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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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嗚呼、懐かしきアイツとかコイツとか④


 そんなワケでユーシャも久々に学都までやってきました。

 大陸横断鉄道に乗り込めばたったの半日。予算の関係で一等客車の個室とはいきませんでしたが、どうせ朝の便に乗れば夕方には着くのです。ユーシャも、そして相棒のゴゴも、周囲の乗客の声や気配が気になって落ち着かないような神経質な性質ではありません。



「はっはっは、久しぶりだな!」


『ええ。まあ我はこっちにも毎日いたんですけど』



 ユーシャが学都に来たのは昨年の夏以来。

 魔王の店が従業員への夏季休暇を導入した頃のことです。

 もう少し具体的には、ゴゴが変な害虫に身体を乗っ取られたり、黒っぽいイメチェンをしたり、最終的になんやかんや吹っ切れてさっぱりしたくらいの時期でしょうか。



「はっはっは、あの時は大変だったな!」


『ええ、それはそうなんですが。その件はそのあたりで何卒……』



 ゴゴにとっては人生最大の、神生最大の黒歴史。

 やむを得ない部分もあったとはいえ、彼女自身に非がなかったとはとても言えません。もちろん反省の気持ちはあるにせよ、好んで掘り起こされたくはないようです。



『こほんっ。それで、ユーシャ。もう日が落ちそうな時間ですし、先に泊まる場所を決めてしまいましょうか。最近の学都は宿屋が埋まりがちだそうですけど』



 やや強引な話題転換でしたが、泊まる場所を決めねばならないのは本当です。

 ゴゴも指摘したように、ここ最近の学都は宿屋の部屋数に余裕がない状況が続いていますが、なにしろ元はユーシャもこの街に住んでいたのです。



『ユーシャが前に住んでいた第二迷宮の部屋も残してありますし。もしくは、ルカさんが住んでるシモンさんのお屋敷でもいいかもしれませんね。もう、ルカさんのご家族相手にユーシャの素性を誤魔化す必要もないわけですし』


「うーん、迷うな」



 候補となるのは、ゴゴが挙げた第二迷宮かシモンの屋敷。

 あとは一応、レンリの居候先が挙がるくらいでしょうか。

 ユーシャとしては更にルグの部屋を候補として加えたいようですが、見た目成人女性の彼女が思春期の少年の部屋に出入りしているのを近所の住人に目撃されると、あとでルグが苦労しそうなのでゴゴが取り下げるよう言いました。



「じゃあ、今日はお母さんの家に行くぞ!」


『ええ、了解です。なにしろ急な話でしたからね。アポなしで押しかける形になってしまいますが、あの屋敷の皆さんなら大して気にすることもないかと。一応、途中で何か適当な持ち帰り料理でも買っていきましょうか』



 シモンの屋敷は常に部屋が余り気味ですし、ユーシャとゴゴがいきなり押しかけた程度なら問題にもならないでしょう。事前に連絡していないため少々驚くかもしれませんが、ルカもきっと喜んでくれるはずです。

 元々用意しているであろう夕食が足りなくなったら悪いので、道中で適当な料理屋の料理をテイクアウトしていくことも決定。単なる杞憂の可能性もありますが、今はラックも戻っていることですし、それを抜きにしても食べ盛り育ち盛りの若者揃い。ちょっとくらい夕食の品数が増えても持て余す心配はないでしょう。


 勇者と聖剣は目的地に向けて歩き出しました。





 ◆◆◆





 勇者と聖剣は元々の目的地に着く前に足を止めました。

 彼女達の手には折り畳み式の紙箱に入ったピザや、鶏肉やイモの揚げ物、それからデザート系の甘味類など色々あったのですが、シモンの屋敷まであとちょっとというタイミングで偶然にも顔見知りと遭遇してしまったのです。「した」ではなく「してしまった」というあたりから、ゴゴの心情が読み取れることでしょう。



「ガハハハ! 良い飲みっぷりだな、エルフの姉ちゃん!」


「ははは、なぁに、この程度なら水も同じさ! さあさあ、どんどん飲んで食べよう……おや?」



 公園で酒盛りをしていた様々な種族の集団。

 ヒト種やドワーフやエルフなど、なんともバリエーションに飛んだ酔っ払い集団の一人と運悪く目が合って絡まれてしまったのです。



「やあやあ、誰かと思えばゴゴちゃんにユーシャちゃんじゃないか!」


「あん? おおっ、本当にゴゴ嬢ちゃんだ。なんだ、エルフの姉ちゃんも嬢ちゃんの知り合いだったのか。世の中ってなぁ案外狭いもんだなぁ。そっちのノッポの姉ちゃんもニホ……あっちに行った時に見かけたっけか?」


『ええと……どうも。ご無沙汰しています』



 酔っ払いエルフはライムの姉であるタイム。

 一緒に呑んでいたドワーフ集団の一人は地下帝国の皇帝。

 どちらもゴゴと面識のある人物です。

 後者に関しては近日開催予定の式典に出席するために学都を訪れているのでしょうが、仮にも一国を治める皇帝陛下が公園で酒盛りしているとは、今や完成された神に限りなく近付いたゴゴも夢にも思いませんでした。



『ずいぶん盛り上がっていたみたいですけど、お二人は元々お知り合いだったんですか?』


「いや、違うよ? ちょっと用事で学都まで来て、宿代を浮かせるために前みたいにシモン君の家に泊めてもらおうと思ったんだけどさ、その途中でこのヒト達が楽しそうにお酒呑んでるのを見かけてね。ちょっと仲間に入れてもらおうかなって思ってさ」


「おうよ、楽しく呑める奴ならいつでも大歓迎だ! 賢者のジジイもそうだそうだって言ってるぜ」


「言っとらんわ! ま、たしかに同意見ではあるがの」


『あ、レンリさんのお祖父さんまで』



 知り合いの数は更に増えます。ドワーフの地下帝国で鍛冶と魔道の探求をしているはずのレンリの祖父まで一緒に盛り上がっていました。また一段と筋肉量を増やしたのか、魔法使いのローブが内側からの圧力で今にも張り裂けそうです。



『ははぁ、皇帝さんの随行員として?』


「おう、名目上はの。実際にはこの皇帝のジジイが学都まで行くっちゅうんで、それにくっ付いて行って孫の顔でも見に行こうかとな。随行員扱いなら旅費やら飲み食いの代金やらも全部ドワーフ国の税金から出してもらえるしな。ま、これが賢者とまで謳われた者の知恵ってとこかの」


「セコッ!? テメェ、このジジイ。なんか妙だと思ったらそんな魂胆だったのか。賢者が聞いて呆れらぁ!」



 なんとも逞しいことです。

 ゴゴも苦笑することしかできません。



「おっと、なんだか美味しそうな匂いがすると思ったら差し入れっすか? そんなら自分が預かっとくっす。皆さーん、肴のおかわりが来たっすよ!」


「うん、差し入れと言えば差し入れだな。じゃあ、頼む……あれ、キミは見覚えがあるぞ。誰だったかな?」



 しかも、知り合いとの再会ラッシュはまだ続きます。

 ユーシャが持っていたピザやら揚げ物やらの容器をさも当たり前のように受け取ったのは、オレンジ髪の神官服の少女。それほど深い関わりがあったわけではないので、ユーシャも最初のうちは忘れていたようですが、それも続いて現れた人物の姿を見るまでのこと。



「喝っ」


「ふぎゃっ!? いきなり何するんすか、バカ師匠!」



 少女の頭にとんでもなく大きな拳骨が落ちてきました。

 それを見て、ようやくユーシャもピンと来たようです。



「そうだそうだ、思い出した。キミは確か怪盗の子だな! で、そっちの大きいお爺さんがお師匠さんだな!」


『たしかウル姉さんと一緒に怪盗団をやっていた……バーネットさんでしたっけ? それと、そちらの大柄なドワーフの方がキガンさんでしたか。お二人は何故ここに? ドワーフ繋がりのご縁か何かでしょうかね?』



 神官少女にして怪盗少女バーネット。

 隻腕の老怪僧キガン。 

 何故だか理由は分かりませんが、かつて学都で起きた騒動でゴゴやユーシャとちょっとした縁があるこの二人までいるようです。



『ええと、とりあえずその食べ物は皆さんに差し上げますので。別に盗まれたとか騙し取られたとかではないので、キガンさんもあまり怒らないであげてくださいね。それで、その代わりというわけでもないですけど、少しお話を聞かせてもらっても?』



 まさかまさかの知り合い大集合。

 ゴゴとしては今からでもこの混沌渦巻く場から逃れたい気持ちもあるのですが、様々な疑問を放置したまま立ち去るのもそれはそれで落ち着かないものがあったのでしょう。勇者と聖剣が今宵の宿に辿り着くまでには、今しばらくの時間がかかりそうです。



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― 新着の感想 ―
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