよ」


『それで戦いの道も英雄の名声も捨てて、信仰の道に……ということですか。なるほど、ありがとうございます。興味深いお話でした』



 元々聞きたかったのとは少し違いましたが、ゴゴとしても素直に感心できる内容だったようです。よくよく思い返してみれば、過去に読んだ勇者物語の登場人物にキガンという名を見た覚えもありました。以前に学都で怪盗騒ぎがあった時には、このキガン氏がその勇者の盟友だとは夢にも思っていませんでしたが。



『今度、リサ様が落ち着いた頃にでも先輩に聞いてみましょうかね?』



 戦友や盟友というならば、現在は二代目勇者リサの愛剣であるゴゴの先輩、変幻剣もまた当時を知る生き証剣(しょうにん)であるわけです。いずれ当時の思い出を聞いてみたら、世間には知られていない興味深い歴史ネタが色々と出てくるかもしれません。

 日本との交流が無事に始まれば情報の出どころを秘匿する必要もなくなりますし、当時から生きている関係者の許可が下りるようならば、そうして出てきたアレコレを一般に公開してみるのも面白い。きっと世界中の勇者ファンや歴史学者が涙を流して喜ぶでしょう。


 ピザや揚げ物を適当に摘まみながら様々な話に花を咲かせ、ゴゴやユーシャも思いの外楽しい時間を過ごしていたのですけれど……。



『あっ、ボスがいるの! お久しぶりね!』


「げげっ、ウルちゃん!? ど、どうもご無沙汰っす……あとボスは勘弁して欲しいっす」


『はっ、そうだったの!? 我たちは世を忍んで活動する正体不明の美少女怪盗団。絶対に正体を知られちゃいけないのよ!』


「大声で言っちゃってるっすよ!? ていうか、この流れだとまさかコスモスさんまでいたりとかは……?」


『コスモスお姉さんは大事な用事で遠くまで行ってるの。うーん、久しぶりに美少女怪盗団再結成からの再活動ができたら良かったんだけど残念ね』


「そ、そうっすね、はは……ほっ」



 街中の公園で酒盛りをしていたのだから不思議はありませんが、たまたま通りかかったと思しきウルまで騒ぎに加わってきました。

 ちなみにウルの言う『美少女怪盗団』なる自意識過剰っぽい名前は、かつて彼女達が怪盗として学都の街で暗躍した際のチーム名。バーネット嬢は不本意にもその珍妙な集団のボスとして祭り上げられていたという、なるべく忘れたいけど一生忘れられそうもない過去があるのです。



「おお、ウル嬢ちゃんも来たんか! 来い来い、食い物もいっぱいあるぞ!」


『あっ、皇帝のおじいちゃんにお姉さんのお祖父ちゃんに……あれれ、ゴゴにユーシャまでいるのよ? 皆で公園でパーティーでもやってたの?』


『ええ、なんというか場の流れでそんな感じに』


『んもうっ、我を呼ばないなんて水臭いのよ! ほら、そういうことなら遠慮なく皆も来るの』


『ええと、皆とは……あ、いいです。大体分かりました』



 一応のおさらいですが、ユーシャと一緒に迷宮都市から来たばかりのゴゴとは別に、この学都にも別のゴゴが何人もいてそれぞれ活動していたわけです。そのゴゴの一人はつい先程まで第一迷宮『樹界庭園』にて、ウルや下の姉妹やそれ以外の参加者と彼女達らしい方法で存分に遊んでいました。

 もう日が暮れる時間ということで今日のところは数十分ほど前にお開きになり、ゴゴもそちらにいたボディを自身の第二迷宮へと戻していたのですが、ウルおよび他の数名は更に別の方法で交流を深めるべく、こうして街中をうろついていたのでしょう。元々は適当な料理屋か酒場を舞台に第二ラウンドを始める予定だったらしいのですが。



「ん?」


「やあ、ライム。こんなところで奇遇だね。たまには姉妹飲みというのも悪くないんじゃないかな。そうそう、今日は義弟君は一緒じゃないのかい?」


「仕事。そろそろ上がる。呼ぶ?」



 ライムなど早々に身内(タイム)の姿を見つけて、早くも飲み食いを始めています。今はシモンは一緒ではありませんが、この調子だと間もなく本日の仕事を終えるであろう彼も巻き込まれるのはほとんど確定でしょう。


 見れば彼女達のケンカ仲間である魔王軍四天王や、レンリの友人の令嬢達の師匠であるマギー女史まで、ちょっと目を離した隙に酒盛りの輪に加わっています。

 ドワーフ国でも人気のフレイヤが即興で歌い始めると、最初からいたドワーフ達もそれ以外も大盛り上がり。更には世界の歌姫がまさかのゲリラライブをやっていることに気付いた無関係の通行人までもが押し寄せてきて、まるで収拾がつく様子がありません。何を勘違いしてか、先程のゴゴ達のように料理やお酒を持ってきた人も少なくないようです。



「はっはっは、楽しいなゴゴ!」


『ええ、まあ、楽しくはありますけどね。とても抜け出せそうな空気ではありませんし、ルカさんのところに泊まるのは明日からにしましょうか?』



 この盛り上がりようでは、きっと今夜は夜明けまで騒ぎ通しになるでしょう。

 困ったように苦笑を浮かべるゴゴですが、彼女としても正直悪い気分ではありません。(ウル)やユーシャの教育に悪いような気もしましたが、たまにはこんな日も悪くはない。そんな風に割り切って、自分もまた素直に楽しむことを決めました。



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