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迷宮アカデミア ~咲き誇れ、きざはしの七花~  作者: 悠戯
十五章『新世界に至る道』

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嗚呼、懐かしきアイツとかコイツとか①


 あちらこちらから学都に集まりつつある人々。

 その中には互いに多少なりとも縁のある者同士も少なからずおり、期せずしてちょっとした同窓会のようになっている側面もありました。


 例えば、シモンの屋敷の玄関先にて。



「やあやあ、愛する弟妹達! 大好きなお兄ちゃんのお帰りだぞぅ!」


「あ、お兄ちゃん……今、お掃除中だから……ちょっと、そこ、どいて?」


「ふふふ、この雑にあしらわれる感覚も久しぶりだねぇ」



 まあ誰もが諸手を挙げて歓迎されるわけではありませんが、概ね歓迎的なムードではありました。アルバトロス一家の長兄ラックは、誰にでも心優しいルカにしては珍しく雑な対応をされていましたが、そこはこれまで積み重ねてきたあれやこれやのせいなので、つまりは単なる自業自得。そういった対応含めて再会を喜んでいるフシもあるので、特に気遣う必要もなさそうです。



「お掃除……おしまい。お帰りなさい、お兄ちゃん」


「うん、ただいま。いやぁ、ルカが元気そうで何よりだよ。あ、今日からしばらくこの家に泊めてもらうから」



 玄関に続いてキッチンとお風呂の掃除まで丁寧に終わらせてから、ルカはようやくラックに向き合いました。相変わらずのヘラヘラ笑いに、ルカと同じ薄紫色の長髪。前との違いといえば、少しばかり肌が焼けているくらい。きっと様々な土地を巡る中で日焼けでもしたのでしょう。あるいは、恋人を怒らせたせいで直火で炙られたという線もありそうですが。


 彼が学都を出てからというもの、鷲獅子ロノの遊覧飛行の仕事は長女のリンが引き継いで、そちらは特に問題がないのですが……なんなら美人が御者を務めることになった影響でラックの時より売上が伸びているくらいなのですが、それは家事に専念できる人間がいなくなったことも意味します。


 いくら年齢の割にしっかりしているとはいえ、体力や体格の問題で末弟のレイルに任せるわけにもいきませんし、自然とルカが家事を担う割合が以前より増えているのです。掃除が一段落するまで放置していたのも、自分が始めた仕事を無責任に放り出して恋人のところへ転がり込んだ長兄への遠回しな嫌味などではありません。


 この規模の屋敷であれば、素直に住み込みの使用人の一人や二人くらい、なんなら十人や二十人くらい雇ったほうが良さそうなものですが、そこはルカが持ち前の人見知り癖を発揮して、家の中に知らない人間が四六時中いるよりは自分が頑張ったほうがいいと珍しく頑固に主張した形。

 ちょっと寂しくはあるのですが、最近はアイも姉の迷宮達と一緒にいることが多いので、付きっ切りで育児に専念する必要もなくなりました。冒険者としての仕事も神造迷宮の探索における護衛という本来の意味合いを失って久しく、今ではほぼ完全にレンリのお世話係。そちらに関してはルグだけに任せられる時間も多いので、こうしてじっくり家事に専念できるというわけです。「将来の花嫁修業のため」という真の理由は、ルカの心の中だけの秘密ですけれど。



「それは、大丈夫……だと、思うけど……恋人さんと、上手くいってない、の?」


「そんなことないって、毎日それはもうラブラブさぁ! ちょっとこう心と身体の距離を詰めようとすると、恥ずかしがって燃やされそうになるけど。あと、イメージ商売だからって人前ではそういう気配を見せないように先輩に釘を刺されてるけど。それがなくても毎日練習と本番の連続で、二人揃っての自由なプライベートの時間っていうのがあんまり……」


「た、大変そう……だね?」



 ラックも覚悟していたつもりではあるのでしょうが、世界的な大スターとの交際というのは想像以上に気を遣うものである様子。いざ振り返ってみると、新聞や街の噂などでかの歌姫が誰かと交際しているとか結婚の予定があるといった話は、ルカも全く聞いたことがありませんでした。そこはやはり人気者のイメージに傷が付いて一座の仕事への悪影響が出ないよう、厳格な情報統制が敷かれているのでしょう。



「まあ今回はせっかくの帰郷だし……いや、故郷とは別なんだけど、なんていうか気分的に? 家族のいるトコでの仕事なんだから顔でも見せて来いって、フレイヤちゃんや一座の皆に言われてさ。劇場艇もいざ住んでみると意外と居心地はいいんだけどさ、こっちはこっちで住み慣れてるし。仕事は仕事でちゃんとあるから、結局は艇まで毎日通わなきゃなんだけどねぇ」


「そっか……なんだか、業界の人……って感じ、だね」


「そうそう、未来の敏腕マネージャー様は色々と大変なのさぁ」



 以前を思えば、ラックも随分と働き者になったものです。

 お金に困って列車強盗を企んだのと同一人物とは思えないほど。

 その変わりようが遠くに行ってしまったようで寂しくもあり、立派に自立しているようで頼もしくもあり。ルカとしては複雑な心持ちであったりもするのですが、ここで下手なことを言って元の怠け者に戻ったりしては、なんなら反動でダメ人間具合がパワーアップして無職のヒモになったりしては台無しなので、もちろん口には出しませんが。



「そ、それで……フレイヤさん、は……お仕事中?」



 将来の義理の姉候補だから親しくしておきたいというだけでなく、ルカは個人的にも歌姫フレイヤの大ファン。以前に貰ったサイン入り台本は、宝物として自室の引き出しに大事にしまい込んであります。

 できることなら今回もお喋りをしたり歌を聴いてみたいところではありますが、なにしろ相手は世界の大スター。ルカの素人考えではありますが、普通に想像する限りではマネージャー見習いでしかないラックとは多忙さのケタが違うはず。もしスケジュールが詰まっているなら、ワガママを言って困らせるわけにもいかないだろう……と、ルカは相変わらずの控えめさで予定を把握しているであろう兄に尋ねてみたわけですが。



「ああ、フレイヤちゃんなら今は劇場艇でお客さんの対応中。学都に来るまで僕らも知らなかったんだけど、なんでも魔界時代の同僚の人達も学都に来てたとかでさ。僕がここに来る前に見た時は、もう皆でお酒飲んでベロベロに出来上がってたねぇ」



 懐かしい顔との再会を果たしたのは、何もルカ達だけではありません。ここ数日、学都のそこかしこで似たような出来事がいくつも起こっていたのです。



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― 新着の感想 ―
再会に個人差の有る事に定評がある兄 とりあえず、リア充燃え上がれ。
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